驚くほどボブ・ディランが重なるティモシー・シャラメ 青春音楽映画『名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN』レビュー
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映画『名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN』が2月28日より公開。作品レビューをお届けします!
第97回アカデミー賞で作品賞、監督賞など全8部門にノミネート。主演のティモシー・シャラメが本作のPRのために1年3ヵ月ぶりに来日し、多くのファンの声援に応えたことも記憶に新しい『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』。ティモシー・シャラメが演じるのは20世紀最大の詩人/ソングライターのボブ・ディラン。言わずもがな、2016年にはミュージシャンとして初めてノーベル文学賞を受賞した生きる伝説である。
舞台は1961年。19歳のミネソタ出身の無名のミュージシャン、ボブ・ディランはギターを片手にヒッチハイクでニュヨーク・マンハッタンに到着。敬愛するフォークシンガー、ウディ・ガスリー(スクート・マクネイリー)に会うためだ。難病を患い退役軍人病院に入院しているガスリーを発見したディランはガスリーのために作った曲を歌う。その場にいたガスリーの親友であり人気シンガーのピート・シーガー(エドワード・ノートン)はディランの才能を見抜く。
ディランがシーガーと出会いフォークシンガーとして歩み始める1961年から、時代を象徴となる存在になり、ニューポートで開催されているフォークフェス「ニューポート・フォーク・フェスティバル」で大観衆の前でエレクトリック・ギターを手にし、賛否両論を巻き起こしたあのロック史に刻まれた重要なシーンまでの約4年間の出来事が描かれている。生い立ちから晩年までを描いているわけではないので、本作は伝記映画というよりは、19歳からの青年期の蒼い輝き、葛藤、恋、孤独、自我の成長を描いた青春音楽映画と言っていいだろう。
まず心を奪われるのは、本作のプロデュースも務めたティモシー・シャラメである。本作は2019年に製作はスタートしたが、コロナによるパンデミックやストライキの影響でクランクインは2024春まで延びた。この空白の期間を使い、ティモシーは歌唱とギターやハーモニカといった楽器の練習、ディランの動きを研究し、ディランを憑依させていった。結果、見事なティモシー版ディランが誕生している。しかも劇中のティモシーの歌唱及び演奏は事前録音でなく、現場でのライブによるパフォーマンスなのだ。ディランのフォルム、ディランの口調、ディランのヴォーカリゼーション、ディランのギタープレイ……劇中のティモシーには驚く程、ディランが重なる。アカデミー賞をはじめ、多くの映画賞の主演男優賞にノミネートされていることに異を唱える者はいないだろう。ディランの名曲の数々が生み出された瞬間を見事な演技で堪能できる。
ティモシーに加え、ピート・シーガー役のエドワード・ノートン、ジョーン・バエズ役のモニカ・バルバロ、ジョニー・キャッシュ役のボイド・ホルブルックといった実在したミュージシャンを演じたキャストたちもみんな自らが歌唱していて、それぞれが素晴らしい歌&演奏を披露しているところも特筆すべき点だ。
監督はジョニー・キャッシュを主人公にした「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」や「フォードvsフェラーリ」等を手がけた名匠ジェームズ・マンゴールド。ディランの生き様を丁寧に骨太に描き、青春音楽映画の傑作を生みだすと同時に、自由のために音楽があり、音楽のために自由があるということを知らしめている。
【レビュワー】小松香里
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