「面白い試み」「いろいろ応用できそう」 オンライン講義に「ニコニコ動画方式」を導入した当事者が語る効果と課題
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、オンラインでの講義や講習が増えていますが、質問の機会が掴めないことや、場の一体感を作りにくいなどの課題が上がっています。
そんな中、兵庫教育大学生活・健康・情報系教育コースの小川修史准教授(@ogatti21)が、講義で「ニコニコ動画方式」を導入したとツイートしたところ、約15000のRTと96000以上の「いいね」を集めて話題となりました。
オンライン講義で「質問のある方はチャットに書き込んで下さい!」ってよく言うけれど、学生の立場からするとかなり質問しにくい事に気づいた。そこで、匿名で画面上にコメントが流れる「ニコニコ動画方式」を導入したところ、あまりにも自然に質問が出てきて驚いたんですよね。— 小川修史(おがっち)インクルーシブについて斜め135度から考える研究者 (@ogatti21) May 23, 2022
オンライン講義で「質問のある方はチャットに書き込んで下さい!」ってよく言うけれど、学生の立場からするとかなり質問しにくい事に気づいた。そこで、匿名で画面上にコメントが流れる「ニコニコ動画方式」を導入したところ、あまりにも自然に質問が出てきて驚いたんですよね。
「面白い試み」「うちの講義にも欲しい」といった声のほか、「いろいろな場面に応用できそう」という反応も寄せられていたこのツイート。ここでは、人間の多様性の尊重等の強化や、障害のある者が教育から排除されないことを主眼のするインクルーシブ教育の研究者でもある小川准教授に、「ニコニコ動画方式」導入の効果や今後の課題についてお聞きしました。
使ったのは以前バズった際にご紹介頂いたComment Screen(コメントスクリーン)というサービスです。20人以下であれば無料でお試しできます。https://t.co/MTrOQHQKFH— 小川修史(おがっち)インクルーシブについて斜め135度から考える研究者 (@ogatti21) May 23, 2022
――もともと、オンライン講義ではどのようなサービスを使っていたのでしょうか?
小川修史准教授(以下、小川):基本的にはZoomのチャット機能のみを用いていました。ただ、チャットだと名前が表示されるので、盛り上げるのが難しいという難点がありました。
――「ニコニコ動画形式」にしてみることを思いついたきっかけは?
小川:相手の顔が見えず、こちらが一方的に話す講義だったので、何かしらのコミニケーションをしたいな、と考えていました。そこで、チャット機能を活用し、「www」や「草生える」など、敬語不要の投稿を許可したところ、学生からはかなり好評でした。ただ、それでも匿名でないので投稿を躊躇する学生もいました。そこで考案したのが「ニコニコ動画」方式で、匿名で入力できるComment Screenを導入することにしました。
CommentScreen紹介動画(YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=D-Sq5TGrQfI [リンク]
――「自然に質問が出てきた」ということですが、その理由をどのように分析していらっしゃるのか、教えてください。
小川:繰り返しになりますが、匿名だったことが大きいと思います。あと、「質問があることを書き込んでください」的なフリをしたので、学生も質問しやすかったのかもしれません。
――ツイートでの反応について、ご感想をお願いします。
小川:予想以上の反応に驚いています。同時に、オンライン講義の問題点が指摘される中、こうしたコミュニケーション機能に対するニーズが高いのだと思います。
――ご専門のインクルーシブ教育は、「障害のある者とない者が共に学ぶ仕組み」と理解していますが、今回の「ニコニコ動画形式」も人間の多様性や誰もが参加できるようにする試みだということですね。
小川:私は元々「障害の有無などに関わらず、どうすれば目の前の人が楽しく参加できるか」を追求する研究者で、今回の「ニコニコ動画形式」も「発言できない」と言う困難さを解消し、講義に楽しく参加するための工夫になります。
――こうしたインクルーシブ教育という観点から、課題についてどのように考えていらっしゃるのでしょうか?
小川:受講生が多い中、多様なニーズに個別に答えることが難しいと考えられます。例えば受講生の中に視覚障害の方がいた場合、多くの受講生の情報量を減らすことなく、視覚障害の方に提供する情報量を保障する。これはやはり、工夫がないと実現することができません。ここで、工夫をして「あげる」という感覚で配慮をしたとしても、きっとお互いにとってメリットが少ないと考えられます。「どうすれば講義を楽しめるか?」という感覚を持ちながら実践すること、この感覚がないとなかなかインクルーシブを実現することはなかなか難しいと考えられます。
――なるほど。ただ配慮して材料を用意するだけでは充分でないという話ですね。
小川:あと、障害当事者と「一緒に考える」という部分が圧倒的に足りていないと現場にいて感じます。例えば、一概に視覚障害といっても、様々なバックグラウンドがあり、その特性も異なる。つまり「視覚障害だからこの対応で良い」といった模範解答がないわけです。つまり、どれだけ当事者の話を聞けるか、そして、配慮内容について一緒に考える事が出来るかが重要です。
記者会見を開き、パリでのファッションショーの日程や会場等の情報を解禁致しました。日時 2022年9月27日(火)場所 Maison de la culture du Japon à Paris(パリ日本文化会館)障害の有無、性別、年齢といった障壁なく、誰もが心躍るファッションショーを目指します。応援宜しくお願いします。 pic.twitter.com/WpbOpxH3Z9— 小川修史(おがっち)インクルーシブについて斜め135度から考える研究者 (@ogatti21) May 30, 2022
一般社団法人日本障がい者ファッション協会副代表でもある小川准教授は、研究の一環としてユニセックススカート『bottom’all(ボトモール)』のリリースにも関わっており、「車いすでパリ・コレクションのランウェイ」という目標を掲げていましたが、2022年9月のPFW(パリ・ファッション・ウィーク)期間中にショーを開催することになりました。「障害の有無や性別に関わらず、誰もが心躍るファッションになります。応援よろしくお願いいたします」と話す小川准教授の「共生社会」に向けた取り組み。今後の活動にも注目です。
CommentScreen
https://commentscreen.com/ [リンク]
Wheelchair Fashion Row 2023 ss
https://jpfa-official.jp/wfr/ [リンク]
乙女男子。2004年よりブログ『Parsleyの「添え物は添え物らしく」』を運営し、社会・カルチャー・ネット情報など幅広いテーマを縦横無尽に執筆する傍ら、ライターとしても様々なメディアで活動中。好物はホットケーキと女性ファッション誌。
ウェブサイト: https://note.com/parsleymood
TwitterID: ryofujii_gn
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