優勝した。優勝できた。
イタリア・セリエA2021-22シーズンの最終節が5月22日に行われた。
我らがACミランはサッスオーロに3-0で勝利。前回王者で終生のライバルである2位インテルとの優勝争いを制し、11年ぶりのリーグ優勝を成し遂げた。通算19回目の優勝となった。
ミランは立っているべき舞台から11年も遠のいていた。
後にイタリア首相となるシルヴィオ・ベルルスコーニが1987年に会長の座につき、ミランは黄金期を迎えた。1000億円以上とも思われる私財をつぎ込み、チームを強化。スーパースターを揃えてセリエA優勝8回、チャンピオンズリーグ5回優勝などまさに黄金期を迎えた。
イタリア、ヨーロッパサッカーの主役として20年以上輝き続けたミランだったが、2010-11シーズンでのセリエA優勝を最後に低迷期を迎える。ヨーロッパサッカー界にロシア、中東、アメリカなどEU外の巨大資本が流入。競争が激化するとミランの財政は悪化していき、主力放出が目立つようになった。
ズラタン・イブラヒモビッチも2010-11シーズンにミランで優勝を経験し、その後に移籍でチームを離れた。この時期はチームを長く支えた様々な選手が放出されたが、このイブラヒモビッチ放出から数年、ミランは経験したことがないほどの低迷期を過ごす。
内部の権力争いから監督が1年ごとにコロコロ交代。本田圭佑はこの低迷期真っ只中の2014-15シーズンの冬のマーケットでミランに入団した。本田以外にも様々な補強を行ったがほとんどの選手が定着できなかった。
クラブの経営も迷走。ベルルスコーニが撤退し、2017年に謎の中国人投資家ヨンホン・リーに買収されたかと思えば、わずか1年後にはその買収資金を返済できなかったリーの手から貸主であるアメリカ投資ファンド・エリオットが「借金のカタ」という形で取り上げて新オーナーの座に収まるという名門クラブとは思えないドタバタ劇を繰り広げてしまう。
しかしこのオーナー交代劇から少しずつミランは上昇し始める。
2018年夏に経営権を取得したエリオットは、クラブの運営をプレミアリーグ・アーセナルでCEOを務めたイヴァン・ガジディスに委ねた。カジディスはベルルスコーニ時代から続いていた赤字経営体質を脱却させるべく、年俸が低いが将来有望な若手主体のチームに切り替えて支出を抑えようとした。この赤字脱却は新型コロナウイルス流行の影響もあり、現在でも完璧に改善はされていないものの、好転しつつあることは間違いない。
改善しつつあるクラブに舞い戻った男がいる。ズラタン・イブラヒモビッチだ。
コロナ禍直前の2020年1月、当時38歳となっていたイブラヒモビッチは、メジャーリーグサッカーのロサンゼルスギャラクシーからミランに加入した。かつてのエースストライカーも38歳。古巣に戻っても以前の輝きを汚すだけなのではという懐疑的な意見も多かった。しかし若手主体のチームに勝者のメンタリティーを伝え、プレーでも得点を量産。2020年のイブラヒモビッチの加入後、ミランは12試合9勝3分と無敗で終える。
解任が規定路線だったピオリ監督も続投。イブラヒモビッチも残留して迎えた2020-21シーズン、前半戦を通して首位を走り、後半戦に失速したものの最終的には首位インテルに次ぐ2位となって8年ぶりにチャンピオンズ出場権を取り戻すという1年になった。
そして2021-22シーズン。背番号10を背負っていたハカン・チャルハノール、下部組織出身でバンディエラ候補だったGKジャンルイジ・ドンナルンマが移籍。苦戦も予想されたが、リールから移籍したGKマイク・メニャンがしっかりとスタメンに定着。ドンナルンマ以上の働きを見せると、攻撃陣では新加入の優勝請負人オリビエ・ジルーも活躍。ケガ人が出て不安視されたCBも21歳ピエール・カルルが覚醒。イブラヒモビッチは精神的支柱となるだけでなく、故障の影響で出場試合数は減ったが8ゴールとしっかり戦力に。勢いそのままに駆け抜け、11年振りの優勝を勝ち取った。
終わってみれば最後は16試合負けなし。最後の敗戦は2022年1月17日と2022年はほぼ無敗。平均年齢26歳はヨーロッパ5大リーグ最年少チャンピオンとなった。
さぁ次はビッグイヤー、チャンピオンズリーグ優勝だ。
課題はまだまだある。まずはズラタン・イブラヒモビッチからの脱却。偉大なるミラノの王だが、10月で41歳となる。プレイヤーとしても精神的支柱としても、いつまでも彼だけに頼ることはできない。優勝を経験し、文字通り勝者となった今の選手たちの中から、次の王が出て来なければ、この輝きは一瞬で終わってしまいそうな予感がする。
そして近年、イタリアサッカーは苦しんでいる。2大会連続でワールドカップ出場を逃し、チャンピオンズリーグも2009-10シーズンのインテルが最後の優勝となっており、対ヨーロッパの舞台で苦戦を強いられている。ミランも今季、チャンピオンズリーグの予選で敗れている。イタリアサッカー、ミランが再びヨーロッパの頂点に立つためには、監督、選手と今まで以上に成長しなければならない。
歴史的な節目を残し、長い長いトンネルを抜けつつあるミラン。健全経営と若手育成。新たなスタイルで再び相応しい立ち位置に戻ることができるのか。始まったばかりの名門クラブの復権をこれからも応援し続けていきたいと思う。
(Written by ミラニスタ鉄朗)