フィリピン大統領選で在日フィリピン人たちの本音を聞いてみた なぜ独裁者の息子は大人気なのか 英雄・パッキャオは「ボクシングだけ」と辛らつ

5月9日(月)、現職のロドリゴ・ドゥテルテ大統領(77)の任期満了にともなう、フィリピン大統領選挙が行われ、フェルディナンド・マルコス元上院議員(64)が圧倒的得票数で当選した。レニー・ロブレド副大統領(57、女性)やマニー・パッキャオ上院議員(43)らは落選となった。マルコスといえば、父マルコスの負の印象が強いだけに今回の結果は正直、非常に驚いた。
これに先だって、僕は周りにいるフィリピン人たちに誰を支持するか聞いて回っていた。20年にわたってフィリピンを支配した独裁者の息子がなぜ大統領として選ばれたのか。
世界戦を行えば、テレビの視聴率が50%を超えたという国民的英雄ボクサーで、慈善活動に積極的なパッキャオがなぜ好かれなかったのか。その理由を生の声から探ってみたい。
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元出稼ぎ女性3人に聞くと、何かを連呼して、勝手に盛り上がりはじめた。
「BBA!BBA!」
バブルのころにやってきた元出稼ぎ女性たちも40~50代。すっかり年をとった自分たちを自虐的に言って、なにが嬉しいのだろう。
首をかしげていると、彼女たちは続けた。
「ボンボン・マルコス! ボンボン・マルコス!」
ここでいうボンボン・マルコスとはフェルナンド氏のニックネーム。つまり独裁者の息子を、元出稼ぎ女性たちは選んだのだ。しかしなぜ、マルコス氏をなぜ選ぶのだろうか。彼女たちはなぜ自分たちのことをババアと自虐的に言うのだろうか。
理由を聞いてみたかったが、叶わなかった。自分たちをババアババアと言う謎のコールに僕の質問の声はかき消されたからだ。
別のAさん(40代後半、女性)もマルコス推し。彼女はマルコス支持の理由について話してくれた。
「父マルコスは経済を良くした。ボンボンにも期待してる。イメルダさん?ボンボンさんが尊敬する立派なママよ」
一方で彼女はパッキャオについては辛辣だった。
「大学すら出てないボクシングしか出来ないバカ。ダメだよ。討論会で経済のこと聞かれて、『神さまがなんとかしてくれる』っていうんだよ、ハハハッ」
ミンダナオ島に住む英語教師(25・女性)は心情的には同郷のパッキャオ支持だった。しかし大統領にしたいという気持ちとは別なのだという。彼女は消極的な理由でマルコス支持だった。
「寄付をしたり、公民館を作ったり。パッキャオさんはミンダナオ島に建物をたくさん建ててくれた。すごく立派な人。だけど経験が足らないよ」と言って残念そうにした。
マルコスの後、政権をとったアキノ一族と比較してマルコスを支持する人もいた。
「父マルコスの後のアキノ政権で経済が破壊されたでしょ。父マルコスの時代に経済発展を果たしたのにアキノ一族がぶち壊しにした。ボンボンにはぜひまた経済を発展させてほしいわ」(セブ島在住の英語教師・31・女性)
話しを聞かせてくれたフィリピン人たちに共通するのは、「独裁者父マルコスの悪業の数々について、よく知らない。実感がない」ということだった。
●マルコス負の歴史
ボンボン・マルコス氏の父親、フェルナンド・マルコスの約20年間の独裁体制について振り返っておく。
大統領に就任した当初である1965年から70年代初頭、父マルコスは、インフラ整備を積極的に行ったり、経済振興策を推し進めたりして、経済成長を大いに果たした。しかし1972年、全土に戒厳令を敷き、独裁体制を強化している。
「国際団体は拘束や拷問、失踪、殺害などの被害者は10万人超と推定、一族による推計50億~100億ドルの不正蓄財も明らかに」(東京新聞2022年5月7日号)
やりたい放題の父マルコスに対し、やがて国民の不満が爆発する。1986年には革命が起き、マルコス一家はハワイへ亡命した。彼らが明け渡したマラカニアン宮殿からは、イメルダ・マルコス夫人がコレクションした高級な靴が1000足以上、そのほか高級ランジェリーや高級バッグなど、贅を尽くした品々の数々を不法蓄財していたことが明るみになり、世界中を激怒させた。
10万人超の人を捕らえたり、拷問したり、殺したりした独裁者の父と、靴のコレクションで有名なイメルダ夫人を両親に持つボンボン氏と、身体一つで稼いだ巨額の富を祖国に還元する国民的英雄のパッキャオ。
二人を比較すると、個人的には、圧倒的にパッキャオの好感度が高い。彼こそ大統領にふさわしい。僕はそう思っていたが、フィリピン人の思いは違うところにあった。
●フィリピン人は誰もマルコスを知らない
ではなぜ、マルコス氏がこんなに人気があったのか。実際のところ選挙について、オンラインを使って、知り合いのフィリピン人記者に聞いてみた。
――今回、マルコスの圧勝となりました。なぜマルコスはこんなに人気があるんですか? 彼の父親は独裁者だったのに。
「良い質問ですね!! 若者は歴史を知りません。SNSに書いてあるフェイクニュースを簡単に信じちゃうんです。もちろん私はそれが嘘だとわかっています。だから私はマルコスに投票しません」
マルコスは任期前半の経済成長だけを言いつのり、負の部分について、なにも言わない戦略で勝利したのだ。
記者には個人的な疑問もぶつけてみた。
――BBA、BBAってコール、どういう意味なんですか? 日本に住んでいる知り合いのフィリピン人の中年女性たちははBBA、BBAってコールして盛り上がってます。
すると記者は、「マルコス支持だなんて信じられない」という表情を浮かべたあと、次のように教えてくれた。
「それはBBAじゃなくて、BBMね。でそのBBMだけど、ボンボン・マルコスのイニシャルです」
なるほど、出稼ぎ女性たちが自分たちのことを「ババアババア」と自虐的に言っているわけでは、やはりなかったのだ。
フィリピンは今後どうなるのだろうか。ボンボンが、父マルコスのような独裁者とならず、6年後、平和裏に次の人に政権を渡すことを願うばかりだ。(文@西牟田靖)
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TABLOとは アメリカが生んだ、偉大な古典ミステリーの大家レイモンド・チャンドラー作品の主人公フィリップ・マーロウの有名なセリフがあります。 「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない」 人が生きていく上で、「優しさ」こそ最も大切なものであることを端的に表現した言葉です。優しさとは「人を思いやる気持ち」であり「想像力を働かせること」です。弱者の立場に立つ想像力。 「人に優しく」 これは報道する側にも言えることだと思います。 現在、ヘイトニュース、ヘイト発言、フェイクニュースがネットの普及に従い、増大しており、報道関係者の間では深刻な問題となっています。そこには「人に優しく」という考えが存在していません。 なぜ、ヘイト(差別)ニュースがはびこるのか。「相手はどういう感情を抱くのか」という想像力の欠如がなせる業です。ヘイトによって、人は人に憎悪し、戦争が起き、傷ましい結果をもたらし、人類は反省し、「差別をしてはならない」ということを学んだはずです。 しかし、またもヘイトニュースがはびこる世の中になっています。人種差別だけではありません、LGBT差別、女性差別、職業差別等々、依然としてなくなっていないのだな、ということは心ある人ならネットの言論にはびこっていることに気づいているはずです。本サイトはこのヘイトに対して徹頭徹尾、対峙するものです。
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