「吉祥寺かるた」の地元愛がすごい!「中央特快とまってよ~」「サンロード 猛ダッシュしたら60秒」など
2021年度グッドデザイン賞を受賞した「吉祥寺かるた」。「中央特快とまってよ~」「吉祥寺というお寺はありません」の吉祥寺あるあるネタに加え、「どれだけあるの?三舟のメニュー」「漬物バーでうずらのキムチ」など、SNSで集まった、地元民しかわからない読み札が大きな話題に。今回はその仕掛人に「吉祥寺かるた」が生まれた経緯や目的、新たな試みについてお話を伺った。
自分たちがつくるラブレター。送る相手は慣れ親しんだ「吉祥寺」
「吉祥寺かるた」の仕掛け人、徳永健さん。本業はクリエイティブディレクターだ。
吉祥寺のデザイン会社・クラウドボックスの代表でもある徳永さん。「吉祥寺かるた」は2021年度グッドデザイン賞を「コミュニティづくりの取り組み・活動」カテゴリーで受賞。写真は吉祥寺駅北口のサンロード前にて(写真撮影/片山貴博)
「長年、僕たちは多くのお客様の広告をはじめとした、“表現”のお手伝いをしてきました。それを僕たちは“ラブレターの代筆屋”と呼んでいて、ユーザーに思いを届けることを念頭においています。吉祥寺にオフィスを構えて10年経ったタイミングで、“自分たちのラブレターを書こうよ。その相手は吉祥寺がいいよね”という話になったんです」
吉祥寺に関するプロダクトはどんなものがいいか考えていた2019年の秋、たまたまご当地かるたで遊ぶイベントを開催。
「ご当地かるたをすると、そこに旅したくなるよね、だったら吉祥寺を題材にしたかるたもいいんじゃない、って話になったんです。そこに地元のタウン新聞の編集長がいて、“来年の正月号の見開きで特集しましょうか?”って言ってくれたことで、急遽、制作スケジュールが決まりました(笑)」
「吉祥寺の魅力」「吉祥寺の名所・名物」「吉祥寺あるある」などを46枚の言葉とイラストで表現した、吉祥寺の「ご当地かるた」(2200円 送料・税込)(写真撮影/片山貴博)
読み札はSNSで募集。偏愛にあふれたネタが300超集まる
ご当地かるたは読み札が肝心だ。
「吉祥寺のみんなでつくって、みんなで遊びたい」という思いもあり、広くSNSで募集することに。応募方法は「#吉祥寺かるた」をつけるだけでOK。匿名で良し、とした。
「かるたって日本人なら誰でも知っているゲームじゃないですか。だからひと言”かるたの読み札を考えて”っていうだけで説明できちゃうのが強かったですよね。文字数のイメージもつきやすい。ネタは300以上集まりました。これがもう面白くて。めちゃくちゃニッチだけど絶妙に面白い“それ君だけの経験だろ”みたいな投稿もあって(笑)。これって、採用された人には謝礼とか、大賞に賞金、という設定にしてしまうと誰もが正解を書こうと狙ってしまうから、ここまでバリエーション豊かなネタにならなかったと思うんです。とにかく参加のハードルを下げたことで、偏愛に満ちたネタがいっぱい届きました」
また「かるたの札を考えること」は自分のなかにある地域愛に向き合うこと。それを言語化することで、その愛がはっきりして、深まっていく。「46の読み札によって、街の姿が46面体で浮かび上がってくる。他にはない、リアルで個性的な街のガイドブックになるんです」
(写真撮影/片山貴博)
選ぶときに気をつけたのは、取り上げる対象に優劣をつけず、偏愛を大事にすること。そして自虐はあってもいいが、それを読んで傷つく人がいないことだ。
「例えば、吉祥寺からかなり離れた場所に住む人も『吉祥寺在住です』と言いがち、というネタを描いた”ええじゃないか関町南も吉祥寺”という読み札があるんですが、これがもし”関町南は吉祥寺とは呼べないでしょ”みたいな札だったら、そこに住む吉祥寺大好きな人はがっかりするじゃないですか。そういうところは誰でも笑える表現になるよう気をつけました」
さらに選定した読み札は、内容が真実かどうかの検証実験も。
例えば「サンロード 猛ダッシュしたら60秒」は、早朝の誰もいない商店街を走って検証。「まゆげスワンが一羽だけ」は実際に井の頭池まで行き、スワンボートを確認。「闇太郎のシメは大将がくれるリンゴ」は、実際のお店で飲み食いをして実証した。
採用するネタは可能な限り、調査、実証。「ただし商店街ダッシュは真似しないでください」(写真撮影/片山貴博)
吉祥寺好きなら一度は疑問に思うアレコレも読み札に(写真撮影/片山貴博)
ハモニカ? ハーモニカ?(写真撮影/片山貴博)
誰もがルールのわかる「かるた」は、世代を超えて遊べる強み
そうして2019年の年末に「吉祥寺かるた」が完成。翌年にはイベントも開催した。
「かるた」は、老若男女問わず参加できるのが強みだ。かるたで遊ぶと、世代を超えて「吉祥寺が好き」という共通の感情で場が盛り上がり、ある意味「ファンミーティング」状態が生まれる。また、吉祥寺をよく知らない人が参加しても問題はない。「これってどういうこと?」「へー、面白い」と会話のきっかけにもなるからだ。
吉祥寺のスペインバル「PEP」で開催された新年会の様子。吉祥寺在住の人も、ほとんど吉祥寺を知らない人も、かるたによって吉祥寺の話題で盛り上がっていたそう(画像提供/吉祥寺かるた製作委員会)
しかし、すぐにコロナ禍になってしまい、予定していたイベントはほとんどが中止になった。
「残念ですが、なかなか会えないので、かえってリアルで早く会ってしゃべりたい、まるで“早くライブに行きたい”みたいな高揚感が生まれています。ステイホームで大好きな吉祥寺に行けないから、日めくりカレンダーのように毎日かるたをめくって楽しんでいるという方もいらっしゃいました」
街の変化とともに「かるた」も進化する
さらに、この「吉祥寺かるた」の大きな特徴は変化すること。例えば閉店する飲食店がでたら、その場合はその札だけ変えられるよう、読み札と取り札のペアを1音分だけでも販売している。そのネタも再度SNSで募集した。
「街が変わるのは当たり前。だったら街の変化に合わせてかるたも進化していくべきかなと。人によっては”ゆ”の札は2セットあるわけです。こうした上積みが街の時間軸になっていくのもいいなと思っています」
吉祥寺かるた進化パック2021 ゆの札セット400円(送料・税込)。「でも実はまた閉店してしまったお店もあるので、また募集しなきゃいけないんですよね……」(写真撮影/片山貴博)
「吉祥寺かるた」の手法を活用した「企業かるた」も手掛けている。写真は、ナッツ&ドライフルーツの「小島屋かるた」。ECで人気を集めるショップが、3万件のショップのレビューとメルマガ会員の応募、店員のウンチクをもとにかるたをつくった。ファンの愛が集まるところならなんでも「かるた」になりうる(写真撮影/片山貴博)
新たな試み「まちカタルカ」。初対面同士のトークを手助け
一方で、「『住みたい街ランキング』(リクルート)で毎年1位、2位を争う吉祥寺みたいな街だからファンがいて、ネタが集まるんでしょ?うちの街じゃとても」といった意見も多く聞こえてきた。
それに対する答えのひとつとして新しく手掛けたのが「まちカタルカ」。「まち」についておしゃべりする「トークテーマカード」だ。
はじめにどこの「まち」についておしゃべりをするかを決めて、「〇〇(街の名前)で~」といいながらカードを引き、そこに書かれたトークテーマでおしゃべりするというもの。いわば「お題」カード。カードに書かれているのは「いちばんよく行くお店」「美味しいパンが食べられるところ」などのスポット情報や「このまちに住んだ(来た)理由」などパーソナルなこと、さらには「市長(町長・村長)になったらこれをやる!」などちょっと想像力が必要なものなど多岐にわたる。
「まちカタルカ」1520円(送料・税込)。トランプとしても使え、ババ抜きでひと組揃って捨てるときに、そのカードのどちらかのテーマについてひと言話してから捨てるなど、トランプとトークテーマを組み合わせることもできる(写真撮影/片山貴博)
想定しているシチュエーションは、はじめましての保護者会、プレママ学級、移住を考える人と地元民の交流の場、大規模マンションの入居時のウェルカムパーティ、学校の寮に入るときの歓迎会、地元のスナック、同窓会など「地域」を共有するさまざまなコミュニティ。
「いきなり初対面の人にあれこれ質問するのって難しいでしょう。でもこのカードを引くことで、半ば強制的にトークテーマが決められるので、お互いはじめましての場面でも自然と会話が生まれます。地域の情報交換の場になるし、知らない者同士でも地域を共有しているという実感がもてて連帯感が生まれるんです。これなら吉祥寺以外でも展開できます」
「まちカタルカ」のカードを使って、それぞれ「自分ならどう答えるか」を付箋に書いて貼ってもらうという参加型イベントを開催。暮らす街、好きな街なら、おのずと自分なりの答えをもっているもの (画像提供/吉祥寺かるた製作委員会)
「吉祥寺かるた」も「まちカタルカ」も、共通するのは地域に対する「愛」だ。
「このフォーマットはあらゆる街で対応可能ですよね。例えば、街づくりのワークショップで自己紹介を兼ねて「まちカタルカ」で遊んでもいいし、自分が暮らす街や働く会社でかるたの読み札を考えるのも面白い。一見何の特徴がないように感じる街や会社でも、かるたひとつ分くらいの語れることはあるものです。ただ条件は、そのコミュニティに対して愛があること。まあ実は、愛憎入り混じってる感情のほうが面白かったりもするんですが(笑)」
どんな街でも、そこに暮らす人にはなにかしら理由、愛着があるはず。そして世代や性別、属性も違う人々が、かるたやカードというプラットフォームの上で「地域愛」を語り合える世界は、きっと多幸感に満ちているはず。そんな幸せな「場」が生まれる街には、きっと誰もが住み続けたいと思うはずだ。
●取材協力
株式会社クラウドボックス
ぺろきち商店(「吉祥寺かるた」販売サイト)
吉祥寺かるた製作委員会 公式ツイッター
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