<レポート>細野晴臣の今までとこれからを深く感じる【細野観光1969 – 2021】

access_time create folderエンタメ
<レポート>細野晴臣の今までとこれからを深く感じる【細野観光1969 – 2021】

 大阪・グランフロント大阪で開催中の細野晴臣のデビュー50周年記念展【細野観光1969 – 2021】の閉幕が12月7日に迫っている。本稿ではまだ同展を体験していない人に向けて、魅力を改めてお伝えしていく。

 11月12日には2019年のアメリカ・ツアーの模様を収めたドキュメンタリー映画『SAYONARA AMERICA』が公開され、12月22日にはコシミハルとのユニット・swing slowが1996年に発表したアルバム『swing slow』の新ミックス盤、ヴァンパイア・ウィークエンドとのスプリット盤『Watering a flower 2021』、細野の近年の映画音楽作品を網羅した『Music for Films 2020-2021』という3作品を同時発売するなど、話題の絶えない細野。【細野観光】は、そんな細野の活動50周年を記念して、もともとは2019年に東京・六本木ヒルズ 展望台 東京シティビュー・スカイギャラリーで催された企画展だ。その大阪編に位置付けられる【細野観光1969 –2021】は、東京編を少しアップデートさせた内容となっている。

■1人の音楽家の歴史とは思えない壮大な絵巻物
 【細野観光】は東京、大阪のいずれも、細野の音楽家としての50年の歩みを5つのトピックに分けたビジュアル年表を軸に構築されている。内訳は「1969~1973|憧憬の音楽」、「1974~1978|楽園の音楽」、「1979~1983|東京の音楽」、「1984~2004|彼岸の音楽」、「2005~現在|記憶の音楽」。エイプリル・フール、はっぴいえんど、キャラメル・ママ、ティン・パン・アレー、YMOといった数々のバンドでの活動はもちろん、ソロ活動やプロデュースワーク、さらには前述のswing slow、HIS(坂本冬美、忌野清志郎とのユニット)、Sketch Show(高橋幸宏とのユニット)での活動、近年のソロワークまでを網羅する。さらには細野関連のテレビ番組やCMの放送、著書の発売、コンサートの開催までが詳細に記されており、功績を挙げれば枚挙にいとまがない細野の“音楽史”を、各年代の貴重な写真、リリースされた作品やバンドに関するデータ、細野が過去に発した名言・迷言の数々と共に氏の足跡を辿ることができる。同じ人間の歴史とは思えない“幅”が表現された、“壮大な絵巻物”といった様相だ。

 なお、この年表を楽しむにあたりお薦めしたいのが、細野と親交の深い5名の著名人による音声ガイダンスだ。スマートフォンでQRコードを読み取ることで、カテゴリーごとに塙宣之(ナイツ)、星野源、原田郁子(クラムボン)、水原希子、高橋幸宏によるガイドを聴くことができる。

■“細野晴臣”になる以前の貴重なコレクションの数々
 会場内に所狭しと展示されている細野のコレクションの数々も、同展の見どころのひとつ。ベースやギター、シンセサイザー、サンプラー、トイ楽器、民族楽器などをはじめ、過去に登場した雑誌やポスター、イラストの原画など……細野は「プライベートスタジオであるDaisy Bellや倉庫に転がっていた」などと言うものの、そのどれもが、なかなかお目にかかれない貴重なものだ。とりわけ音楽好きを興奮させるのは、「終わりの季節」「恋は桃色」「夏なんです」「風の谷のナウシカ」といった名曲の歌詞や楽譜が手書きで記されたノート類。これらを見れば、日本のロック史の1ページに触れたような気分に浸ることができるはずだ。ちなみにメモの中には、『チャーハンの会話』と題された、コントの台本のような謎めいたものも。

 ほかにも会場では、細野の幼少期の写真や幼い頃に遊んだおもちゃ、高校時代に同級生であった漫画家・西岸良平らと合作で描いた漫画作品、細野の父方の祖父で日本人で唯一タイタニック号の乗客員だった細野正文氏に関する文献などを公開中。会場を訪れたリリー・フランキーが「この展覧会は、親御さんやスタッフの方の物持ちがよくないとできない(笑)」「こういうのを見ると、細野さんへの尊敬……とも違う、“愛おしさ”が増しますよね。『こういうことをしながら大きくなったんだな』って」と語る通り、細野が音楽家となる以前の幼少期、いかなる文化に触れながら人間性を築いたのかが、時代の香りとともに感じられる。なお、リリー・フランキーが【細野観光】を巡った様子は細野の公式YouTubeチャンネルで公開されているので、併せてチェックしてほしい。

■大阪編のために用意されたプログラムも
 大阪編のために新しく用意されたプログラムとしては、映像と音楽で細野の世界観を表現した特別展示『storage sound room』が挙げられる。宇宙旅行をしているような気分を味わえる『Quiet Hallway』、ヴァージニア・リー・バートンの絵本をモチーフにした『The Little House』という2つメディアアート作品が、会場の倉庫スペースを利用して設営されている。映像制作と音源のミックスは久保田テツ氏によるものだ。ほかにも大阪編では、細野の蔵書コレクションの一部が展示された『細野文庫』のコーナーも。音楽、映画、宗教哲学、幼少期に楽しんだ漫画本など幅広いジャンルの書籍が展示されており、文筆家としての評価も高い氏の読書遍歴の一部を窺えるのが興味深い。

 ここまでハイライトをお伝えしてきた通り、圧倒的な物量と情報量で届けられる【細野観光1969 –2021】。会場内は、異国の情緒と日本の原風景、デジタルとアナログ、整然と雑然、過去と未来……そういった相反するものが違和感なく同居し、それにより独特の雰囲気を讃える細野の音楽の世界観がそのまま表現されたような空間だ。同展のアンバサダー・ゆりやんレトリィバァとのオープニングトークの際、細野自身が「脳内をさらけ出している感じで恥ずかしい」と苦笑するのもよくわかる。

■『SAYONARA AMERICA』のサブテキストに最適
 ところで【細野観光】は、公開中の映画『SAYONARA AMERICA』をより深く味わうためのサブテキストとしてもお薦めだ。この映画は、細野が2019年にニューヨークとロサンゼルスで行ったライブ・ツアーの様子を収めたドキュメンタリー。軸になるのはライブ映像で、バンドメンバーである伊賀航(B.)、高田漣(G.)、伊藤大地(Dr.)、野村卓史(Key.)の熱演がダイレクトに伝わる演奏シーンは迫力満点だ。ライブ会場に訪れた現地のファンが細野の音楽について熱く語る様子も捉えられており、いかに世界に細野の音楽が広がり、その魅力が伝わっているのかを生々しく知ることができる。

 ただ本作は細野のファンにとって、いわゆる“ライブフィルム”に留まらない意味を持つ。細野は、アメリカのロックやポピュラー音楽、映画音楽に多大な影響を受けてミュージシャンとしてのキャリアをスタートさせ、それを独自のセンスや手法でアウトプットしてきた音楽家だ。近年、古いアメリカのポピュラー音楽への興味を前面に押し出した活動をしてきたのは多くのファンの知るところではあるし、【細野観光】を体験すれば、いかに細野がアメリカの音楽に憧れてきたのかがリアルに伝わるだろう。細野を語るうえでは、それほど“アメリカ”の存在は大きい。

 この映画では、そんな細野にとってアメリカでのライブはどのような意味を持つものなのか、あるいはアメリカとはどういう存在なのかについてが触れられ、氏が発する言葉ひとつひとつに耳を傾けることで、映画のタイトルやセットリストなどが、大きな意味を帯びていく。また、USツアーのあとのコロナパンデミックにおいて、細野がどう過ごし、何を思っていたのかを知ることができるのも興味深いところだ。

 細野の濃厚な2年間を切り取った『SAYONARA AMERICA』は、いつの時代も独自のサウンドで時代を切り開いてきた音楽家の人生の大河ドラマのような【細野観光1969 –2021】と同様に、いわば“細野晴臣の過去”を巡るコンテンツだ。しかし、この2つの過去のドキュメントを重ね合わせることで、細野晴臣が“これから”を模索する様も少しだけ浮かび上がって感じるのが面白い。

 【細野観光】と『SAYONARA AMERICA』。細野晴臣を巡る2つの作品を同時的に体験することで、細野の音楽の魅力はもちろん、1人の音楽家としての凄みやチャーミングな人間性、繊細な感性などが、より立体的に、生々しく伝わってくるはずだ。この機会を逃さないでほしい。

◎開催情報
【細野観光1969 -2021】
2021年12月7日(火)まで、グランフロント大阪 北館 ナレッジキャピタル イベントラボで開催

関連記事リンク(外部サイト)

細野晴臣、swing slow/ヴァンパイア・ウィークエンド/映画関連3作品を12月同時リリース
細野晴臣、入手困難だった名曲「花に水」が配信リリース
細野晴臣、音楽活動50周年を締めくくる2DAYS

  1. HOME
  2. エンタメ
  3. <レポート>細野晴臣の今までとこれからを深く感じる【細野観光1969 – 2021】
access_time create folderエンタメ

Billboard JAPAN

国内唯一の総合シングルチャート“JAPAN HOT100”を発表。国内外のオリジナルエンタメニュースやアーティストインタビューをお届け中!

ウェブサイト: http://www.billboard-japan.com/

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。