「現代社会においては、自分の存在の不確かさがある。だから“自分の存在を確かめたい”といった人々の思いがコンセプトになっている部分は大きい」Interview with The Vaccines about “Back In Love City”

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ロンドンの5人組、ザ・ヴァクシーンズが最新アルバム『Back In Love City』をリリースした。プロデューサーにダニエル・レディンスキー(リアーナ、TVオン・ザ・レディオ)を迎えた今作のコンセプトは、東京やラスヴェガス、そして映画『ブレード・ランナー』に着想が得られたという架空の都市“ラヴ・シティ”のサウンドトラック。フロントマンのジャスティン・ヤングいわく「消費されるものとしての感情、人間が持つ繋がることへの渇望」を描いた、バンド史上もっともダンサブルなレコードとなっている。英国のロック・シーンが大きな盛り上がりを見せるなか――サウス・ロンドン周辺の若手とは世代的に異なるザ・ヴァクシーンズだが、今作はかれらの健在ぶりを改めて示す作品といえそうだ。ベーシストのアーニー・ヒョーパーに話を聞いた。


――架空の都市“ラヴ・シティ”を舞台にした今作のコンセプトはどのようなところから生まれたものだったのでしょうか?


The Vaccines 「ちなみに、自分が東京を架空の都市のように感じているわけではないよ(笑)。でも、どこか特定の場所やロケーションから着想を得たというよりは、様々なアイデアや要素が混ざり合って、ある種『ブレード・ランナー』的な、近未来的でスタイリッシュなディストピアを連想させる世界観が徐々に構築されていった感じだね。はじめからそういった雰囲気に近づけようとか、合わせようとか思っていたわけではなくて、自分たちだけの場所を作ろうとしていた過程でそこにたどり着いたといった感じ」



――「人間が持つ繋がることへの渇望」というテーマは、パンデミック以降の社会、人々の意識の変化ともリンクしたものだと思います。


The Vaccines「そうだね。人々の繋がりの欠如や渇望というテーマに関しては、近年様々なシーンで語り尽くされている部分ではあるけれど。現代社会においては、自分の存在の不確かさ、帰属意識の薄れだとか、かつては確かに感じられていたものが失われつつあると思うから。だから“自分の存在を確かめたい”といった人々の思いがコンセプトになっている部分は大きいよ。情報過多なこの世の中で主体性が失われていく、誰にも本当のことが言えなくて袋小路にはまるような思いをしている人が多くて、そんな中でどうにか繋がりを保とうとしているんじゃないかな。でもこのアルバムは、パンデミックの直前に作ってレコーディングをしたもので、直接的にこのアルバムにパンデミックが影響したわけではないんだ。それでも、このパンデミックは結果的に人々に、繋がりの希薄さや大切さというものを強制的に意識させることになった。だからパンデミック以降の人々の意識の変化にこの作品がリンクしたというのは、ちょうどハマったとはいえるけど、偶然なんだ」





――ただ結果的とはいえ、今作が今という時代の社会や人々の姿をとらえた“ポリティカル”な作品になったのは興味深いと思います。


The Vaccines「この作品がポリティカルがどうかという観点においては、100%あてはまるものだと思うけど、そうなるように意識して作ったとは言いたくないかな。例えば、ぼくらはみんなアメリカに対してそれぞれ思い入れがあるんだ。その文化的価値を重んじているし、テーマやコンセプトもアメリカの実際の姿について語っていることも多い。それは政治的というよりはあくまで個人的解釈といったほうがしっくりくるんだ。自分の経験、実際に現地で感じたことからその見地に立っているわけだから。でも、そこにポリティカルな視線が含まれるかと言われたら、もちろんと答えるよ」


――タイトルに「Back In」とつけられているのはどういう理由からですか? そこには、“かつてあったが、今は失われてしまった社会や人々の姿を取り戻したい”みたいなニュアンスも読み取ることができます。


The Vaccines「おもしろい質問だなあ。もちろん今回の作品のタイトルはトラックのひとつからとったもので、かつてあったどこかクールな場所、といったニュアンスになるかな。でも自分たちがそこにたどり着くまでにどこにいたのかと問われると、自分でも定かじゃないな。適切な答えがあるか、今楽曲のことを思い浮かべて考えているんだけど……僕らは“ラヴ・シティ”をいつでも行ったり来たり、自由に出入りしているから。“ラヴ・シティ”は、外部からの余計な干渉や雑音がない、自分らしく今を生きられるような場所なんだ。幸せの瞬間や感覚と呼ぶべきところ、それを見つけに戻って行くんだよ。“ラヴ・シティ”を一度も離れたことがなければ、そのありがたみに気がつくことができないからね」





―― 一方、今作はザ・ヴァクシーンズ史上、もっともダンス・フィール溢れるアルバムだと言えます。サウンド面における具体的なアイデアやコンセプトがあったら教えてください。


The Vaccines「これについても結果的にそうなった、と言えるんだけど、いくつかおもしろいきっかけがあったんだ。アルバムの制作に取りかかった頃、ぼくらはウエスタン・カントリーにハマっていて。ちょっと田舎くさいというか、いわゆるギターが主体になっているような。そういった古いサウンドトラックとかを聴き込んでいて、それが作曲するときのフィーリングにかなり反映されたんだ。でも、カントリーの聖地でもあるテキサスで実際にプロダクションを始めてみたら、いざ形ができてくると自分たちの思っている以上に土っぽくくすんだ印象の出来になってしまって。でもおもしろいのが、そこから仕上がりが劇的に変化したってこと。2019年のクリスマスの目前ってところでレコーディングが終わってアルバムの形にはなっていて、そこから3月になってミックス作業を終えるつもりが、コロナの影響ですべてシャットダウンしてしまった。そこで、満足のいっていない状態でリリースするよりは、新しくいろいろなことを試してみようと決めて、別のスタジオに行ったり、他のプロデューサーやミクサーにテコ入れを頼んだんだ。そうしたら、1年をかけてサウンドが全然違う仕上がりになってきて。最初に出す予定だったバージョンとはまったく異なるレコードになったと言ってもいい。そうやって結果的にクラブよりのサウンドになったわけだけど、今回の完成版に満足しているし、新たなプロダクション・テクニックを取り入れることは勉強になったから、ぼくらにとっても素晴らしい機会だった」

――リアーナやTVオン・ザ・レディオを手掛けたことでも知られるダニエル・レディンスキーをプロデューサーに迎えた理由を教えてください。


The Vaccines「確か2018年なんだけど、そのときにも彼とは仕事をしているんだ(※シングル『All My Friends Are Falling In Love』)。ぼくらの周りの友達もみんな彼にラブコールしていて。その時は彼の都合でロンドンでレコーディングをしたんだけど、彼は本当に驚くべきパワーの持ち主で、作品に魂を注ぎ込むタイプなんだ。ポジティブなエネルギーの塊でそれが周りにいい影響を与えるような感じ。それほどまでにユニークなマインドの持ち主だからね。彼がサウンドを刷新してくれたよ」





――加えて、ポスト・マローンやリゾを手掛けるアンドリュー・マウリーがミックスを担当しているのもポイントです。USのメインストリームのサウンドやプロダクションをギター・ロック・バンドがどう取り入れて形にするか、みたいなところを意識した部分もあったのでしょうか?


The Vaccines「ワオ。ぼくらの狙いは実質、今君が言った通りだね。アンドリューが来てくれた時期はアルバム制作の終盤だったんだ。そのときにはすでにダニエルをはじめ、たくさんの人物がアルバムに関わってくれていたけど、アンドリューのミックスはものすごくカラフルで、突出していたから、完成していた曲もさらによくするために、彼の爆発的でクレイジーなアイデアを求めてアドバイスをもらったんだ。素晴らしい才能の持ち主だよ」


――そのようなプロセスを通じて、もっとも予測できなかった変化はどのようなものでしたか?


The Vaccines「すごくいい質問。実際に制作時には、驚くような瞬間はいくつかあったんだけど。ザ・ヴァクシーンズにとってのもっとも大きな変化はジャスティン(・ヤング)だったかな。レコーディング当初はフレディー(・カァワン)の弾いたギターを気に入らないなんてって言っていたのに、アルバムが完成した暁にはすべての曲に対してそんなことも一切言わなくなっていて、自分的にはそれがおもしろくてさ。最初こそ土っぽいウェスタン・ミュージックを作ろうと思っていたのに、80年代の近未来映画のようなディストピアな世界観のサウンドにどんどん変化していったというのはやっぱりおもしろいよね。方向性が全然違うのに、今はしっくりきている」





――最近はイギリスのロック・シーン、ギター・バンドが活況を呈しています。特にサウス・ロンドンのシーンは日本でも大きく伝えられていますが、あなたたちから見て現在の盛り上がりというのはどんな風に映っているのでしょうか? 身近なものとしてリアリティを感じているのか、それとも世代的にも少し離れたものとして距離を置いた感じで見ているのか?


The Vaccines「ロンドンでは実際すごく盛り上がっているのは感じるよ。USカレッジ・ロックとか、クラウトロックに影響を受けたものがここ数年は特に流行っている印象。サウス・ロンドンで行われているWIDE AWAKEっていうフェスティバルがその好例だと思う。ロンドン出身のバンドばかりがブッキングされるんだ。あまり有名ではないインディ・アーティストなんかも数多く出演するんだけど、チケットの売れ行きもすごくて。だから今、本当に勢いがあるんだなと思うよ。それって、すごくうれしいことだよね。ただ、自分自身はそのムーヴメントからはちょっと離れたところにいるように思う。もう10年以上バンドをやってきて、ニューカマーとは言えない年齢になってきているし」

――あなたたちはイースト・ロンドンが拠点ですが、地元のシーンはどんな感じなのでしょうか? 新たな世代、新たなムードが生まれつつあるような熱気を感じますか? 


The Vaccines「正直、詳しくないんだよね。東西南北という区切りについては、実際少しずつ人々の性格や雰囲気の違いってあるんだけど、全員が必ずしもその区分けにハマるわけでもないし。それに、ライヴできるヴェニューの場所はやっぱり限られてくるから、出身地よりも活動しているヴェニューを拠点として考える人も多いと思う。ヴェニューによってカラーが異なるから、たとえばスクイッドみたいなバンドのライブが見たかったら、イースト・ロンドンの5つのライブハウスのどこかに行くとか、フォーク・ロックやカントリーっぽいものが見たかったらウェストのほうの5つに行くとかね」





――ところで、あなたたちが昨年発表した楽曲“Internet Disco Ft. Agent Emotion”は、イギリスの国民保健サービスが呼びかける募金活動の一環として「Songs for the National Health Service」にフィーチャーされましたね。イギリスでは、特に子どもや若者へのメンタルヘルス・サービスを拡充し、より迅速に利用できるようにするべく予算を重点的に配分することなどが議論されていると記事で読みましたが、この「Songs for the National Health Service」に参加したことの意義についてはどのように考えていますか?


The Vaccines「もちろん、たった一曲の楽曲をそのためにリリースしたからって、それが大いなる助けになるとは思っていないよ。自分たちにできることなんて限られているけど、きちんとそういった問題を社会が抱えていることに対して、認めて、目を逸らさずに向き合っていくことが重要だと思うんだ。バンドが集まってこういった社会貢献をすることはそこまで多くあることではないから、タイミングもあって、いい機会に恵まれたように思う。メンタルヘルスについての問題は、今すごく大きなトピックだし、アーティストが啓蒙活動をしていくことは大切なことだと思うよ」

text Junnosuke Amai(TW




The Vaccines
『Back In Love City』
Now On Sale
(Super Easy)
https://music.apple.com/jp/album/back-in-love-city/1562719936
https://open.spotify.com/album/4d3WvIAqDrWSRgkumNGleh

1. Back In Love City
2. Alone Star
3. Headphones Baby
4. Wanderlust
5. Paranormal Romance
6. El Paso
7. Jump Off The Top
8. XCT
9. Bandit
10. Peoples Republic Of Desire 11. Savage
12. Heart Land
13. Pink Water Pistols

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