原発短信 渡良瀬遊水池の葦(環境とは何か?)(中部大学教授 武田邦彦)

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原発短信 渡良瀬遊水池の葦(環境とは何か?)(中部大学教授 武田邦彦)


今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。
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原発短信 渡良瀬遊水池の葦(環境とは何か?)(中部大学教授 武田邦彦)

渡良瀬遊水池はラムサール条約に登録されている湿地で「環境保護」が行われています。そのため毎年「葦焼き」が行われますが、福島原発事故のために葦が放射性物質で汚染されています。その葦を焼却するという事になっています。埼玉大学の二人の教授が「専門家」として登場しています。

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データは、下に測定値を示しましたが、葦の放射性セシウム濃度が1キログラムあたり平均139ベクレル、最高で259ベクレルです。法令では1キロ100ベクレル以上のものは「放射性物質」として勝手に扱うことはできず、もし扱えば「懲役刑」になります。

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これは1キロ100ベクレルを超えるものを扱った事例が多いので、罰則を強化したときの文科省の説明文です。「深刻な不法行為への対応」ということで、罰則が引き上げられています。

原子力もしくは放射線の専門家なら誰でも知っていますし、もともとこのような厳しい規制が行われるのは、「放射線の被曝が危険だから」に他なりません。もし危険でも無いのにこのような懲役刑や罰金を国民に科していたとするなら、法令を作った方が厳しく罰せられなければなりません。

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ところが、二人の専門家は、自然放射線による被曝が1年2.4ミリシーベルト(間違い)という理由を挙げて「安全」としています。もともと法律で決まっている数字がありながら、自分勝手に安全領域を決めることはできませんし、2.4ミリというのは世界の平均で、日本は1.5ミリです。

さらに、これも専門かなら当然、知っている事ですが、「被曝は足し算」ですから、この図に示したように、自然放射線の量がいくつであっても、新しく被曝する量とは何の関係もありません。

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もしこの理屈を使うと、常に1年1.5ミリ以下の被曝はOKとなり、1年に何ミリでも大丈夫という奇妙な結論になります。渡良瀬遊水池の近くに住んでいる人が、1)福島原発からの被曝1ミリ、2)食品からの被曝1ミリ、3)土埃で1ミリ、4)運動場の運動で吸い込むのが1ミリ、5)水道水から1ミリ・・・の場合、すべてを足すと天井知らずになります。

そのことも一切触れていません。また1キロ100ベクレルというのは、セシウムだけではなく、ストロンチウムなども測定しなければなりません。当然、福島原発から半減期が30年のストロンチウムもでているわけです。また葦の生物学的な吸収もありますから、空間と同じ比率ではありません。

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ところで、これについて担当している協議会は、このような声明文を出していますが、ここに書かれていることは「ヨシの生育が不良になっていて、希少動物も元気が無いので、法令に違反して日本人に被曝させる」ということですから、なにが「環境」なのでしょうか?

私はこのところ1日に1回、ブログをだすことにしていましたが、こんなに酷いことが平然と行われていることを見過ごすことはできません。放射線と健康の関係がどのようなものかということとは別に、「専門家が関係法令に触れない」という倫理違反と、「環境保護」の名の下に法令に違反した被曝をさせるという国家に住んでいることに深く恥じます。

(注)アシ(葦)とヨシは同じ植物ですが、アシは「悪し」につながるとして、ヨシ(良し)という場合もあります。

執筆: この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年03月28日時点のものです。

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