「中国人のマナーが良くなったのは監視社会のせい」なのか?(note)

今回は華村@中国さんの『note』からご寄稿いただきました。

「中国人のマナーが良くなったのは監視社会のせい」なのか?(note)

「中国人のマナーは劇的に向上しているが、それは街じゅう至る所に仕掛けられた監視カメラや社会信用システムによる監視社会のせいだ。つまり国からマナーよく振る舞うことを強制されているんだ」という旨のWeb記事などをよく見かけます。

確かにそういった見方もできるのかもしれませんが、こういうのを見るたびにちょっと「自分のなかの中国像と違うなあ」と思うことがあります。今日はその理由をいくつか。

 

まず、市井の人々がこういった「監視」の存在を日々意識しているかというと、そうでもないような気がするのです。

上述のように、監視カメラと社会信用システムの存在が「監視社会」の代表としてよく挙げられるのですが、車に日常的に乗る人以外はあまり監視カメラについて気にすることはないように思うし、社会信用システムの中で人々がマナーや振る舞いに気を付けているというのも、何か違うように感じます。

たまにですが、日本の報道や記事などにおいて「信用スコア」と「社会信用システム」が混同されていることがあります。「信用スコア」とは様々なサービス内における個人情報や支払い履歴など、ざっくり言えば「優良顧客」であるかどうかを数値化したもので、高ければ何かしらの優待を受けられる、という性質のものです。これは基本的には国による統制うんぬんとは関係がなく、ただそのサービス内での振る舞いなどの数値化にすぎません。

対して「社会信用システム」のほうは、交通違反や借金の踏み倒しなど悪質な行為に関する情報・履歴が収集される中央政府によるシステムのことで、ここに自分の「悪事」の情報が登録されてしまうと街中の電光掲示板で晒し者になったり、場合によっては高速鉄道や飛行機に乗れなくなったりというペナルティが発生するようです。

「中国が推し進める社会信用システムとは」2019年8月5日『SciencePortal China』
https://spc.jst.go.jp/hottopics/1909/r1909_yamaya.html

個人的な印象ですが、このうち「信用スコア」(代表的なのは多数の中国人が使うキャッシュレスアプリである支付宝の「芝麻信用」など)の存在について知っている人はたくさんいますが、どちらかというと「監視社会」につながりそうな後者の「社会信用システム」について把握している人は、それほど多くないような気がするのです。

もちろん「悪いことをしたら掲示板に晒される」とか「交通違反でしょっぴかれたら面倒なことになる」くらいの認識はみんな持っているにしても、それを国家による「監視」と結びつけて語る人は、少なくとも個人的にはあまり見たことがありません。

 

また、「本当に監視社会によってマナーが改善しているのか」という問題もあります。

僕が中国に来てからの数年間だけを見ても、確かに中国人のマナーは日に日に良くなっていると感じます。みんなずいぶん列に並ぶようになったし、街はどんどんキレイになっています。窓からゴミを投げ捨てる住民も、あまり見かけなくなりました。

しかしこれが「監視社会」のせいかと言われると、やっぱり違うような……日々の振る舞いについては、単に経済が発展して国に余裕が出てきたことや、世代による変化(中国人は「素質不好」(マナーが悪い)老人に対して異常に厳しい)のほうが要因としては大きいように思います。

また、これも「監視社会による人民の統制」のような記事を見るたびに思うことですが、恐怖を伴うような「統制」を感じるほどマナーが良くなってるか? と言われれば、それも実感とは程遠いです。

全体としてずいぶんマナーが良くなったとはいえ、相変わらず駅のホームやエスカレーターで全力でタバコを吸う親父は後を絶たないし、飼い犬の糞を片付けてる人は見たことないし、禁止されているはずの電動三輪車で爆走するBBAはむしろ増えているような気がします。本当に監視社会があるなら、こいつら全員やっつけてくれよと思う(特に全力タバコ親父)のですが、現状はそうなっていません。

つまり、監視社会化が進んでいると言ってもそれが末端に意識されているわけでもなければ、ましてやそれが個人のマナーと結びついているかといえばそれは違うようなあ、というのが僕の印象です。

 

あくまで個人的な印象に基づいたものですが、「中国の監視社会」と「個人のマナー」について述べてみました。

中国が各国と比べて「監視社会」的である、ということはある程度の事実と言っていいとは思いますが(たとえばネットの検閲・制限とか、表現に関するアレコレとか)、それを「恐怖・厳しい罰則による統制」と短絡的に結びつけるのは、ちょっと違うんじゃないかなと思っています。

実態のよく見えないものに対して、ただ単に気味が悪いものとして印象だけでなんとなく怖がるのではなく、その実態をできるだけ正しく把握しようとすることが重要なのではないのかと、自戒を込めて思います。

 
執筆: この記事は華村@中国さんの『note』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2021年7月19日時点のものです。

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