現実世界のものの在り方や振る舞いを規定している「重力」を、最少の手つきですり替える。玉山拓郎 個展「Anything will slip off / If cut diagonally」
「When I was born when I was born」 2021 ©Takuro Tamayama
ANOMALYでは、2021年7月17日 (土) より8月14日 (土)まで、玉山拓郎 (たまやま・たくろう) 個展「Anything will slip off / If cut diagonally」を開催。
玉山拓郎 (b.1990) は、日用品や家具などのファウンド・オブジェクトを用い制作したスカルプチャーや、映像作品を空間に配置し、鮮烈な照明灯によって絵画的空間を作り出す、新進気鋭のアーティスト。彼の初の大規模な個展となる本展「Anything will slip off / If cut diagonally」は、空間構成を試験的にネット上で行ったプラン展示「When I was born when I was born」と、パラレルに観ることができる、現実空間=ギャラリーでの展覧会。
https://www.wheniwasbornwheniwasborn.website/
現実世界のものの在り方や振る舞いを規定している「重力」を、最少の手つきですり替える本展「Anything will slip off / If cut diagonally」(斜めに切れば/何もかも滑り落ちる) は、ある種の既視感を観賞者に与えるものの、ニュートン力学に支配された世界では起こり得ない状況を、極めてアナログな手法で作り出す。
例えば、90度回転した床が壁の位置にあり、そこに置かれた (掛けられた?) プレートから (当然?) 滑り落ちるスパゲティ (皿とスパゲティの振る舞いはどちらが「正しい」のか) 。
あらぬ方向に歪曲し、壁から唐突に突き出たうな垂れている「フロア」ランプ、ギャラリーの床の「地平線」とは違う角度で「水平線」を描く、グラスの中の固まった水・・・。
「豊田市美術館開館25周年記念コレクション展 VISION 光について / 光をともして」展示風景、豊田市美術館、愛知、2020
撮影: 村田啓
日常との力学的な小さな差異をオブジェクトに体現させ、空間に巨大な照明装置を援用することで、「どこでもない空間」を表出させる本展は、一見するとデジタル空間のような様相を呈す。しかし、マリオ・バーヴァやダリオ・アルジェント(*1)の映画のワンシーンを彷彿させる鮮烈な照明によって立ち現れるそれは、どこまでもアナログで制作されており、リアルな体験を迫る。
また彼が作り出す空間は、誰かの夢の中の情景、或いは『トワイライト・ゾーン』(*2) のような不条理さや、ディストピアを描くサイエンスフィクションのような奇妙さを想起させる。
「暗闇の中の薔薇は赤いか」「薔薇は誰も見ていなくても赤いか」といった問いに、色は我々の感覚なのかモノの性質なのかを考えたとき、それがモノの性質とするならば「薔薇は赤い」。
しかし知覚こそが世界そのものの提示であるとするならば、「薔薇は赤くない」(*3)。
この原理的な問いを思わせる今回の展示は、同時に鑑賞者の知覚の分かち合えなさ、誰も同じ色、ひいては同じ景色を見ていないかもしれない不安を投げかける。
その極限まで洗練されたコンポジションの、不思議な夢のようにズレを孕んだ空間に鑑賞者が介入することによって、そのズレを (自身の実感とともに) 表象する役割を鑑賞者が担う (鑑賞者がいるかぎり「薔薇」は赤いし、「ここでの力学」は間違っている)。
「Takuro Tamayama and Tiger Tateishi」 展示風景、Nonaka-Hill、ロサンゼルス、アメリカ、2019
Courtesy of Nonaka-Hill 撮影: Takayoshi Nonaka-Hill
通常の視覚を不確かにする、その光に満ちた空間にあって、3つの人の頭部と思しき円形に成形された滑らかな「表面」でしかない鏡を使った作品は、現実の空間を左右反転させて映し出し、「平坦な奥行き」という矛盾したイメージを形成する。
インスタレーション内に生身の鑑賞者が立ち入り時々その鏡面に映ることで、「鑑賞者を作品の中に見かける鑑賞者自身」という入れ子構造とズレをつくり、ヴァーチャル空間の価値を軽やかに突き放し、どこまでも実物と実体験を伴ったアンファミリア(≒Unheimlich) な世界をギャラリーに出現させる。
参考写真:《5 Shapes (Sally Green)》 2020 撮影: 上野則宏
オブジェクト群と空間はどちらが先でもなく、ほぼ並行して設計されている。
( 両者は境界なく存在している。)
窓の外の水平線が鏡面を持ったオブジェクトを介して湾曲しながら空間内に存在している。
音は緻密に操作、演出され、反響しているかのように存在している。
オブジェクト群と空間は原始地球の海で太陽光がもたらした化学進化のように、一つの共通の光源に照らされることで可視化され存在している。
時間が物の傾きに依ってボリュームを持ち存在している。
空間を外側から見ることはできない。( 外殻のイメージは存在している。)
全ての要素は架空ではなく、限りなく現実世界の基準、実際に引き起こる現象に則して存在している。
全て二次元の中に存在している。
玉山拓郎
document of AICHI⇆ONLINE より転載
また本展覧会では、C2Dと玉山拓郎の2人のアーティストユニット「White Waters」を召喚し、作品《I alone can fix it.》を、会場通路部分で展開。
「Awesome Rocks」 展示風景、ASSEMBRIDGE NAGOYA 2016、旧・名古屋港港税関寮、愛知
Courtesy of Minatomachi Art Table, Nagoya [MAT, Nagoya] 撮影: 怡土鉄夫
本文註:
(*1) マリオ・バーヴァ、ダリオ・アルジェント
イタリアの映画監督。ふたりとも数々のホラーを制作しており、三原色に指定した鮮烈な照明が特徴的 (バーヴァは1963年カラーフィルムより) 。
(*2)『トワイライト・ゾーン』
ここでは、SFのテレビドラマシリーズ (1950年代のドラマのリメイクがそれ以後も数多く制作されている) 。超常現象や怪異的な事象を題材にしたアメリカの人気ドラマ。
(*3) 参考:
野矢茂樹『哲学的な日々 考えさせない時代に抗して』講談社、2015年
『学会だよりNo.96 2012』、pp.5-6、上智大学哲学会
https://dept.sophia.ac.jp/human/philosophy//phil_soc/phil_soc-pdf/77program.pdf
玉山拓郎
Anything will slip off / If cut diagonally
http://anomalytokyo.com/exhibition/takuro_tamayama/
2021年7月17日 (土) – 8月14日 (土)
日月祝休廊
火・水・木・土 12:00 – 18:00
ANOMALY 140-0002 東京都品川区東品川1-33-10-4F
tel&fax. 03-6433-2988
http://anomalytokyo.com
*新型コロナウイルス感染拡大防止への配慮から、初日のオープニングパーティは行いません。
*会期中の夏季休廊はございません。日月祝のみ休廊いたします。
*ご来場に際してのお願いが文末にございます。
玉山拓郎 (たまやま・たくろう)
1990年、岐阜県多治見市生まれ。
愛知県立芸術大学を経て、2015年に東京藝術大学大学院修了。現在、埼玉県在住。
近年の主な展覧会に、「開館25周年記念コレクション展 VISION Part 1 光について / 光をともして」(豊田市美術館、2020年)、「VOCA展2020」(上野の森美術館、2020年)、「Euphoria」(TICK TACK、アントワープ、2019年)、「The Sun, Folded.」(OIL by 美術手帖、2019年)、「Takuro Tamayama and Tiger Tateishi」(Nonaka-Hill、ロサンゼルス、2019年)、「思考するドローイング」(500m美術館、2019年)、「Dirty Palace」(CALM&PUNK GALLERY、2018年)、「ASSEMBRIDGE NAGOYA 2016 パノラマ庭園 -動的生態系にしるす- 」(MAT Nagoya、2016年)など。
ご来廊に際してのお願い
*非接触の体温計にて体温測定させていただくことがございます。
*3密を避けるため、できるだけ少人数でお越しいただきますようお願いいたします。
*マスクの着用と、入場前に手指のアルコール消毒のご協力をお願い申し上げます。
*発熱や咳等の症状があるお客様はご来廊をご遠慮くださいませ。また検温により、入場時に37.5℃以上の場合、ご入場をお断りさせていただきます。
弊ギャラリーの対応について
・スタッフは全員、毎朝体温を測定し、健康状態を確認のうえ出勤しております。
・換気を行ないながら、営業いたします。
・スタッフは手洗いや手指の消毒をし、マスク着用でご対応いたします。
・お客様がお手を触れる場所の消毒を徹底いたします。
展覧会開廊日と時間について
・今後の社会情勢により、営業時間の変更などや、やむを得ず休廊となる場合がございます。
最新情報は随時ウェブサイトにてお知らせいたしますので、ご来場前にご確認くださいませ。
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