デジタル環境と物理世界の対象的なテクスチャーを表現。ラファエル・ローゼンダール個展「Calm」


From left to right: Extra Nervous 20 07 06, Extra Nervous 20 06 05, Extra Nervous 20 07 02, 2020. Plexiglass in wooden frame. Photo by Shu Nakagawa.


Takuro Someya Contemporary Artでは7月17日(土)から8月28日(土)まで、ラファエル・ローゼンダールの個展「Calm」を開催。
ローゼンダールは 2010 年の個展「Iʼm Good」以来、10 年以上にわたり、TSCA での個展やグループショーを重ねてきた。国内での展覧会では、2018 年の十和田市現代美術館での「GENEROSITY 寛容さの美学」 から3年ぶりの個展となる。
これまでにローゼンダールは、ウェブサイトや Google Chrome のプラグイン、NFT等の形式を自らのキャンバスとして開拓し、そこで描いたイメージをタペストリーやレンチキュラー等の技術を用いて現実世界絵画作品として成立させている。この手法はインターネットアートやコンピューターアートといったジャンルに留まらず、同時代を反映する芸術作品として、日々わたしたちが往来するインターネット上の仮想空間とアクチュアルな物理空間の境界に意識を向けさせている。このように、インターネットアートムーブメントにおいて登場したアーティストでありながら、絵画史におけるメディウムの再解釈という観点からも重要かつユニークな実践を続けてきた。
本展覧会「Calm」は、描画七宝(ペイント・エナメル)の技法を用いた「Mechanical Painting」とプレキシガラス作品「Extra Nervous」の2つのシリーズで構成される。



Mechanical Painting 20 03 02 (Laptop), 2020. Enamel on steel. Photo by Gert-Jan van Rooji.



「Mechanical Painting」は、コンピューターで描かれた描画七宝の絵画作品。2016 年にローゼンダールが発表した「Abstract Browsing」 で用いられたタペストリー(織物)というメディウムも職人的な技術を要る工芸品のひとつだった。本作に用いられた描画七宝もまた熟練した職人の手によって受け継がれてきた技術と言えるだろう。ローゼンダールはこれまでも、自らがデジタルのコンポジションとして制作した作品に、絵画としての物理的な実体を与えるための方法を模索してきた。本作には、作品表面の凹凸や、焼き物ならではのスポットといった制御不能な偶然も包含されている。


「Extra Nervous」は、着色されたプレキシガラス(アクリル)をコンピューターでレーザーカットして描いた絵画作品。鏡面処理が施されたこのプレキシガラスは、正面に立つと鑑賞者自身の姿が映り込む。その意味では、実際に作品を前にした動的な鑑賞のなかで作品の見え方が変容するレンチキュラーの作品「Into Time」と共通点は感じられるかもしれない。作品を見ようとするとモチーフとともに映り込んだ自分の姿と向き合うという鑑賞体験は静謐かつ内省的な感覚をもたらす。また、本作品における鮮やかな色彩を持った抽象的な図形はテーブル、エレベーター、窓、といった具体的な対象を想起させる。これらは、「Extra Nervous」というタイトルにあるように新型コロナウイルス感染拡大下の極度に緊張した日常のなかで、多くの人が屋内を、あるいは屋内から屋外を改めて見つめ直したであろう光景と重なる。
そしてこのパンデミックは、日々の暮らしのなかに非接触型のデジタルの環境を拡大させた一方で、この肉体が置かれる物理的な世界に、あらゆる意味での接触と摩擦、つまりテクスチャーが介在していることを実感させた。本展覧会を構成する2つの作品の質感は、こうした、デジタル環境と物理世界の対象的なテクスチャーを表現しているとも言える。「Extra Nervous」は実体を伴った絵画作品であるためにデジタルのように実体を伴わないものとは異なるが、透過性が高く、抵抗のない表面を持つプレキシガラスによってテクスチャーのない状態を表現していると言えるだろう。一方で「Mechanical Painting」の表面に残された凹凸やスポット、スクラッチといった痕跡は、メディウムによる作品の物質性を感じさせる。
これらの作品は、スケッチブックを開きペンを握って描くというプリミティブなドローイングを起点にして制作された。「Calm」という展覧会タイトルには、そうしたフィジカル・ワークに打ち込む中でローゼ ンダールが得た心静かな姿勢が示されている。
ローゼンダールは、NFTプラットフォーム「Foundation」のダイアローグ企画において、友人でもあるアー ティストのオースティン・リーとの対話の中で、「アートワークそのものは、自明の存在であるべきだと考えますか」とたずね、それに対してリーは「そう思います。作品の外にある付加的な情報が、その作品の理解に影響を与える可能性はありますが、そこに依存すべきではありません。そして作品は、制作者についてだけでなく、鑑賞者に関することも明らかにするべきだと考えます」と答えている。
この2人の対話は非常に示唆に富んだものであり、溢れる情報に晒される今日における美術との向き合い方が、目の前にある作品から離れてしまうことを考えさせる。本展覧会において技法や材料の用い方、そしてモチーフや色彩、構成といった作品そのものの要素に目を向け、その手触りを想起することはローゼンダールの思考に近づくだけでなく、鑑賞するわたしたちのそれぞれの身体や精神に耳を傾けることでもあると言える。


「Calm|ラファエル・ローゼンダール」
会期:2021 年7月 17 日(土)〜8 月 28 日(土)
夏季休廊:8 月 8 日(土)〜8 月 16 日(月)
開廊:火・水・木・土 11:00 ‒ 18:00|金 11:00 ‒ 20:00
休廊:日曜・月曜・祝日
会場:Takuro Someya Contemporary Art
〒140-0002 東京都品川区東品川 1-33-10 TERRADA Art Complex 3F TSCA
Web: https://tsca.jp/
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ラファエル・ローゼンダール
1980 年、オランダ生まれ。現在、ニューヨークをベースにしつつ彼のイン スタグラムにみられるように世界中のあらゆる場所で制作を続けている。2000 年からウェブ作品を発表し活動を続け、インスタレーション、レンチキュラー作品、ファブリック、詩作などの作品へとスタイルを広 げている。2018 年に十和田市現代美術館(⻘森)で初の美術館個展「GENEROSITY 寛容さの美学」を開 催。近年の主な展覧会にホイットニー美術館(ニューヨーク)、ポンピドゥ・センター(パリ)、ドルトレ ヒト美術館(ドルトレヒト)、クンストハル美術館(ロッテルダム)、ステデリック・ミュージアム(アムステルダム)、アーマンド・ハマー美術館(ロサンゼルス)など。 主なコレクションに、ホイットニー美術館(ニューヨーク)、ステデリック・ミュージアム(アムステルダム)、フォールリンデン美術館 (ヴァッセナール、オランダ) 、Lisser Art Museum (リッセ、オランダ)、 MOTI (ブレダ、オランダ)、 Textielmuseum (ティルブルフ、オランダ)、 KRC Collection、Hugo & Carla Brown など。著書には『Home Alone』(Three Star Books)、『Everything, Always, Everywhere』 (Valiz)がある。

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