『ギルティギア ストライヴ』レビュー:格ゲーコミュニティ発展のために! 間口を広げる一作

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格ゲーコミュニティ拡大のために! 難しさと複雑さの違い

筆者はこの記事の冒頭で、「格ゲーは覚えるべき技術が多く難易度も高い」と書いた。しかし、書いておいてなんなんだが、格ゲーそのものの難易度は高くない。「いやそんなことないだろう、格ゲーは難しいよ!」……そう思った人もいるかもしれない。けれども、サッカーや野球、バドミントンなど、なにか友達と遊んだことのあるスポーツをイメージしてほしい。

サッカーにせよ野球にせよバドミントンにせよ、公式戦に出ることを目標とする場合、覚えなければならない技術は非常に多い。技術のみならず、細かなルールも覚えなければならないだろう。そういう意味では複雑なのだ。しかも公式戦では強豪がひしめいているので、勝つのは難しい。

けれども、友達と土日にプレイするとしたらどうだろうか? 技術にこだわる必要もないし、どこまでルールを気にするのかだって友達と相談して自由に決められる。そして、そこまで勝ちに固執することもない。バドミントンのように勝敗を競うのではなく、「ラリーが続くこと」などの楽しみ方を重視するようになる。

格ゲーもこれと同じだ。プロゲーマーになることや大会出場を目指したり、ランクマッチで上位を目指したりすると、覚えるべき技術が多くなる。なぜなら強豪相手に戦うことになるので、難易度も高く天井がない。しかし、公式戦に出ることがスポーツの楽しみ方のすべてでないように、大会やランクマッチだけが格ゲーの楽しみ方のすべてではない。

スポーツを休日に友達と楽しむように、覚えている限られた技術とルールで友達と勝ったり負けたりを楽しむのもまた、格ゲーの楽しみ方だろう。そして、同じ技術・同じ実力・同じ方向性の人とプレイするのであれば、複雑さや難易度の高さというのは問題ではなくなってくる。

こうした状況を実現するために重要なのがマッチングだ。ただマッチングは、ゲームのシステム側だけでなんとかできる問題ではない。確かに優れたマッチングシステムであれば、比較的近い技術・実力・方向性の人とマッチングしてくれるだろう。しかし、そもそも自分と近い技術・実力・方向性の人がいなかったら? つまりマッチングの問題とは、格ゲーコミュニティの問題でもあるわけだ。

そして、格ゲーコミュニティは(特に初心者などの新規参入を考える者にとって)歴史が長くなってしまった。何せ、対戦型格闘ゲームの元祖を『ストリートファイターII』とした場合、今年は格ゲー30周年。『GUILTY GEAR』シリーズの歴史だけみても、23年の歴史だ。つまり『GUILTY GEAR』シリーズだけで考えても、『GUILTY GEAR』1年生から23年生まで多様なプレイヤーがいるということになる。

そして、格ゲーコミュニティ内の比率でいえば圧倒的に初心者が少なく、ある程度の経験者が多数派を占めている。ある程度の経験者……言い換えるなら、「どう攻めるか」という格ゲーの戦略的知識も、多段連続技を出すための操作技術も、一定以上持っている人たちが多数派ということ。そんな環境で、少数派である新規ユーザーが楽しめるのかといえば、現実的に厳しいだろう。

本作は、そんな状況を踏まえた上でのアンサーのひとつの形といえそうだ。新規プレイヤーを考慮して格ゲーのルールを複雑化することは避けたい。しかし、ただ格ゲーのルールをシンプルにしただけでは、底が浅くなり、既存プレイヤーが楽しめなくなってしまう。

そこで、コマンド技や連続技といった格ゲーの基本要素は保ちつつ、一方で、初心者でもゲーム中に楽しさを感じられる瞬間が何度か発生するよう、読み合いを中心に内容を整理。さらにゲーム中の攻防をビジュアル的にわかりやすく表現。その上で、システムによって同レベル帯のプレイヤーが適切にマッチングされるようにする……。

本作はこうした方針で作られたのだろう。だとすると、2021年現在リリースされる格ゲーとして、最適な形の作品になってくるのではないかと思う。

超初心者がコマンドを練習するコツとトレーニングモードの楽しさ

筆者は格ゲーが大好きだ。だから、格ゲーコミュニティが活性化してほしいと願っている。この記事を超初心者にもわかるように……という方向で書いているのもそのためだ。とはいえ、ここまで読んでも、「でも格ゲーのコマンド技って複雑で難しそう……」あるいは「コマンドって試してみたけど、複雑で出せない!」という人が当然出てくるだろう。

格ゲー30年生の筆者も、『ストリートファイターII』が出たてのころ……つまり格ゲー1年生のころは昇竜拳のコマンドが出せず、悔しいから昇竜拳コマンドのない『餓狼伝説』ばかりプレイしていた。そこでこの記事の最後に、「ギルティの新作、興味あるんだけど、コマンド技がちょっと……」という人のためにコマンド入力のコツと、ミッションモードやトレーニングモードの魅力を紹介したい。

すべてのコマンドの技の基本と言っていいのが通称「波動拳コマンド」。「下、前ナナメ下、前+ボタン」というコマンドで、十字ボタンやレバーをグルっと1/4回転する形で入力、最後に前方向と同時に攻撃ボタンを押す。このコマンドが出せない場合、まずは技を出そうとせず、ゆーっくり「下、前ナナメ下、前+ボタン」と入力してほしい。

どれくらいゆっくりかというと、下を押してしゃがんだことを確認、前ナナメ下入力でまだしゃがんでいることを確認、前+ボタンで歩きながら攻撃することを確認……というレベルだ。ゆっくり入力するので、たとえ正しく入力していたとしても技は出ない。しかし、それでOK。そのまま何度か繰り返してみよう。

繰り返したら、徐々に入力スピードをアップしていく。すると、あるタイミングで技が出るハズだ。技が出たらしめたもの。あとは同じスピードで繰り返し練習していくと、徐々に技の出る確率がアップしていく。

これは何も格ゲーに限った話ではない。料理だって楽器の演奏だって仕事だって、はじめからスピーディーにこなすというのは難しい。スマホの入力やPCのキーボード操作だって最初はたどたどしかったはずだ。なので最初は、ゆっくり入力し、徐々にスピードをアップしていくのがコツになる。

また、「前、下、前ナナメ下+ボタン」という通称「昇竜拳コマンド」コマンドの場合、「前に歩きながら波動拳コマンド」という意識で入力してみよう。ただ、最後が「前ナナメ下+ボタン」なので、ボタンは早めに押すことになる。これも、最初はゆっくり入力し、徐々に入力スピードをアップしていく……という形で試してみてほしい。

「ゲームなんだから、技の練習なんかじゃなくて、もっとバトルを楽しみたい!」中にはそう思う人もいるだろう。だが、こうした技の練習もまた、格ゲーのおもしろさのひとつなのだ。そのために最近の格ゲーはたいてい、「トレーニングモード」を実装している。もちろん本作もそうだ。そして本作では、お題をこなしていくことでテクニックが学べるという「ミッションモード」も用意されている。

「トレーニングモード」や「ミッションモード」のおもしろさは2つある。ひとつめは「できなかったことができるようになる楽しさ」。ふたつめは「戦略構築の楽しさ」だ。格ゲーに存在する複雑な操作が必要なアクション。これらを練習し、出せるようになるというのはそれ自体が娯楽的な楽しさを持っている。それが、「できなかったことができるようになる楽しさ」。

これはたとえば、「指でペンを回す」や「指スケ(フィンガーボード)」、「ハンドスピナー」や「けん玉」といった何らかの「トリック」が存在する娯楽が持っている楽しさだ。はじめてやってみたときにはできなかったけど、練習しているうちに徐々にできるようになっていく。そして、やがてできるようになっていく……。その瞬間の達成感、気持ちよさがたまらないのだ!

そしてふたつめの「戦略構築の楽しさ」は、どの技とどの技が連続技になるか調べたり、相手に攻め込んでいくルートを研究する楽しさのこと。これは、トレーディングカードゲーム(TCG)でデッキを構築する楽しさに近い。TCGではカードを、格ゲーでは技を組み合わせて自分独自の攻め方を研究するわけだ。

もちろん、ネットを見れば連続技のレシピや攻め方のルートなどは解説されている。ただ、だからこそ有力な連続技・攻め方は相手プレイヤーの意識に強く残っている可能性が高い。読み合いで相手の裏をかくためには、自分独自の戦略を構築することが重要だろう。

そして、「相手がこういう攻め方で来たときのためにこのカードを入れて……」「相手に大ダメージを与えるためにはこのカードが欠かせない……」などと攻め方を考えつつ、デッキを構築していくのは麻薬的な楽しさがある。TCGをプレイしたことがある人なら、デッキ構築だけで数時間経っていた……なんてこともあるのではないだろうか。

格ゲーもこれとまったく同様だ。「トレーニングモード」を使って、相手の攻め方に応じた立ち回りを考えたり、大ダメージに繋げるためのルートを考えたりするわけだ。

つまり、「トレーニングモード」や「ミッションモード」は決して「つまらない練習用モード」などではない。それ自体が娯楽としてのおもしろさを持っている。筆者も本作を購入してすぐ「ミッションモード」をプレイし、気づくと2時間ほど経過していた。

さらにその後、覚醒必殺技を使ったコンボや「ダッシュロマン」キャンセルキャンセルなどに苦戦して、一時は「ミッションモード全クリアは無理なのでは?」とあきらめかけたが、発売後一週間を経過した現在、ソルのミッションについては全部クリアすることができた。

もちろん「ミッションモード」をプレイする期間中、つまらないと感じたことはなく非常に楽しかった。それぐらいハマり度の高いモードなのだ。

長くなってしまったのでまとめる。本作は、これまでのシリーズのファンにも、「今回初めて買う」という人にもオススメできる内容だと思う。ただ、唯一筆者が失敗したと感じているところがある。それはPS4版ではなくSteam版を買ってしまったところ。Steam版もゲーム内容そのものはPS4版と変わらないのだが、<アートワークやサウンドトラックのついたアルティメットエディション>はPS4版のみの発売となっている。

本作はアートワークもサウンドも、バツグンにカッコイイ。なので、プレイしているうちにアートワークやサウンドトラックが欲しくてたまらなくなってしまい、「こんなことなら最初からPS4で買うんだった……」と思っている次第だ。なので、これまでのシリーズファンでまだ本作を買っていないという人は、個人的にはアルティメットエディションの購入をオススメしておく。

では、最後にこの言葉で締めよう。

“HEAVEN OR HELL, LET’S ROCK!!”

文/田中一広

(執筆者: ガジェット通信ゲーム班)

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