『お坊さんはじめました』新章突入/彼岸寺 創設者 松本圭介さん(3/3)
『彼岸寺』創設者、松本圭介さんインタビュー最終回です。
松本さんは最初の著書『お坊さんはじめました』を書いた当時、「何ができるんだろう?」「何でもやってみよう」とぐいぐい行動しておられました。この本を読んで元気づけられた若いお坊さんも多かったのではないでしょうか? あれから6年が経った今、インドでのMBA留学を経て帰国された松本さんに、「次は何をするんだろう?」と熱い注目が集まっています。まさに「『お坊さんはじめました』新章突入」のときがやってきたからです。
お寺、そして仏教界がにぎわい活気づいていくためには、やはりその担い手であるお坊さんのパワーが必須です。それも、専門性の異なる個性的なお坊さんたちが活躍する多様性があってこそ、お寺にダイナミズムが生まれエネルギーが循環していくのではないかと松本さんは言います。そのお手伝いをするためにできることは何か? その問いへの答えのひとつが、松本さんが準備している『未来の住職塾』なのだと思います。
今回は、その『未来の住職塾』、松本さんが「30年後にこうなったらいいな」と思う仏教界についてお話を伺いました。恒例の『坊主めくりアンケート』もあります。最後までお楽しみください(第一回、第二回)。
『未来の住職塾』でお坊さんをサポート
――以前、日本のお寺の住職は宗教者とお寺の経営者を両立するのが難しいと書かれていましたね。
そうですね。たとえば、台湾は禅宗の尼僧さんが多いんですけど、自給自足の生活でけっこうちゃんとした修行生活を送られています。宗教的な核があって、周りに信者さんたちがいて組織的運営を担うというかたちで比較的上手にまわっています。
日本のお寺は、ひとりの住職が引き受けているものが多すぎると思います。宗教者と経営者は、ある程度のレベルまでは共存できると思うし、普通のお寺の住職は共存させながらなるべく高いところまで目指すべきだと思います。でも、その先になると専門性を持って分かれていかざるを得ないんじゃないかな。宗教性の方向で専門化しているのは、たとえば小池龍之介さんだったりするんだと思います。
同じお坊さんでも、本人の特性はそれぞれに全然違うしひとくくりするには限界があるんですよね。専門性を持つお坊さんがたくさん出てくることによって、全体のダイナミズムが生まれてきて仏教界が活性化されるのではと思います。
――著書で触れられていた『住職の学校』は、宗教者と経営者という面を共存させながらレベルアップするためのアイデアになりますか?
一般的に、宗門での教育は宗教的な部分だけで、お寺をどう運営するかということについては教えてくれないんですね。だから、マネジメントの力を上げて、宗教者と経営者という二つの側面のバランスを取りながら総合的なレベルアップを目指すためのものですね。
また、お寺という非営利法人が活気を持ってまわっていくためには、宗教者としての魅力がないとうまくいかないと思うんです。ある程度、宗教者としてちゃんとしていることが、お寺を運営するうえでも重要なんだということを、お寺の外側からの位置づけられる目線を持っていることも大切で。そういうこともあって、『住職の学校』をやりたいなと思っています。
――具体的な開講予定は決まっていますか?
『未来の住職塾』という名前で、11月からまずは単発のセミナーを企画しています。本格的なスタートは2012年春からになる予定です。半年×2回、1年間で卒業という形で、講義と併せて具体的な企画を実践してもらう場を設けることを考えています(『未来の住職塾』に興味のある方は、[email protected] 宛にメールにてお問い合わせください)。
これからのこと、30年後のお寺のミライ
――今後の活動は、『彼岸寺』を中心に展開していかれるのでしょうか。
『彼岸寺』というよりは、IBA(Inter-Buddhist Association)としてですね。IBAの名前はまだあまり表に出していませんが、私と青江、松下、星覚の4人を理事として3、4年前に公益法人を設立しました。『彼岸寺』などの活動をもっと大きく展開していくため、法人的な立場の整備も必要だと思ったんです。他には、『暗闇ごはん』やiPhoneアプリ『雲堂』などがあって、今後もいろんな活発な動きが出てくるでしょうし、私はマネジメントを勉強してきたし事務方を担いたいなと思います。もうひとつは、これから始める『未来の住職塾』などを通じて、やる気のある若い人たちにも仲間を広げて共有していきたいですね。
――30年後、仏教界がこうなっていたらいいなというデザインはありますか?
仏教を信じるというか「やる」ということがすごく身近になっていてほしいです。かなり突っ込んでやりたい人がお寺で自由にそういうポジジョンを見つけられるようになってほしいし、軽くやりたい人が気軽に出入りできるようにもなっていてほしい。お寺との関わりを通じて、みんなが仏教から「私の仏教」を取り出してモノにしてもらえるようになっていればいいかなと思います。そうなれば自ずと、お寺という場の価値をみんなが認めるはずですし、良いサイクルができているんじゃないかと思いますね。
――仏教を「やる」というのは?
人それぞれだと思うし、宗派もいろいろあるから一概には言えませんが、仏教によってこころが成長し、その変化が行動にも表れてくることではないでしょうか。お坊さんになってもいいし、在家の信者として、実践者として関わっていくのもいいと思いますし。縁ある人が縁に従って自由に仏道に出入りできるようになっていればいいなと思います。
そのためにも、お坊さん対個人の関係性を結ぶ人たちの輪を広げていきたい。光明寺では昔の「講」という考え方を取り入れたいと考えています。檀家ではなくても、その人が気に入ったら個人でお寺のメンバーになっていろんな活動に関われる。メンバーになったから何をしなければいけないというわけではなく、ゆるーい感じで多少の自覚が持てる仲間の輪ですよね。光明寺の場合だと、『誰そ彼』を中心にやる人もいれば、ヨガをやっている人もいて。みんなが集まってやるお餅つきみたいな年中行事もあったりして、個人とお寺の関わりの在り方をひとつのカタチとして定義する仕組みを作ろうかなと思っています。
――そんな未来が来るといいなあ! これからもどうぞよろしくお願いします。ありがとうございました。
(完)
坊主めくりアンケート
1)好きな音楽(ミュージシャン)を教えてください。特定のアルバムなどがあれば、そのタイトルもお願いします。
『誰そ彼』をやっているので「音楽好きなんですね」と言われますが、ぜんぜんです。『誰そ彼』スタッフから「これいいよ」と勧められて聞く、受動リスナーです。みなさんいい音楽、教えてください!
2)好きな映画があれば教えてください。特に好きなシーンなどがあれば、かんたんな説明をお願いします。
『ROVO(ラジニカーントのロボット)』。インドで観ましたが、最近、東京国際映画祭に招待されたみたいです。まったく深みのないマトリックス、という感じです(笑)。ロボットの肌が焼けこげて出て来た骨格のまぬけな表情がいいです。
3)影響を受けたと思われる本、好きな本があれば教えてください。
最近だと”The how of happiness”という心理学の本が、幸せの秘訣を科学的に説いていて、面白いです。あとは、ドラッカーの非営利法人経営関連の本ですね。おそろしくためになります。
4)好きなスポーツはありますか? またスポーツされることはありますか?
スポーツ、あまりしないんですよね。身体がなまっちゃうので、なるべく境内や墓地の掃除を気合いを入れてやるようにしています。
5)好きな料理・食べ物はなんですか?
旅行などでその土地の料理を堪能するのが大好きです。エスニックなものも好きですね。
6)趣味・特技があれば教えてください。
残念ながら、まったくありません。
7)苦手だなぁと思われることはなんですか?
空気を読むこと
8)旅行してみたい場所、国があれば教えてください。
ブータン
9)子供のころの夢、なりたかった職業があれば教えてください。
いつか、お坊さん
10)尊敬している人がいれば教えてください。
たくさんいます!
11)学生時代のクラブ・サークル活動では何をされていましたか?
音楽イベントをやるサークルとか、学生向けのウェブコミュニティを作るサークルとか、いろいろです。
12)アルバイトされたことはありますか? あればその内容も教えてください。
フランス料理屋さんの皿洗い。フリーのウェブデザイナー。衆議院議員事務所スタッフ。
13)(お坊さんなのに)どうしてもやめられないことがあればこっそり教えてください。
いつまで続くか分かりませんが、3年ほど酒やめてます。でも、ベジタリアンにまではまだ行けてません。
14)休みの日はありますか? もしあれば、休みの日はどんな風に過ごされていますか?
ほとんどありません。休みの日は家族と過ごします。
15)1ヶ月以上の長いお休みが取れたら何をしたいですか?
家族で旅行に行きます。つい、またインドに行ってしまいそうです。
16)座右の銘にしている言葉があれば教えてください。
諸悪莫作・衆善奉行・自浄其意・是諸仏教
17)前世では何をしていたと思われますか? また生まれ変わったら何になりたいですか?
うーん、考えたこともなかったです!
18)他のお坊さんに聞いてみたい質問があれば教えてください。(次のインタビューで聞いてみます)
「あなたの理想のお寺はどんなお寺ですか?」
19)前のお坊さんからの質問です。「あなたが生きていこうとするのはなぜですか?」
今日も一日、生きて行こうという元気が、まわりの人のおかげで不思議と湧いてくるからです。
プロフィール
松本圭介/まつもとけいすけ
1979年北海道生まれ。浄土真宗本願寺派僧侶、布教使。東京大学文学部哲学科卒業。2004年、超宗派仏教徒のウェブサイト『彼岸寺』を設立し、お寺の音楽会『誰そ彼』、お寺カフェ『神谷町オープンテラス』を運営。ブルータス「真似のできない仕事術」、Tokyo
Source
「東京発、未来を面白くするクリエイター、31人」に取り上げられるなど、仏教界のトップランナーとして注目される。2010年、南インドのIndian
School of
BusinessへMBA留学。今春卒業し、現在は東京光明寺に活動の拠点を置く。著書に『おぼうさん、はじめました。』『”こころの静寂”を手に入れる
37の方法』 『お坊さん革命』など。
http://higan.net/apps/mt-cp.cgi?__mode=view&id=32&blog_id=66
twitter: http://twitter.com/#!/0tera
Everything But Nirvana(英語版彼岸寺での連載) http://english.higan.net
光明寺
http://www.komyo.net/
浄土真宗本願寺派 梅上山
光明寺。1212年創建。かつての山号は真色山常楽寺。創建当時は天台宗だったが、関東滞在中の親鸞聖人の教化をご縁に浄土真宗に宗旨を改めた。室町時代、疫病の流行に際し、常楽寺の本尊・阿弥陀如来像が光明を放って人々を救ったと信じられたことから、常楽寺を改め「光明寺」と称する。さらに、江戸時代には徳川家康が境内の梅を喜んだ故事に因み、三代将軍・家光から「梅上山」の山号を贈られて山号も改称した。現在は、東京・神谷町、千葉の君津、埼玉の草加にお寺を構え、昔からのご門徒(お檀家)のみならず、あらゆる有縁の方々に「わたしとお寺の新しい関係」を結んでほしいと願い、その機会を作るべく積極的な動きを見せている。
神谷町オープンテラス
http://www.komyo.net/kot/
光明寺境内に開かれたオープンスペース。東京メトロ日比谷線 神谷町駅前から徒歩1分、オフィスビルに囲まれた立地を活かして、周辺で働く人々や地域住民に憩いの場を提供している。飲食物の持ち込みは自由、ランチタイムや休憩に立ち寄ってみたい。境内に入って目の前にある大きな階段を上がって左側、2階部分にテーブルとイス(一部はソファ)が用意されている。お墓の向こうに見える東京タワーがある意味絶景。ひとやすみの前後には、ありがとうの気持ちを込めて本堂の阿弥陀さまにもお参りしよう。水・金は木原店長によるおもてなしもあり(要予約)。
オープン時間:平日9:00-17:00
※土日祝日はお寺の行事(ご法事)のためご利用をお控えください。
※曜日に関わらず、春彼岸(3月17日?24日)、永代経(4月15日)、お盆(7月)、秋彼岸(9月20日?26日)、報恩講(10月15日)の時期はご利用をお控えください。
※平日でもご法事やご葬儀などお寺に都合により臨時クローズあり
※「おもてなし」予約、オープン予定の詳細はウェブサイトで確認を。
お寺の音楽会 誰そ彼
http://www.taso.jp
音楽好きの僧侶と僧侶ではない音楽好き達が開催するライブイベント。「本堂で音楽を聴いてみよう」という軽い気持ちから始まった、言わば”お坊さんのホーム
パーティー”。ふだんは光明寺で開かれるが、静岡・伊東のお寺での『お寺と温泉ライブ あじさいさい』、築地本願寺『本願寺LIVE 他力本願でいこう』などにも協力している。
ウェブサイト: http://www.higan.net/bouzu/
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