「私の庭に寄ってって」! 個人宅の『秘密の花園』を自由に楽しむ「こだいらオープンガーデン」

モッコウバラの棚の木陰でお茶をふるまう森田さん。ちょっとしたおしゃべりも気分転換に(写真撮影/片山貴博)

個人の庭を一般に公開する取り組み「オープンガーデン」。丹精込めた庭をお披露目し、庭を通して地域の人々、同じ趣味を持つ人々との交流を楽しむ場でもあり、英国の慈善団体がチャリティーの一環として始めたものとされている。
まだまだ日本では馴染みのないカルチャーだが、東京都小平市では14年前から、「こだいらオープンガーデン」としてまとめてPR、市がバックアップしている。

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個人宅とは思えないほどの規模のイングリッシュガーデン

今回は登録されている27カ所の庭のうち、市の取り組みがスタートする前からご自身の庭を開放していた「森田オープンガーデン」の森田光江さんにインタビュー。そもそもご自身がオープンガーデンを始めた経緯、どんな取り組みをしているのか、実際にお庭にお邪魔して、お話を伺った。

「森田オープンガーデン」を訪れると、その規模感に圧倒される。1000坪の庭には、カモミール、菜の花、コデマリ、つつじの花々が咲きみだれていた。テーブルやチェアも設置されているなど、まるでフランシス・ホジソン・バーネットの童話『秘密の花園』のよう。これが個人の庭なのが驚きだ。
イメージは“手入れしすぎない、日常の中のガーデン”。こぼれた種をそのままに、自然のサイクルを活かした庭づくりを心掛けている。とはいえ、小道の手前には背の低い花を、奥に行くにしたがって花・樹木の高さが高くなるよう植物を配置し、花々が咲く季節をずらしながら植えられており、散策が楽しくなるように計算もされている。

奥にある玉川上水の並木道も借景にするイングリッシュガーデン。どこからかピーターラビットが現れそうな雰囲気(写真撮影/片山貴博)

奥にある玉川上水の並木道も借景にするイングリッシュガーデン。どこからかピーターラビットが現れそうな雰囲気(写真撮影/片山貴博)

庭にはテーブルやイスがあちこちに。友人から“森田さんのお庭に似合うと思って”と譲り受けることもあるそう(写真撮影/片山貴博)

庭にはテーブルやイスがあちこちに。友人から“森田さんのお庭に似合うと思って”と譲り受けることもあるそう(写真撮影/片山貴博)

撮影は4月下旬。可憐なカモミールの花が満開な季節。「まだまだ、花のトップシーズンはこれから。もうすぐバラが満開になります」と、笑顔で案内してくれるオーナーの森田さん。まるで我が子のように、慈しみ育てている。
「春から秋まではほとんどお庭にいますね。水やり、草むしり、植え替えとやることはいっぱい。今日は朝4時半起きなんです。続けてこれたのは“とにかく花が好き”ということと、喜んでくれる人たちがいるということですね」

奥には家庭菜園もあり、トマトやエンドウ豆の苗が育ち、収穫の楽しさも(写真撮影/片山貴博)

奥には家庭菜園もあり、トマトやエンドウ豆の苗が育ち、収穫の楽しさも(写真撮影/片山貴博)

コデマリ、チューリップ、カモミール、シャクナゲと咲き誇る花々に癒やされる(写真撮影/片山貴博)

コデマリ、チューリップ、カモミール、シャクナゲと咲き誇る花々に癒やされる(写真撮影/片山貴博)

お手製の花時計も自慢の場所(写真撮影/片山貴博)

お手製の花時計も自慢の場所(写真撮影/片山貴博)

庭を開放し、花を愛でる喜びをみんなでシェア

幼いころからずっと花が好きだった森田さん。「14年前に亡くなった夫とはとっても仲良しで、唯一の揉めごとが私の花畑と夫の野菜畑の境界線争いだったほど(笑)。彼が亡くなって本当に悲しくて、泣いてばかりだったけれど、せっかく彼が残してくれた場所なんだからと、花づくりにどんどん精を出すようになったんです」
そして、丹精込めて育てた花々をご近所さんとも共有したいという想いから、庭園を開放するように。そのうち、「もっとゆっくり腰を落ち着けてお庭を見ていただきたい」とテーブルやイスを置いたり、お茶をふるまうように。
定期的に訪れるご近所の常連さんも多いが、玉川上水沿いの緑道に接しているため、「ウェルカム」の看板に誘われ、ふらっと足を運ぶ人も。花の話題で、初対面でも話が盛り上がることも多い。撮影は晴天の4月ということもあり、平日の午前中から、たくさんの人がお庭を散策。なかには森田さんの同級生たちの姿も。
「コロナ禍で、なかなかみんなで集まることが難しいけれど、屋外のこの場所ならと、友人たちが顔を出してくれるんです」

モッコウバラの棚の木陰でお茶をふるまう森田さん。ちょっとしたおしゃべりも気分転換に(写真撮影/片山貴博)

モッコウバラの棚の木陰でお茶をふるまう森田さん。ちょっとしたおしゃべりも気分転換に(写真撮影/片山貴博)

カモミールティーとクッキーのセット(200円)。売上はすべて福祉団体へ寄付している。「最初は無料でふるまっていたらお礼にお土産をいただくようになり、かえって申し訳なくなったんです」(写真撮影/片山貴博)

カモミールティーとクッキーのセット(200円)。売上はすべて福祉団体へ寄付している。「最初は無料でふるまっていたらお礼にお土産をいただくようになり、かえって申し訳なくなったんです」(写真撮影/片山貴博)

手づくりの花籠やボタニカルアートも友人の手によるもの。友人たちにとってもかけがえのない場所になっているのかもしれない(写真撮影/片山貴博)

手づくりの花籠やボタニカルアートも友人の手によるもの。友人たちにとってもかけがえのない場所になっているのかもしれない(写真撮影/片山貴博)

オーナーの森田光江さん。フレンドリーで明るい森田さんの人柄にも惹かれて訪問する人も多い。「今日はひ孫の幼稚園のお迎えに行ってきたばかりなんです」とアクティブ(写真撮影/片山貴博)

オーナーの森田光江さん。フレンドリーで明るい森田さんの人柄にも惹かれて訪問する人も多い。「今日はひ孫の幼稚園のお迎えに行ってきたばかりなんです」とアクティブ(写真撮影/片山貴博)

複数のオープンガーデンを包括することで“花の小平”をPR

こうした自分の庭園を個人的に開放していた森田さんだが、2007年、市から「小平市内のオープンガーデンとしてPRしたい」という打診があったときには、「もちろん大丈夫です」と即答。これまでは、ご近所さん限定だったのが、春には市内外から訪れる人気スポットに。オープンガーデンの登録数も当初12カ所から現在は27カ所となっている(コロナ禍で休園している場所もあり)。
そもそも「こだいらオープンガーデン」とは、それより先に開催されていた「花と緑のこだいらガーデニングコンテスト」から「年間通して展開できないだろうか」という発想から始まったもの。玉川上水、野火止用水、狭山・境緑道、都立小金井公園と、ぐるりと散歩道が一周する約21kmの「小平グリーンロード」とあわせて、散策したくなる街の魅力をPRすることも狙いだ。森田さんのようなイングリッシュガーデンもあれば、開放が期間限定のバラ園、日本庭園もある。

現在の運営団体である、一般社団法人こだいら観光まちづくり協会の若林さち代さんにも話を伺った。「肥料代などの補助金もなければ会費もない、ゆるやかなものです。こうしたマップやパンフレットを作成することで、すべてのお庭を知っていただけたら。登録者のみなさんで情報交換など横のつながりも生まれています。今後は専門家を呼んで勉強会をするなどの取り組みも考えていきたいです」
丹精こめた庭や花を、オーナーと訪れた人がシェアする。地元で過ごすのは週末だけという人が多かったなか、コロナ禍で地元での暮らしを見直す人たちにとって、「オープンガーデン」は格好の癒やしの場、繋がりの場となるはずだ。

「こだいらオープンガーデン」に参画している庭は、この看板が目印(写真撮影/片山貴博)

「こだいらオープンガーデン」に参画している庭は、この看板が目印(写真撮影/片山貴博)

ちなみに数あるオープンガーデンのうち、森田さんのお庭はかなり例外的。通常は飲食禁止、オーナーの対応はあるとは限らない。あくまでも「お庭を楽しむだけの場所」で、生活をしている方の邪魔にならないよう配慮が必要。敷地外からの見学のみの庭もある(写真撮影/片山貴博)

ちなみに数あるオープンガーデンのうち、森田さんのお庭はかなり例外的。通常は飲食禁止、オーナーの対応はあるとは限らない。あくまでも「お庭を楽しむだけの場所」で、生活をしている方の邪魔にならないよう配慮が必要。敷地外からの見学のみの庭もある(写真撮影/片山貴博)

個人のお宅以外にも、レストランの庭、教会の庭園なども「こだいらオープンガーデン」のひとつ。例えば、 教会であるベタニア館のバラ園では、テラスで一休みもできる(画像提供/一般社団法人こだいら観光まちづくり協会)

個人のお宅以外にも、レストランの庭、教会の庭園なども「こだいらオープンガーデン」のひとつ。例えば、
教会であるベタニア館のバラ園では、テラスで一休みもできる(画像提供/一般社団法人こだいら観光まちづくり協会)

自然派レストラン、カフェ・ラグラスの庭園もオープンガーデンのひとつ。店舗利用せずとも庭園を見学できる(画像提供/一般社団法人こだいら観光まちづくり協会)

自然派レストラン、カフェ・ラグラスの庭園もオープンガーデンのひとつ。店舗利用せずとも庭園を見学できる(画像提供/一般社団法人こだいら観光まちづくり協会)

ご夫妻ふたりで手掛けた庭「アトリエ絵・果・木(えかき)」。解体工事などで出る廃材などでプランターや椅子がつくられているのが特長 (画像提供/一般社団法人こだいら観光まちづくり協会)

ご夫妻ふたりで手掛けた庭「アトリエ絵・果・木(えかき)」。解体工事などで出る廃材などでプランターや椅子がつくられているのが特徴(画像提供/一般社団法人こだいら観光まちづくり協会)

●取材協力
一般社団法人こだいら観光まちづくり協会

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