賃貸物件を「借りられない」。障がい者や高齢者、コロナ禍の失業など住宅弱者への居住支援ニーズ高まる

賃貸物件を「借りられない」。障がい者や高齢者、コロナ禍の失業など住宅弱者への居住支援ニーズ高まる

コロナの影響で失業して住まいを追われる人、引越しをしようにも賃貸住宅を借りられない人が増えていると言います。また、障がいや高齢など、さまざまな理由から住宅の確保が難しい人が年々増え、いわゆる『住宅弱者』が社会問題になっています。

例えば、家を借りたくても連帯保証人がたてられない場合や、家賃が払えずに滞納してしまった場合など、連帯保証人の代わりや立て替え払いなどのサービスを提供する組織として「家賃保証会社」があります。また、各都道府県では、国が定める「居住支援法人制度」に沿って冒頭の“住宅弱者”といわれる人たちを支援する団体を「居住支援法人」に指定。各法人の得意な分野で居住支援活動を行っており、家賃保証をはじめ、賃貸物件を借りるうえで困りごとを抱えている人と、家賃滞納のリスクを避けたいオーナーさんの双方をサポートし、「安心」を提供することで、居住支援を行う法人があります。

この家賃保証会社と居住支援法人の両方の顔を持ち、千葉県を拠点に活動している会社が船橋市にある株式会社あんどです。あんどの共同代表である西澤希和子さんと友野剛行さん、そして現在、あんどの提供する「居住支援付き住宅」に入居しているまっちゃんさん(仮名)にお話を聞きました。

月1回の訪問が「うれしい」。住まいの提供にとどまらない居住支援

千葉県内の駅から徒歩8分ほど、築35年のマンションの2階にまっちゃんさんは住んでいます。もともと軽度の精神障がいを抱えながら、会社員として勤めていました。ところが、父親が亡くなってから家庭内のDVトラブルが勃発。3年ほど前にあんどに相談し、「トラブル解決にはまず家族との別居が必要」との判断から、転居を決意。いくつかの物件見学を行い、あんどの居住支援付き住宅に住むようになりました。

まっちゃんさんの部屋はワンルームタイプ。3年以上住んでいるとは思えないほど、綺麗でこざっぱりとした明るい住まい(撮影/片山貴博)

まっちゃんさんの部屋はワンルームタイプ。3年以上住んでいるとは思えないほど、綺麗でこざっぱりとした明るい住まい(撮影/片山貴博)

「これまでのトラブルをふまえ、家族には、当日まで引越すことを知られないようにして入居しました。しばらくは家族と離れたことによる安心と不安とが入り混じった状態。あんどの相談員さんに『まずは自分のことを優先した方がいい』とアドバイスをもらい、毎日の生活を整えることに集中したことで最近はようやく落ち着いて過ごすことができています」(まっちゃんさん)

あんどの相談員は月に1回の訪問。まっちゃんさんは「来てもらえるのがうれしいから、ついいろいろな話をしてしまう」と言います。部屋の隅には「緊急」と「相談」の大きなボタンのあるインターホンのようなものを発見。これは「HOME ALSOKみまもりサポート」の機器で、緊急時のガードマンの出動依頼ボタンのほかに、いつでも相談できるヘルスケアセンターにも繋がるそう。さらに、面談の上あんどの福祉担当者(相談支援専門員資格保有者)が必要と判断した顧客には、より手厚い見守り機器プランを提案します。そのプランでは、トイレのドアにセンサーをつけ、一定期間ドアが開閉されなければホームセキュリティ会社(ALSOK)のスタッフが異常事態と判断し、駆けつける仕組みになっているのです。

まっちゃんさんの部屋の隅に取り付けている「HOME ALSOKみまもりサポート」の機器(撮影/片山貴博)

まっちゃんさんの部屋の隅に取り付けている「HOME ALSOKみまもりサポート」の機器(撮影/片山貴博)

「入居者さんの安心」と「オーナーさんの安心」の両方を守る

これらの見守りサービスが付いていることで「入居者さんの安心はもちろん、オーナーさんの安心も守られる」と西澤さんは言います。

「近年、ここ1年はコロナ禍の影響も重なって『借りられない人』が増えています。家賃の滞納や孤独死などのトラブルを回避するために、オーナーさんが家賃保証会社との契約を必須にしている物件が多いのです。借りたいと思って入居の申し込みをしても審査に通らない。私たちはそのような人に対して、家賃保証とセットで見守りなどのサービスを提供しています。このサービスがあることで、オーナーさんにも安心して貸していただけるのです」(西澤さん)

このように賃貸物件を借りづらい人のことを、国の制度などでは一言で「住宅確保要配慮者」と表現しますが、借りられない理由はさまざまです。障がいがあることや高齢であることが背景にあれば、それぞれの状況に応じて生活上のサポートが必要になることもあるでしょう。

「私たちは家賃保証や見守りとともに、身元保証などの引き受けや、場合によっては入居する方のお金の管理をお手伝いすることもあります。パルシステム生活協同組合連合会さんと連携し、食材の配達時に安否確認をしてもらったり、さらに今年の5月からは万一の孤独死などの際にオーナーさんが抱える家賃損失や残置物の撤去、原状回復などのリスクに対応する保険を提供します」(友野さん)

パルシステムの利用料金は家賃と一緒にあんどから引き落とし。週1回の配達時に配達員が安否確認を行う(画像/PIXTA)

パルシステムの利用料金は家賃と一緒にあんどから引き落とし。週1回の配達時に配達員が安否確認を行う(画像/PIXTA)

「家賃保証」から始まったあんどの取り組み

このように、貸す人・借りる人両方の安心のために、サービスを提供しているあんどですが、会社の設立には共同代表である西澤さんと友野さんのバックグラウンドが大きく関係しています。

「私は不動産会社を経営しており、認知症を抱える人のためのグループホームなどを運営してきました。そのなかで、意思決定に困難を抱えて入居する方の権利擁護のために『後見』が必要であることを感じたんです。地域後見推進プロジェクトの市民後見人講座を受講した後、講師として活動。家賃保証がネックで借りられない人が増えていることを年々感じて各所に相談していた時に、友野と出会いました」(西澤さん)

西澤さんはあんどのほか、不動産会社の役員や全国住宅産業協会の後見人制度不動産部会としても活動している(撮影/片山貴博)

西澤さんはあんどのほか、不動産会社の役員や全国住宅産業協会の後見人制度不動産部会としても活動している(撮影/片山貴博)

友野さんは20数年前から福祉の仕事に携わり、知的障がいや精神障がいを抱えているにも関わらず社会福祉法人の施設に入れない人、退去を余儀なくされてしまう人を無認可施設で支える活動をしてきました。

友野さんはふくしねっと工房の代表として、障がいのある人の自立・就労支援を行ってきた(撮影/片山貴博)

友野さんはふくしねっと工房の代表として、障がいのある人の自立・就労支援を行ってきた(撮影/片山貴博)

「本を何冊か出版した後、全国から相談を受けるようになり、施設の数を増やしても追いつかない状況にありました。そしていつの間にか、自分よりも若いお母さんに『この子のことをよろしくお願いします』と言われていることに気がついたんです。このままだと年長の自分の方が先に老いて死んでしまう、できるだけ『自立できる人』を増やさないと先がないぞ、と感じていた時に、西澤から住宅の確保が困難な人たちが住まいを借りられるよう、家賃保証会社をやらないかと誘われました」(友野さん)

友野さんが代表を務める別会社の障がい者のための就労支援施設(写真提供/ふくしねっと工房)

友野さんが代表を務める別会社の障がい者のための就労支援施設(写真提供/ふくしねっと工房)

全国の居住支援法人や、さまざまな企業との連携がカギ

不動産と福祉という、西澤さんと友野さんの専門分野を活かして連携することで、住宅確保要配慮者向けの家賃債務保証という全国初のあんどのサービスは生まれました。創業後、あんどは千葉県の指定する「居住支援法人」にもなりました。これは、住宅セーフティネット法に基づいて、住宅確保に配慮を要する人たちの支援を行う法人として各都道府県が指定するものです。

居住支援法人制度の概要(資料/国土交通省)

居住支援法人制度の概要(資料/国土交通省)

居住支援法人として、また家賃保証会社としてさまざまな相談を受けるなかで、必要なサービスを付帯する住宅を提供することにしました。それが先に紹介した居住支援付き住宅です。ALSOK千葉と提携した「みまもりサポート」、パルシステム生活協同組合連合会と「安否確認付きの食材配達」、東京海上日動火災保険(株)とはオーナーさんのリスクを回避する保険の提供。実験的な導入として、ソフトバンクロボティクス(株)と感情認識ヒューマノイドロボット「Pepper(ペッパー)」を使った見守りやコミュニケーションの共同研究にも携わっています。

居住支援付き住宅は、オーナーをはじめ、提携団体や企業、ケアマネジャーなど、多くの人の連携によって運営されている(資料/あんど)

居住支援付き住宅は、オーナーをはじめ、提携団体や企業、ケアマネジャーなど、多くの人の連携によって運営されている(資料/あんど)

さらに、西澤さんは全国居住支援法人協議会の研修委員会の委員長として、全国の居住支援法人同士をつなげる活動を行いながら、弁護士や司法書士・行政書士などの士業の人々や東京大学との共同研究にも着手し、一般社団法人全国住宅産業協会にて後見制度不動産部会委員長として不動産後見アドバイザー資格制度の普及に努めています。多くの団体・専門家と連携することで、入居者さん・オーナーさんが現場で本当に必要なサービスを提供し、自社の収益にも繋げて継続できる仕組みを整えてきたのです。

西澤さん(右)が市民後見人養成講座の講師も務めていることで、多くの専門家や団体とのネットワークが構築されている(写真提供/地域後見推進プロジェクト)

西澤さん(右)が市民後見人養成講座の講師も務めていることで、多くの専門家や団体とのネットワークが構築されている(写真提供/地域後見推進プロジェクト)

現在、あんどの活動は全国に広がり、岡山県などにも居住支援付き住宅があるそう。
冒頭で紹介したまっちゃんさんは「コロナが落ち着いたら、亡くなった父との思い出の場所に旅行したい」「いまは簿記2級を取得するために勉強中」だとこれからの希望を語ります。筆者も今回の取材を経て、多くの人が安心して借りる・貸すを実現できるよう、あんどのような取り組みが広がることを改めて強く願いました。

●取材協力
あんど
・ふくしねっと工房
・地域後見推進プロジェクト

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