TVのプレースシフト、タイムシフト

TVのプレースシフト、タイムシフト

『IT批評 1号 特集:プラットフォームへの意思』(2010年12月刊行)より「TVのプレースシフト、タイムシフト」を転載。

TVのプレースシフト、タイムシフト

これまでテレビは支配力の強いメディアとしてユーザの上に君臨してきた。だが現在、その状況はなし崩し的に変わろうとしている。

いつでもどこでも好きな番組を観たい

 かつて、VOD(ビデオ・オン・デマンド)という言葉がテレビの未来として熱心に語られたことがあった。いつでも好きなときに、好きな番組を視聴できるサービスだ。

 現在、VODはサービスレベルでは可能になったが、回線やサーバやコンテンツ・ラインアップの問題があり、幅広く普及したとは言い難い。

 本誌が前号で取り上げたアレックス6チューナーレコーダーは、テレビ番組に限ればVODをしのぐ利便性をユーザにもたらす装置だ。発売から半年、ワンセグ6チャンネルの全テレビデータを保存している人も少なくないだろう。ドラマでいうなら2クール、野球でいうなら放映されたペナントレースの全てが、いつでも楽しめるわけだ。

 アレックス6はテレビ視聴を、時間というくびきから解き放った(タイムシフト)。だが、私たちはまだ場所の制約からは完全に逃れられていない(プレースシフト)。

 いくらアレックス6が過去のテレビ番組をすべて録画しているといえども、保存先であるHDDがなければ視聴不可能だからだ。しかし、これだけネットワークが発達した時代に、わざわざ家へ帰らなければ録画した番組が見られないというのはおかしな話だ。

 ひとつの解決策としてアレックス6の開発元であるソフィアデジタル株式会社が発表したのがARecX6Appだ。これはiPhone用のアプリケーションで、アレックス6で録画した番組を無線LAN(Wi-Fi) を通じてiPhoneで視聴できるようにしたものだ。ARecX6Appがあれば、浴室でもトイレでも、家の中のどこでも過去のテレビ番組を楽しむことができる。

 そもそも家庭内のプレースシフトは、長いことテレビ業界の課題であった。DLNA(Digital Living Network Alliance)の努力によって、ようやく1台のレコーダーを複数のテレビで共有する体制が整ったが、視野を広げればまた違った問題が見えてくる。

 家庭内で共有できるのであれば、仕事先、あるいは出張先からでも録画した番組を視聴できるのではないか。さらに言えば、海外赴任となったビジネスマンとその家族が、日本の家に置いたレコーダーで録画した日本の番組を、回線を通じて海外のテレビで楽しむことも可能ではないだろうか。番組録画DVDを誰かに郵送してもらうかレンタルするような状況は、ブロードバンド時代においてアナクロとなりつつあることは誰もが感じているだろう。

 もちろん現段階では、自宅に置いたアレックス6の録画番組を遠隔地で視聴するのは知識のある人でないと難しい。一消費者が気軽に使えるようなサービスの登場が待たれるところだ。

 これまでテレビ業界は時間や場所の制約を握ることで権力を得てきた。だが、テレビ業界に未来があるとすれば、むしろタイムシフトやプレースシフトを前提にしてビジネスプランを建て直すことではないだろうか。

 近い将来、自宅サーバに録画したコンテンツを、スマートフォンで呼び出して視聴するスタイルは一般的になる。ウォークマンが音楽を居間のオーディオから解放したように、スマートフォンが映像コンテンツをテレビの奴隷から解き放つ日がやがて来る。

※『IT批評 1号 特集:プラットフォームへの意思』(2010年12月刊行)より「TVのプレースシフト、タイムシフト」を転載。

『IT批評』
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