「オレって、……もう下り坂なの?」“40代男性あるある”が描かれ過ぎてる映画『47歳 人生のステータス』の監督に聞いた“あのツラい感じ”からの脱し方

2021年6月11日より映画『47歳 人生のステータス』のオンライン上映が開始しました。

本作の主人公は、47歳の中年男性・ブラッド。50代を目前に人生後半戦を歩み始める中年男性の悲哀と再生を温かく描いたハートフル・ドラマです。

奇しくも筆者は主人公ブラッドと変わらぬ49歳。目に見えて落ちる体力、成功がまぶしいかつての友人たち、自分も輝くステージから遠くない場所にいると思っていたはずが、立っていたのは「思っていたのと違う場所」……等々、まさに「40代あるある」な中年男性の抱える心の孤独を見事に描いた作品です。

見事な描写ゆえ、えぐられる思いもありつつ、その一方で「そうそう、そうなんだよ……」と共感する思いとが共存する、ミッドライフ・クライシス(中年の危機)を描いた傑作となっています。

今回は本作の監督であるマイク・ホワイト監督にインタビューを行いました。

―今日はありがとうございます。僕は今年で50歳になるのですが、近年感じていた「中年男性あるある」が見事に描かれていました。モチーフは中年男性ですが、そこにとどまらない根源的な不安も取り出されているとも感じました。

マイク・ホワイト監督:この作品は、比較によって生まれる不安が題材なんです。その感覚は(中年男性に限らず)みんなが持っている現代的なものですよね。特に、SNSでそういったことが加速しているんじゃないかな、って思います。今って特にSNSで皆が上げているような“うらやましい暮らし”をしたい、と比較して、それで不安になっているんじゃないかな。

―“中年の危機”を描くにあたり、ベン・スティラーさんが主演となりました。本作は彼が主演であることを想定した脚本でしたか?

監督:もともと僕は彼のファンで仲も良いんだけれども、彼って神経症的な落ち着きのないタイプをコメディという形で演じてきて、そういったベンのアイデンティティというものをうまく使ってもらって役を演じてもらえたら面白いんじゃないかとは思ったんだよね。

けど、脚本は彼を想定したいわゆる“当て書き”じゃないよ。

「こういう役者がいいんじゃないか」っていうリストを見たとき、彼がパーフェクトだったよ。あと、コメディが多い人がシリアスな役を演じたとき、より効果的になると思っていたんだ。

―この作品には、端々にすごく刺さる描写がいくつもありました。
中でも「50歳なのに自分を中心に考えているのね」というアナーニャのセリフは、男性性のひとつをよく表しているセリフだと思いましたし、ここにかなりの要素が集約されているなとも感じました。
男性には、自分が“ステージ”に居ないと気が済まない性質って少なからずあると思うんです。そうしたことも含め、作中では周りの人が声をかけてくれているけれどもそれに気づかないことが多いという事もうまく描かれていると思うんですね。

監督:確かに主人公のブラッドは心理的な痛みを多く経験しているよね。それがどこから来るのかというと、自分の価値、自分の存在を証明するために、外にあるものを物差しにしちゃっているからなんだと思うんだ。孤独感ってそこから生まれてるんじゃないかな。

―もしこの作品を観てもなお「自分は孤独だ」と感じている男性が居る場合、監督ならどんなことを言ってあげられると思いますか?

監督:人生って、「自分が知っている人」が自分の人生なのであって、自分を他の誰かや、他の誰かの成功と比較することはただの幻想にすぎない。その幻想でも抱いてしまうと、心の痛みを抱えてしまうんじゃないかな。

僕から提案したいのは、表面的なモノサシで成功を測るのではなく、子供でも親でもパートナーでも友人でもいいんだけど、自分に近い人たちで(その人たちとの関係値、信頼度を)測っていこうという考え方だね。

まず、自分の居るところというものをきちっと地に足をつけて、どの瞬間もキッチリと生きること。自分をまず信じることからスタートして、周りの人が自分を信頼してくれている、そして自分もまた信じているというところから、少しずつ築き上げていけばいいんじゃないかな。

―価値基準を切り替えることが必要ですね

監督:外側のモノによる成功―たとえば「仕事による成功」だったり、「たくさんお金を稼いだ」とか「プライベートジェットを持っている」とか、そういう成功ではなくて、自分と人生をともに生きている人たちにとって、自分がやっている事が成功に映っているかどうか。「自分と彼らとの関係が成功と言えるものなのか」っていうモノサシでいいんじゃないかな。

―制作のきっかけの一つに、お父さんに観てほしいという思いがあった、と伺いました。実際にお父さんには観ていただけましたか?

監督:(笑)うん、彼にも観てもらえたよ。僕からすると父は主人公のブラッドのように気持ちのアップダウンが激しいタイプ。空想モードに入ってるときもあるし、躁鬱っぽいムードが変わってしまうような一日中アップダウンがあるタイプだと思っていたんだ。だからこそ、この作品を観たときにどういう風にこのブラッドっていうキャラクターのことを思うのか、少し心配だったんだよね。

けど、実際にはブラッドの事を全然自分に近いと思ってなかったみたいなんだ。「すごい神経症的だよね、あいつ」って言ってて(笑)。……って、こんな話ができるのは日本の媒体だからだよね。アメリカの媒体だったらとてもこんなこと言えないよ!(笑)

―今日はありがとうございました!

終始、にこやかに対応してくれたマイク・ホワイト監督、「成功していない事への失望」や「孤独感」の解消について「価値基準を切り替える」という方法を示してくれました。

中年男性に限らずとも陥りがちな“心の危機”。そんなときは『47歳 人生のステータス』を観て、自分の生活の中で関わる人々を思い返してみてはいかがでしょうか。

(C)2017 Amazon Content Services LLC and Kimmel Distribution LLC

『47歳 人生のステータス』公式サイト:
https://www.star-ch.jp/starchannel-movies/detail_047.php

■ストーリー:
ブラッド(ベン・スティラー)は、優しい妻のメラニー(ジェナ・フィッシャー)と、⾳楽の才能がある息⼦のトロイ(オースティン・エイブラムス)とサクラメント郊外で穏やかな⽣活を送っている。仕事も順調だ。とはいえ、やる気と希望に満ち溢れた⼤学⽣時代に思い描いていた未来図とは何か違う。 そんな中、ブラッドはトロイの⼤学受験の準備で、親⼦2⼈でボストンの⼤学を巡ることに。トロイを案内している間も、頭に浮かぶのは⼤学時代の4⼈の親友たちと⾃分の⼈⽣の⽐較ばかり。というのも、ニック(マイク・ホワイト)はハリウッドの⼤物、ジェイソン(ルーク・ウィルソン)はヘッジファンドの創設者、ビリー(ジェマイン・クレメント)はハイテク企業の起業家、そして、クレイグ(マイケル・シーン)は政界の情報通でベストセラー作家と華々しいキャリアを築いているからだ。 ブラッドは、彼らの裕福で魅⼒的な⽣活を想像し、居⼼地の良い中流家庭が⾃分の⾏き着く最⾼のものなのかと思いを巡らせる。しかし、旧友たちと再び連絡を取るようになり、次第にブラッドはある疑問を抱き始めるー⾃分は本当に負け組なのか、それとも、友⼈たちの輝かしい姿の裏には本質的な⽋陥があるのかー

■配信情報:
6月11日(金)よりオンライン上映
【MIRAIL(ミレール)】 https://mirail.video/title/1030002 [リンク]
【Amazon Prime Video】 https://amzn.to/35aQd2i [リンク]
【U-NEXT】 https://video.unext.jp/title/SID0054922 [リンク]

■価格:
通常価格1,200円(税込) ※MIRAILのみ「特典映像アフタートーク」付きバージョン(監督・出演者インタビュー)
47歳限定特別キャンペーン価格470円(税込)※MIRAIL限定

オサダコウジ

慢性的に予備校生の出で立ち。 写真撮影、被写体(スチル・動画)、取材などできる限りなんでも体張る系。 アビリティ「防水グッズを持って水をかけられるのが好き」 「寒い場所で耐える」「怖い場所で驚かされる」 好きなもの: 料理、昔ゲームの音、手作りアニメ、昭和、木の実、卵

TwitterID: wosa

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