OKAMOTO’Sのアドレス帳 Vol.38 渡辺大知 & オカモトショウ



OKAMOTO’Sのメンバーが友人はもちろん、憧れのアーティストなどをゲストに迎える対談企画。オカモトショウがホストを務める第38回目は、4月28日にリリースされるオカモトショウの初ソロアルバム『CULTICA』の収録曲”Replay feat. Pecori”のMVを手掛けた渡辺大知が登場。旧知の仲である2人が本作で改めて手をとりあった経緯から制作の様子などを聞いた。



ショウ「こうやって二人でインタビューされるのって、いちばん初期に一緒にツアー行ったときぶりじゃない?」


渡辺「10年くらい前に北海道とか行った直後だよね。車内でどういう話をしたかとか、そのインタビューで話した気がする」


ショウ「そうかあ、もう10年くらい前か」


――そこからもお二人はずっと交流が続いていたんですよね。


ショウ「ここ4年くらいでまた遊ぶことが増えました。なんでだろう?」


渡辺「上京した時からショウくんとは家も近くて定期的に遊んでましたけど、いい歳になったというのもあるんですかね。お互いにいろいろ経験して、バンド対バンドのメラメラ感みたいなものではなく、人として改めて好きになって、音楽とかを超えたところで一緒に楽しめるようになったという感じがします」


ショウ「今回のMVの話をしたのは年末かな?」


渡辺「うん。お茶しようって喫茶店に行ったときに、次の曲のMVの監督を探してると聞いて、楽しそうだし、やれたらいいなと思って。流れというか、ノリでやらせてもらうことになって」


ショウ「今回のソロはずっとMACHINE PRODUCTIONにジャケも MVもお任せしてたんですけど、これはスケジュール的に厳しいとなって、どうしようかなと思ってた時にたまたま大知と会って、『誰かいい人いないかな?』って相談したんですよ。ソロプロジェクトだからそんなに潤沢な資金じゃないけどって。そしたら、『いつ出すの? 俺が撮るのはどう?』と言ってくれて。大知が撮ってくれるのは、繋がりもあるし、どれだけ映画好きかも知ってるからもちろん嬉しいけど、”Replay”はバキバキな曲だから好みもあるだろうなと思って。じゃあ一回聴いてみてよってその場で聴いてもらったら、『めっちゃ格好いい!』と言ってくれて、一緒にやろうとなりました」




――最初に曲を聴いたときの印象は?


渡辺「歌詞は全部聴き取れなかったけど、記憶にまつわる曲という気がしました。僕の勝手な印象ですけど、イントロ部分から、信号というか脳内の記憶を司る海馬の中のシナプスたちの話という感じがしたんですよ。MVの話をしてたから最初からそういう耳で聴いてしまったのもあるんですけど、絵がパンパンと浮かんでくるような曲で、自分の中では暗闇から『オーイ!』って光を放ってるようなイメージがあった。でもいざ撮るとなった時に、照明もあまり使えないから、暗闇から光というイメージは難しそうだなとなって、車窓がいいんじゃないかという話はしました」


――その喫茶店の段階で?


渡辺「はい。自分が実際に監督しなかったとしても、こういう話は楽しいじゃないですか。この曲だったらこういうMVが合うんじゃないかって、妄想とか普段の遊びの一環というか。そういうことで盛り上がれたのが楽しかったし、違う人にお願いしたとなっても俺はそういうことで嫉妬もしないし、その時は普段しているような会話の延長で、俺だったらこういう雰囲気は合いそうな気がするということだけ伝えさせてもらって」


ショウ「そのイメージがガチッとはまったのは嬉しかった。その時点で、自分がやれることをなんでもやるから、撮りたいものを撮ってほしいという感じになりました」


渡辺「でも最初ショウくんは『大知が映像好きなのはもちろん知ってるけど、映画やドラマ仕立てにしたいわけじゃないし、ちょっと……』みたいな(笑)、どれくらいわかってくれるかなあって恐る恐るみたいな感じだったんですよ」


ショウ「確かに(笑)。俺の中の大知のイメージは、“Replay”みたいな質感じゃないんですよ。フォーキーだったり人情味があったりという印象が強いから、極端に言えば真逆の性質というか。さらにこの曲はかなり実験的に、新しいことをしようと挑戦してる曲だから、みんなにこの曲の感じがわかってもらえるかなと危惧してたのもあって。なにしろビートがないとこから始まって、ビートがついてみたらめっちゃ速いし」


――途中にはザ・ベンチャーズみたいなところがあったり。


ショウ「そう。これはウェスタン・ミュージックとトランスを合体させてる曲で、王道からハズして、どぎついセンスを炸裂させてる。だから大知に伝わってたのが余計に嬉しくて、一緒にやるしかないでしょうというところまで急激にいきました。曲への理解というか阿吽で乗っかりあえるかどうかというのは、自分の中ですごく大きかったんです」








――そこからどうやって詰めていったんですか。


ショウ「Pecoriと大知は何回か会ってはいたけどゆっくり話したり遊んだりはしてなかったから、大知の家に3人で集まっていろんな DVDを観ながら話したんです。そこで今回のMV のインスピレーション源となる作品を見つけたことで8割くらい構想が固まって、一気に撮影、完成まで雪崩れこんで。本当にいい遊びというか、いい会合みたいなノリで進みました」


渡辺「うん、飲みの延長でできたMVという気がする。何度も言って申し訳ないけど、予算がないとなったらノリや空気感で勝負するしかない。本当は巨大な鏡を破壊したり、いろいろやりたいことはあったんですけど、やれる範囲でとなったら“空気感”が重要。それはワチャワチャしてるという意味ではなく、3人が共通で好きななにかが盛り込められたらという意味で、だからそういうノリでできたのは良かった」


――そのインスピレーションとなった DVD とは?


渡辺「ネタバレになっちゃうからあまり言いたくない(笑)」


ショウ「(笑)。ネタバレしても、MVにあれを持ってくる発想がすごいいし、そんな人なかなかいないから言っちゃっていいんじゃない? 」


渡辺「『コヤニスカッツィ/平衡を失った世界』(1982年制作のドキュメンタリー。監督:ゴッド・フリーレッジョ 音楽:フィリップ・グラス)という映画です。最初はパトリック・ボカノウスキーという作家の映画のイメージで話してたんですけど、予算的に車窓をベースに作ったらいいんじゃないかという流れになって、車窓でいちばん格好いい映画はなんだろうというので、僕は『ポンヌフの恋人』のオープニングと『コヤニスカッツィ』が浮かんだんです。他にも車窓で言うと『タクシードライバー』も好きですけど、『コヤニスカッツィ』は実験映像だからドラマになりすぎず合うし、一回観てみようとなったらすごい化学反応を起こして」


ショウ「そう。『めっちゃ合う! ちょっと曲流して!』みたいになって」


渡辺「もともと派手だけど落ち着いてる、ビデオアートというよりは映画を観てるような雰囲気にできたらとは思っていたんですが、まさに『コヤニスカッツィ』は地味だけど燃えるような高鳴りを用意してる作品。ただ車が走っていたり、人が歩いているのをスローで撮ってるだけなんだけど、なんかアガる瞬間がある映画で、そういうのがこの曲に合ってるなと思いました」


――それに加えて、歌詞の意味とも呼応しているようなMVになっていますよね。


ショウ「まさに。Pecoriとフィーチャリングした曲たちは、2人がハマってる『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』というホラー映画シリーズがベースなんです。白石晃士監督とかが撮ってるフェイクドキュメンタリーみたいなシリーズで、OKAMOTO’Sのメンバーもみんな好きなんですよね。それをベースに、ちょっとホラー寄りのことを音楽でやろうというので1曲目は”CULT”、次がオバケの話で”GHOSTS”。で、3曲目をどうしようかというときに、2人で『コワすぎ!』を観ていて、投稿者からのビデオが流れた後に『もう一度ご覧いただこう』とナレーションが入って『Replay』のテロップ出る。そのときの曲が格好よくて、『Replayヤバい!』というノリで最初のテーマが出てきた。きっかけが明確だったから、逆に、もう1回やっちゃう、再生するというだけで明確な意味をあまり持たせすぎずに2人それぞれで歌詞を書き始めて。Pecoriは人生が始まって終わってもう1度繰り返される、輪廻転生みたいなところに言及できたらいいなって歌詞になった。俺は人生の中の、例えばジェットコースターに乗ったらチョー楽しかった、もう1回並ぼうみたいになっちゃう瞬間。人がやめたくてもやめられなかったり何回もやっちゃうようなエネルギーに魅了される瞬間がおもしろいと思って、もうちょっと短期的なリプレイを歌ってます。そういう曲に対して大知から記憶というイメージが出てきて、すごく正しいと思った」


渡辺「確かにそう聞くと正しいって感じがするね。後づけだけど、MVでも輪廻転生感と言われてみればそういう風に見える気もするし、ショウくんが言ってた同じことをやりたくなる感じやジェットコースター感も、2人の空気感や車が走ってるシーンが何度も出てくるところでそう見えたり」


ショウ「そうなのよ。それこそバンドで曲を書こうというときには目的だったりお客さんに届くときのこと考えて書くことが多いんだけど、ソロに関してはもっと抽象的でいいと思っていて。そんな抽象だったのに、こうやって見事に三位一体でマッチしていけたという手ごたえはあります」





――実際の撮影は1日で?


渡辺「ショウくんとPecoriくんは1日。車の映像は12時間くらいかけてますね。20分間カメラを回しっぱなしでも10秒分の分量にしかならないから、時間はかなりかかってます。それとは別でインサートする他の映像も撮ったり」


――衣装も鮮烈ですが、渡辺さんのディレクションですか。


ショウ「あれは俺らの私服です」


渡辺「3人で遊び行ったときに、2人ともMVで着る想定の服を着てきてくれたんですよ」


ショウ「そう。前もって示し合わせたわけじゃなく、『ちなみに俺はMVでこれ着ようと思ってます』で行ったら」


渡辺「Pecoriくんも『ちなみに俺はこういう感じ』って」


ショウ「2人で赤と黄色で揃っちゃって、大知もいいねって言ってくれたからそれで決まった」


渡辺「あ、でも夜のほうは意見を言わせてもらいましたね。2人が黒のタンクトップにすると言ってて。夜はクールに締めて、昼の陽と対比をつけたいと思ってたので、それだとちょっとというのは言わせてもらって」


ショウ「2人とも暴走しがちなんで、『黒タンクで2人で車に乗ってるのよくない?』『最高っすね』となっちゃって(笑)」


渡辺「でもPecoriくんが撮影直前に3人のラインで『俺、やっぱり違うと思います』って言ってきて(笑)」


ショウ「『うん、俺もちょっと違う気がする』って。それで一気に修正されました(笑)。衣装もですけど、撮影でもしっかり絵コンテを描きこんでもってきてくれたり、編集も最後まで細かい修正を入れてくれて、それが全部よかったんですよ。実際、すごくよいものができた」


渡辺「本当に? ああ、よかった。俺はMVのプロじゃないんで、正直に言うと完成形はギリギリまで見えなかったんです。もともとはもう少しクールなイメージを想定してたんですけど、2人の陽の空気が強くて、パソコンに入れて編集で並べてみると意外と明るくなって。それを無理に消すよりは、この街中でスピーカーで曲を流してリップシンクしてもらった時の2人の感じを大事にしたかった。このムードをMVに盛り込みたい、でも暗さもあるといういい塩梅でいけたらなと編集しながら自分も探っていて。だからカラコレ(カラーコレクション:映像の色彩を補正する作業)して、こういう印象になるんだってまた直したくなったり。このMVのテンポ感はどれくらいが気持ちいいのかとかは色が完成してからじゃないと掴めなくて、二転三転して迷惑かけちゃったんです。最初はもっとカット数が少なかったんですよ、後半は特に。でも色が当たってから、もっとバンバン出てきた方がいいなってわかって。その段々曲のことがわかってくる感じも楽しかったですね。パソコン上にいるショウくんとPecoriくんの波長をようやく掴めて、やりながら2人が俺に問いかけてきてる感じでした。編集中、ずっと楽しかったです。今回の編集で改めてショウくんとPecoriくんのファンになりました」


ショウ「俺のことは前から知ってるけど、Pecoriの良さはあるよね。俺もフィーチャリングしだしてから、余計にファンになった」


渡辺「Pecoriくんは撮影当日に、急に首輪を使ってくれたんです。逆再生には首輪があった方が効果出ますよねって。で、定期的に『ここ、逆再生っすか?』って紐をぶんぶん振り回し始めて(笑)。映像に対してもすごく気を遣ってくれたし、実際活かされました。今回は合わないから泣く泣くカットしてるけど、2人ともめちゃくちゃいい表情してるのがたくさんあって。やっぱり2人とも表情がいいし、特になんにもしてない時の表情がいい。あと編集してて思ったのは、ショウくんは笑顔が優しすぎて、スローにするとちょっとロックじゃなくなる(笑)」


ショウ(笑)


渡辺「 それで使ってないのとかある。普段から優しいことを知ってるんで、内面がこんなにも出るんだって思いました(笑)。それはパソコンを見ながら勉強になりましたね」


――その素の表情を見せられたのは大知くんだからというのもありますよね。


ショウ「確実にあります」


渡辺「嬉しい。僕も変な緊張感がなくてやりやすかったです」





――今回のMVは2人が人と人との繋がりになって、それがさらにクリエイティヴに結びつくという素敵な形のものになっていて、2人をずっと見ていたファンの人たちからしても嬉しい作品だと思います。最後に今後の予定についても聞かせてください。渡辺さんは映画監督としてなにかご予定は?


渡辺「今年、短編映画を撮ります。山田孝之さんプロデュースの、いろんな人が映画をとるという『MIRRORLIAR FILMS』(https://mirrorliar.com)のために脚本を5本書いて、その中からいま一番やる意味がありそうなものを選んで第一稿ができた状態です。ほかにも趣味で物語を作ったりはしてますけど、それを実際にどう転がすか、どう膨らますかはまだわからないですね。映像全般が好きなので、監督としてであれ役者としてであれ、作品をよりよくするためにはどうしたらいいかを研ぎ澄ましながら仕事していきたいなと思っています。あと今回、こうやって人となにかやるのはやっぱり楽しいなと思いました。一人で家でなにか作るより、 人と作ることが好きだったからこそバンドも組んでたんだって思い出しました」


――まさにショウくんはソロ活動然り、人間関係も音楽の幅も広がっていっていますが、今後の動きとしては?


ショウ「基本的にバンドが一番大事なのは変わらないです。自分の人生で大きく見るとそこは変わらないんですけど、やりたいことはバンドでできてるからこそ、面白いと思ったことを瞬発力ですぐやれるようにしたいというのがソロプロジェクトをやる一番の理由で、このMVはまさにその醍醐味を体現できた。もうちょっと状況が落ち着いたらライヴもやりたいし、急に思いついて弾き語りとかもあるかもしれないです。俺も人と作るのが楽しいという気質で、ソロはフィーチャリングを簡単にできるプラットフォームとしても機能させたいから、アルバムではPecoriやAAAMYYYちゃんの他に、オーストラリアのバンドLast Dinosaursの人とも一緒に書いていて。それこそ今回はMVでのコラボだったけど、大知とも一緒に書きたいなと思う。そこからバンドに持ち帰れるものもあるだろうし、そういう風に、思ったようにやれる場所があってバンドもちゃんとあるというのが、30歳を過ぎた自分にとってのバランスの良さになんじゃないかなと思います」





photography Rei Kuroda (IG)
text & edit Ryoko Kuwahara (IG)



オカモトショウ
『CULTICA』
4月28日発売


渡辺大知
ミュージシャン・俳優。1990年8月8日生まれ。兵庫県神戸市育ち。高校在学中の2007年にロックバンド「黒猫チェルシー」を結成。ボーカルを務める。2010年にミニアルバム『猫Pack』にてメジャーデビュー。2018年10月に黒猫チェルシーは活動休止。音楽活動と並行して俳優としても活動を拡げ、デビュー作となる映画『色即ぜねれいしょん』(2009年公開)では日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞、数々の映画やドラマに出演。
また、初映画監督作品『モーターズ』(2014)で”PFFアワード・審査員特別賞”を授賞するなど多彩な才能を開花させている。4月期のドラマ「桜の塔」(テレビ朝日)にも出演。
https://daichiwatanabe.com
https://twitter.com/and0808


オカモトショウ
1990年10月19日、アメリカ・ニューヨーク生まれ。中学在学時、同級生とともに現在のOKAMOTO’Sの原型となるバンドを結成。2010年、OKAMOTO’Sのヴォーカルとしてデビュー、結成10周年となった2019年には初めて日本武道館で単独ワンマンライブを成功させる。OKAMOTO’Sとして4月7日、2021年第4弾配信シングル「M」を配信リリース。2021年4月28日、初ソロアルバム『CULTICA』をリリース。
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https://www.instagram.com/okamotos_official/
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