日本のマスコミはいつ弱体したのか

日本のマスコミはいつ弱体したのか

今回はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。

日本のマスコミはいつ弱体したのか

1995年のオウム真理教事件の頃ぐらいまでは、日本のジャーナリズムは機能していたと思うんだよね。宗教問題だとして及び腰だった警察を尻目に、初期のオウム真理教問題は週刊誌などのジャーナリズムがリードしていた。

サリン事件を起こす前からオウム真理教はさまざまな小規模な事件を起こしていて、「どうもこの教団はただの宗教団体じゃない」という警告をジャーナリズムは発していた。

ところがそこがピークだったように見える。なんかこの時を堺にどういうわけかジャーナリズムは急速に力を失っていく。同じ年の阪神淡路大震災で、市民が震災の現場を撮影している記者に「写真なんか撮ってないで救出を手伝え」と暴言を吐いたことに象徴されるように、なんかジャーナリズムを低く見るような風潮が広がっていったように思う。

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一つには阪神淡路大震災の直後か、そのちょっと前ぐらいから、マスコミの取材姿勢やマスコミの健全性が必要以上に厳格に求められる流れになった事。むかしはジャーナリストというのはその性質上犯罪者とも付き合って情報収集しなければならず、それゆえガラも悪かったのが普通だったように思う。

ところが急に「いい子」がマスコミに対して求められるようになった。報道機関の記者の軽微な犯罪が必要以上に大きく報道されるようにもなった。繰り返すけれどそれまで記者なんて胡散臭いものだったと思う。

またオウム真理教事件があまりにも衝撃的だったために、世論が一方方向に収束してしまって、別な視点での記事を書けなくなったことがあるかもしれない。少なくとも1995年から数年間は、オウム真理教寄りの記事はもちろん、ちょっとでもオカルト的なものは社会から徹底的に排除された。

テレビや雑誌からもオカルト的なものが一切消えた。オウム真理教とは全然関係のないオカルトも。

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もう一つのきっかけは2001年の小泉政権の誕生だったかもしれない。圧倒的な人気を誇っていたので、小泉政権を批判するような報道は国民から叩かれた。小泉総理自身、しばしばマスコミ批判をしたので、国民はさらにマスコミを叩いた。

だから少なくとも小泉政権の前半は、ほとんどマスコミは小泉政権を批判できなくなってしまった。その恨みが後の安倍政権に対するマスコミの徹底的な批判につながっているのではないかと思うほどだ。

9.11同時多発テロで、安全を求める意識が高まったことも原因かもしれない。とにかく社会から危険なものを排除すべきという風潮になり、間接的に警察への期待が高まった。それまでマスコミは警察に対するチェック機能として機能していたのが、国民から見れば(逆恨みなのだが)マスコミはしばしば警察の邪魔をする存在に見えたのかもしれない。警察のやることに口を出すな、と。

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むかしは国民もマスコミも現在よりもはるかに警察に批判的だった。むしろ国民にとって警察は批判の対象だったといってもいい。日刊ゲンダイが風営法違反幇助(アダルト広告の掲載)で家宅捜索を受けた時、俺は驚いた。日刊ゲンダイといえども一応新聞社なわけで、新聞社に対して警察が家宅捜索を行うなど考えられなかった。

それを許せば警察は報道機関に圧力をかけることができてしまう。マスコミは警察の顔色を伺っうようになるだろう。ところがそれは行われ、国民や他のマスコミもそれをたいして批判しなかった。こうなれば警察は怖いものなしだ。マスコミの警察批判能力は失われた。国民がそれを望んだのだ。

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マスコミの弱体化はこのオウム真理教事件から小泉政権の終わりまでの1995年~2005年の10年間ぐらいの間に急速に起きたように思う。原因がこれだけなのかもわからないが、時期的にはこれは確実だと思う。なんか他にも原因があるような気がしてならないのだが…。

結局この期間に、有能なジャーナリストは淘汰されてしまったのだろう。しかも有能なジャーナリストが淘汰されただけでなく、有能なジャーナリストを生み出す土壌も破壊されてしまった。

一度こうなると悪貨は良貨を駆逐する。もう有能なジャーナリストは現場で求められていないのだろう。なんでこんな事になってしまったのか…。

ジャーナリズムというのは本質的に批判的であらねばならない。それがオウム真理教に立ち向かった警察や、空前の支持率を得た小泉政権に対して、批判を許さない国民の感情が日本のジャーナリズムを壊滅させたのだろうか。

執筆: この記事はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年03月13日時点のものです。

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