野蛮と文明(3) 「エコのウソ」はなぜ続くか?(中部大学教授 武田邦彦)

野蛮と文明(3) 「エコのウソ」はなぜ続くか?(中部大学教授 武田邦彦)

今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

野蛮と文明(3) 「エコのウソ」はなぜ続くか?(中部大学教授 武田邦彦)

原発が爆発したのは、「高度な技術と倫理の欠如」だった。その点で、私は新幹線に不安を持っている。今日はその第一弾。

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東海道新幹線のテロップには「エコのウソ」が満載されています。これは今に始まったことでは無く、10年来、ズッと「エコのウソ」が続いています。

最近のウソは「新幹線でエコ出張。出張の時に乗り物を選びましょう」というものです。このテロップを見ていると、あたかも新幹線で出張するとエコのように思いますし、少なくともJR東海ともあろう会社が日本を代表する新幹線で流し続けているのですから、信じる方が「善良」と言えるでしょう。

このグラフはやや専門的ですが、およそ輸送に関係している技術者なら誰でも知っていることです。横軸が移動速度の対数、縦軸がエネルギー消費量で、移動速度が10倍になると、消費されるエネルギーは100倍になります。特に時速100キロ以上になると空気抵抗が速度の累乗になるので、エネルギーはかなりかかるようになります。

つまり「速く移動すれば移動するほど、多くのエネルギーを使う」ことと、100キロ以上はエネルギー多消費ということがわかります。本当にエコを第一にして出張するなら時速50キロぐらいが適当ということです。

私は「本当のことを知っていて、間違った事を人に伝える」という場合を「ウソ」と言っていますが、JR東海はウソつきということになってしまいます。

もう一つ、10年ほど前の新幹線のテロップに「新幹線で東京から大阪に移動するとCO2の排出量はヒコーキの10分の1」というのがありました。これも「ウソ」です。

正しく言うと、「線路、鉄橋、トンネル、駅、取り付け道路、駅の照明、照明器具と作る時のCO2・・・・」などすべてのものを作ったり据え付けたり維持したりするときに使ったCO2を全部、無視して、ただ空から新幹線の車両が降ってきて東京駅に据え、線路を通って新大阪まで行く時に使う電気だけと、飛行機が羽田空港から伊丹空港に飛ぶ時に使う軽油だけを比較すれば」という前段があるのです。

それは輸送を専門とする技術者はみんな知っている事であり、特に鉄道の技術者なら、「輸送の時に使う電気」以外のものをできるだけ減らすのに全力を注いでいますから、よくよく身に沁みていることなのです。

ヒコーキは重力に逆らって空を飛びますから、飛んでいる時にはエネルギーを使います。これに対して鉄道は線路で重力を支えますから、どうしても線路、盛り土、トンネル、鉄橋などを必要とします。

また、スピードも違い、大阪―東京ぐらいならそれほどの差はありませんが、東京―福岡ぐらいになると、エネルギー的にも航空機が有利になります。

一頃、テレビの解説者が同じウソをついていました。「電気自動車はCO2を出さない。」というものです.これも正しくは「電気自動車を作る時のCO2を無視すればとか、バッテリーで充電しているときの火力発電所のCO2は計算しない」ということです。テレビでも見ている時にはCO2を出しませんから、あまりにも単純なウソです。

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問題は科学技術立国と言い、多くの優秀な技術者がいて、しかもJR東海という立派な会社が、なぜこれほど長い期間にわたってウソを続け、それも新幹線のテロップという場所で流し続けているのか?ということです。

一つの原因は「技術者の倫理の喪失」でしょう。専門家が大切にするものは、お金や名誉、それに上司の命令などを超えて、その専門における誠実さです。

執筆: この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年03月13日時点のものです。

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