ホントは怖いTPP ・・・「非・親告罪化」で日本の漫画界はどうなる?(漫画家 赤松健)

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ホントは怖いTPP ・・・「非・親告罪化」で日本の漫画界はどうなる?

今回は赤松健さんのブログ『赤松健の連絡帳』からご寄稿いただきました。
※この記事は2013年03月05日に書かれたものです。

ホントは怖いTPP・・・「非・親告罪化」で日本の漫画界はどうなる?(漫画家 赤松健)

昨年から記事にしておりました「出版物に関する権利(=著作隣接権)」の問題は、出版社側の歩み寄りもあって、漫画家も納得の「良い着地点」が見えてきたようです。ネットの皆様、ご意見ありがとうございました。
(ここまで前置き)

・・・ところで、毎日にようにニュースに出てくるTPP
これが何の略だか、私はどうしても憶えられません。(笑)

実はTPPには、農業以外にも、我々絵描きに関係する「著作権」の項目が存在するようですね。(福井弁護士のまとめ *1)

*1:「福井弁護士のネット著作権ここがポイント | ACTAはマイルド? TPPとの条文比較で見えてくる“本当の狼”とは」 2012年09月14日 『INTERNET Wach』
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/fukui/20120914_559390.html

中でも重大なのは、次の2項目。

1. 著作権侵害の非親告罪化
2. 法定損害賠償金の導入

その中でも、(1)の「非親告罪化」は影響が非常に大きく、特に二次創作同人界で危険視されています。

「非親告罪化」とは、著作権侵害した人を、

・ 作者からの告訴が無くても、検察官の独自判断で起訴できちゃう。

というもの。

今の著作権侵害は「親告罪」と言って、検察官が起訴したくても単独ではできず、作者さんに告訴のお願いをする必要がありました。つまり、作者が黙認している限り、コミケで二次創作をやっても大丈夫だったのです。

これが、「非・親告罪化」されると、かなりマズいことが起きそうです。

ちょっと、私が考えた「具体的な手口」と「最悪のシナリオ」をご説明しましょう。

・ 商業マンガ家
・ 二次創作同人作家
・ ニコ動(に作品を上げてる人)
・ pixiv(に作品を上げてる人)
・ コスプレイヤー
・ 出版社

の順に説明しますので、該当する方はそれぞれご参照下さい。

【 商業マンガ家 】

例えば「ドラえもん」などは、よくパロディ化されて他の漫画に登場したりしますよね。で、その絵柄が、結構似ていたとします。
大げさに言うと、これを読んだ市民がこぞって警察に通報しちゃう危険性がある、ということです。そして藤子プロが許諾してくれなければ、描いたマンガ家さんが逮捕されちゃう可能性があります。

これって、かなり怖い話ですよね。

そうなると、マンガ家達はみんな萎縮し、作品内でパロディネタを扱わなくなるのではないでしょうか。(=萎縮効果)

 → 商業誌で、パロディのネタが描きにくくなる

さらに、例えばスポーツ漫画で、雑誌からの写真トレスがあったとしましょう。
写真トレスと言えば、すでに「トレス検証サイト」というのがありますよね。今は彼らも調査して自己完結しているだけですが、もし非親告罪化となれば、実際に警察に通報し始め、連載マンガを連載停止に追い込むことさえ可能となってくるでしょう。
これは、相当流行る気がします。しかも正義の旗の下に動けますから、作家側は反論もできません。

もちろん、TPPは遡及しませんし、著作権侵害は時効だってあります。しかし、過去の無断トレスを一つ見つけただけで、「ホントは犯罪者だよねwww」と嫌がらせすることは出来そうです。「ホントは犯罪者のくせに、何のうのうと連載してんの?( ´_ゝ`)」と言われて、心が揺れない作家がいるでしょうか? この手口は、かなりの数の作家に通用するはずです。

【 二次創作同人作家 】

例えば、私がコミケの壁サークルだったとしましょう。
しかし壁の真ん中辺りであって、行列の長さ自体は、壁の出口サークルには敵わないレベルとします。

さあ、出口サークルが一冊でもエロパロをやっていたら、すぐさま警察に通報しましょうか。これで、私が次の出口サークルです!(ただし自分もエロパロだったりして)

・・・今までは黙認していた原作者(マンガ家)だって、警察から「コミケ同人誌に正式な許諾を出しましたか?」と訊かれれば、公式に「はい。」と言うことはありません。つまり、守ってはくれません。

それどころか、悪意のある商業漫画家が、仕事の減った弁護士と組んで、バンバン民事訴訟を起こす可能性がありますよね。
「とりあえずコミケの該当ジャンルを全部訴えてみて、賠償金が取れればラッキー!」という感じで、やたらと訴訟が横行するかもしれません。
もし法定賠償金も導入されたとしたら、一件につき数百万円くらい(※アメリカでの数字)取れるという話もありますし、そうなると弁護士報酬もかなり高額です。・・・もしかして、漫画を描くより儲かるんじゃないかしら?

これって、文化の発展に逆行する活動ですよね。

【 ニコ動 (に作品を上げてる人) 】

UP主の逮捕続出を防ぐため、MADは殆ど全て削除されるでしょう。ゲーム実況も当然ダメ。アニメも、念のため公式配信以外は全部削除されるのでは。
ミクや東方でも、100%安全とは限りません。ガイドラインを厳守して下さい。

ニコ動はJASRACと契約していますが、全ての楽曲がJASRAC管理とは限りませんので、「歌ってみた」や「演奏してみた」は非常に危険です。
ただし「踊ってみた」は、サイレントならOKです。(※追記:オリジナルの振り付けでないと、サイレントでもNG *2の可能性があります。)

*2:「はじめての著作権 | 著作権FAQ」 『KLS著作権情報館』
http://park2.wakwak.com/~willway-legal/kls-c.faq.67.html

【 pixiv (に作品を上げてる人) 】

例えば、私が総合ランキングのデイリー50位だったとしましょう。

さあ、トップランカーたちのトレス(写真加工も含む)箇所を探し、あと二次創作の絵師も洗い出して、それぞれ警察に通報しましょうかね。他の絵師たちの個人情報(住所など)は、必要があれば警察の方で調べてくれます。
これで、30位以内くらいは狙えそうです。

【 コスプレイヤー 】

女性コスプレイヤーは要注意です。「通報するぞ」というイタズラメールが毎日来ることでしょう。
コスプレ撮影会でも十分に注意して下さい。実際に通報される恐れがあります。その瞬間の表情を撮られちゃうわけですね。これは、通報する側もかなり興奮できそう。

TPPが入ったら、念のためアニメや漫画やゲームの衣装は処分した方が良いでしょう。

【 出版社 】

出版物についての著作権チェック(他の著作権を侵害していないかどうか)に、かなり神経をすり減らすことになるでしょう。

出版社以外でも、コンプライアンスを重視する企業ですと、頭の痛い問題になりそうです。うかうかコピーも取れません。これはもう、社会全体の損失です。

・・・さて、このような指摘に対して、以下のような反論があるかもしれません。

・ 米国だってコスプレとかバンバンやってるよね。でも逮捕なんかされないじゃん。

アメリカにはフェアユースという考え方があります。いくつかの判断基準のもとで、公正な利用(フェアユース)だと判断されれば、著作権侵害には当たらないというもので、これのおかげなのです。

・ フランスみたく、パロディ規定を導入しては?

フランスのパロディ規定は、「ユーモア」と「元の著作物と混同のおそれがない」のが要件のようです。日本の二次創作というのは、その多くが「BL化」であり「成人向けエロ化」ですので、似たようなパロディ規定で救うのは無理でしょう。

そもそも著作権は、何のためにあるのでしょうか?

著作権法の第1条には、

文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする

とあります。
でもこれじゃあ文化の発展どころか、文化への迫害に近いですよね。(^^;)

では、どうすればいいのでしょうか。

実は、

★ アメリカだって、別にコミケ同人誌なんか潰したいとは全く思ってないんです。(っていうか、そんなの存在さえ知らないと思う)

もちろん、日本側だって同様です。

これって、考えようによってはチャンスですよ。

安倍首相は2月28日の衆院予算委員会で、TPPについて、「(農産品など)聖域を守れないということではない」と述べた模様です。つまり、交渉して例外項目を作れるかもよ、ということでしょう。

「TPP、聖域守れる―首相 全品目が交渉対象」 2013年02月28日 『47NEWS』
http://www.47news.jp/news/2013/02/post_20130228194742.html

また、自民党外交・経済連携調査会が2月27日採択した「TPP交渉参加に関する決議」でも、守るべき項目に、何と「著作権」が入っています。こ、これは素晴らしい。

「TPPに関する自民調査会決議・全文」 2013年02月27日 『時事ドットコム』
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2013022700399

もしかしたら、アメリカと日本が揃って「二次創作同人誌なんてどうでもいい」のであれば、日米合意の上で、

・ 「非・親告罪化」をある程度制限

したり、そこまで行かなくても

・ 「海賊版対策」専用に、少しだけ変更する

くらいのことはしてくれるかもしれません。

そのためにも、ここで「非・親告罪化」だけでも反対の声を上げておいて、TPP個別交渉の時に、「反対の声は殆ど無かった」とか判断されないようにしておきたいのです。

そこで、私の作戦は次の3つ。

1. 漫画家協会と出版社に、「反対声明」を出してもらう。
2. ニコ生やUSTで、「反対してる我々の存在」をアピール。
3. TPP慎重派の議員さんに陳情してみる。

1は、もう私がやっています。しかし、講談社は経団連に入っているだけに、公式な反対声明はちょっと出しにくいかも。漫画家協会も、TPPの「著作権保護期間の延長」に大賛成の先生がおられるはずなので、ちょっと難しい?

2も、既に頼んであります。視聴者数がある程度見込めないとニコ動も動いてくれないのですが、もし企画が通ったら皆さんこぞって見て下さい。

3は、有名漫画家さんを何人か連れて行けば、効果があるかも?(笑)
さきほどの外交・経済連携調査会が、首相直属の「外交・経済連携推進本部」に格上げされたようですので、そこの著作権分野の議員さんを訪問できれば最高なのですが。

いかがでしょうか。

ところで、もし

・ 非親告罪化なんて入っても、実際には(コミケ同人ごときでは)警察は動かないし、逮捕なんて絶対ありっこないよ。

という論客がおられましたら、ぜひメール( [email protected] )でご連絡いただきたいのです。
もし納得のいく御説でしたら、それを公開し、私もすぐにこの活動を停止したいと思います。よろしくお願いいたします。

執筆: この記事は赤松健さんのブログ『赤松健の連絡帳』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年03月08日時点のものです。

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