『Huntdown』レビュー:80年代レトロの魅力と現代的なゲーム性を融合させた愛すべきアクション

80年代にゲームキッズだった人間なら「こういうのがやりたかったんだよ!」と叫ぶだろう。3月4日にNintendo Switch向けに配信開始された『Huntdown(ハントダウン)』は、そんな作品だ。その魅力は、80年代レトロな雰囲気を持ちながらも、現代的なゲーム性を備えた点にある。

オールドスクールをコンセプトにしたアクションシューティング

『Huntdown』は、退廃的な未来を舞台にした横スクロール・アクションシューティング。ドット絵のビジュアルから分かる通り、本作はオールドスクールなゲームを目指した作品だ。コンセプトは「80年代レトロ」。最も直接的にコンセプトを表しているのが、その世界観だろう。

舞台は退廃的な未来。街はサディスティックで凶悪なギャングたちに支配されており、警察ですら足がすくむ…という状況。この状況に立ち向かうのが、主人公であるバウンティハンター。プレイヤーは3人のバウンティハンターの中から1人を選び、プレイに挑む。

人によっては、「この世界観の何が80年代レトロなの?」と思うかもしれない。が、プレイすると、そこここに80年代のアクション映画をモチーフとしたネタが散りばめられていることに気づくだろう。まず主人公のバウンティハンター=賞金稼ぎという立場は、退廃的な雰囲気もあいまって、映画「ブレードランナー」を連想せずにいられない。

本作は厳密にはサイバーパンクというわけではないのだろうが、クルマに装備されたコンピューターや、主人公に依頼をする日本名の企業・島本など、いかにも「サイバーパンク的」な要素が散りばめられている。ちなみに、この時点で「何それおもしろそう」と思った人は、即ダウンロードした方がいい。その期待が裏切られることはない。

また、アメコミのヴィランばりに特徴的な敵のボスたちは、映画『バトルランナー』な空気感だし、ボスの一人が乗り込むロボット兵器などは映画『ロボコップ』をホーフツとさせる。さらに、ビジュアル面だけでなく、サウンド面も「80年代レトロ」がコンセプト。楽曲はダークウェーブ、インダストリアルシンセなどで構成されている。プレイしていると80年代の映画の想い出が蘇ってきて、なんとも懐かしい感じだ。

もちろん、ゲーム性の面でも「80年代レトロ」は再現されている。なんといっても本作には「育成要素」がない。ゲーム中、武器を手に入れることはあるのだが、レベルが上がってHPや攻撃力がアップするだとか、新たなスキルを覚えるといったことはないのだ。プレイヤーができることは、メイン武器とサブ武器による攻撃と、近接攻撃、ジャンプ、ダッシュ、そして遮蔽物へ身を隠すカバーアクション。これらのアクションを駆使してプレイヤースキルで攻略していく。この割り切ったつくりは、いかにも80年代のアーケードゲームをイメージさせる。

それと、個人的には「敵=悪」として描かれている点も80年代ライクだと感じた。「敵=悪なのは当たり前だろ?」と思う人もいるかもしれないが、昨今のストーリー性を重視した作品では、「敵なりに、悪へと堕ちる理由があった」だとか、「立場が違うだけで、敵側から見れば主人公が悪」と言った風に、「絶対的な悪はいない」という立場をとることが多いように思う。しかし本作は、シンプルに「敵=悪」。画面に登場したら同情の余地なく倒してOKだ。

なぜシンプル「敵=悪」だと80年代ライクなのか?…というのも、80年代のアクションゲームには、一応、「さらわれたヒロインを助ける」「侵略者に反抗する」的な背景設定はあったものの、今ほどストーリー性を深く描いてなかった。これは、アーケードゲームが中心だったからだろう。

80年代のアーケードアクションゲームは、コインを入れてゲームスタートすると、プレイヤーがやるべきは、出てきた敵を倒す…という様式のものが多い。つまり、悪だの正義だのという前にゲームである以上、「倒される側(敵)」という役割が必要で、「悪」かどうかは後付けなのだ。なので、本作のように「敵=悪=倒すべき存在」という割り切った描き方をされると、80年代のアーケードのアクションゲームを連想してしまう。

レトロだが古くはない! 現代的なゲーム性がもたらす没入感

ここまでレトロレトロと連呼してきたが、本作は決して「古いゲーム」ではない。むしろ本作のゲーム的な魅力は、本作の現代的な部分にこそある。たとえばそのひとつは、ドット絵の演出。レトロ感をダイレクトに伝えるドット絵ですら、現代的な魅力が込められている。

まず、本作は60FPSで動作するため、非常に動きが滑らかだ。そして、演出が非常に細やか。たとえば、次のエリアへと繋がるドアを銃で攻撃すると、銃弾によって凹み、徐々にひしゃげていく。ガラス製のドアの場合、最終的に粉々に飛散。

当たり前だが、ドアは敵ではない。背景だ。なので、ドアには銃弾が当たらない、あるいは銃弾が当たるものの弾かれたエフェクトが出るだけという演出でも、物足りなさを感じることはなかっただろう。しかし、こういった部分まで細かく演出を用意することで、本作はドット絵でありながらリアルさを感じさせてくれる。

そして、肝心のゲーム性の部分。本作のゲーム的な楽しさの中核を担っているのが、カバーアクション。遮蔽物の前で上ボタンを押すと遮蔽物に隠れることができ、敵の銃弾を回避できるアクションだ。カバーアクション中に攻撃ボタンを押すと、カバー体勢を解除し、即座に攻撃できる。もちろんこの時は敵の銃弾にさらされてしまうので、カバーアクションを使って、敵の攻撃を回避しつつ、敵の隙をついて攻撃というのが立ち回りの基本だ。

本作をおもしろくしているのが、カバーアクションも決して万能ではないこと。カバーアクションに使える遮蔽物は主に2つある。箱などのオブジェクトと、奥行き方向へ窪んだ地形。この内、箱などのオブジェクトは攻撃のダメージによって破壊されてしまう。いつまでもカバー体勢を続けられるわけではない。カバーが可能なうちに敵を倒さなければならないというスリルがある。

また、カバーアクションは近接攻撃によってキャンセルされてしまうというデメリットを持っている。これは箱などのオブジェクトに隠れている場合でも、奥行き方向へ窪んだ地形に隠れている場合でも同様。敵の近接攻撃を受けるとカバーアクションが解除され、ダメージを受けてしまう。なので、敵を接近させないことが重要だ。

ちなみに、これらのアクションは主人公だけが使えるものではない。敵も使用できる。敵もカバー体勢から主人公を撃ってくるし、主人公の近接攻撃を当てれば、敵のカバー体勢をキャンセル可能。メイン攻撃、カバー体勢、近接攻撃という3つのアクションがじゃんけんのように3すくみを構成していて、プレイヤーは常にどの手が最善か、考えなければならないわけだ。

この基本的な構造があるから、本作は育成がなくとも飽きずに楽しめるものに仕上がっている。一見、どうクリアすればいいかわからないようなシチュエーションもあるが、最善なアクションを最適なタイミングで出せれば、すべて基本アクションでクリアできる。難しいが、理不尽ではない。だから、おもしろい。

そして、最善なアクションを最適なタイミングにパターン性があるというのも特徴だろう。つまり本作は「覚えゲー」的な側面を持っている。なので、繰り返しプレイすれば、難易度の高いシチュエーションであっても次第にパターンが見えてきて、ダメージを喰らわなくなっていく。

やがて最終的には、「どうやってクリアしろってんだよ!」と感じていたようなシーンを、華麗にクリアできるようになってしまう。この「上達感」が楽しい。本作が育成要素のない、プレイヤースキル100%のゲームだからこそ、「今のオレのプレイ、超うまい!」と、酔うことができる。

とはいえ、繰り返しプレイするのは苦痛と思う人もいるかもしれない。だが、本作にはリプレイが高速だ。『Super Meat Boy(スーパーミートボーイ)』や『Hotline Miami(ホットラインマイアミ)』『Katana ZERO(カタナゼロ)』といった、インディーゲーム系のアクションゲームが取り入れることの多い高速リプレイ。ゲーム中、主人公が死んでしまった時に、ボタン一発、待ち時間なしですぐチェックポイントからプレイ再開できる…という仕様だ。

タイトル画面に戻ったり、読み込みが発生するということはない。本当に一瞬で、即座にプレイできる。なので、難しいシチュエーションで何度も死んだとしても、繰り返しプレイがストレスにならない。いや、ストレスにならないというより、むしろ楽しさのようなものを感じる。あまりに即座にプレイできるので、復活→死亡というサイクルが、何かリズミカルに感じられ、BGMもあいまって、「ノリ」を感じて楽しくなるのだ。

そして、「ノリ」を感じている内に、本作の世界へと没入してしまう。トランスしているような感覚。この辺りは、『Hotline Miami』をプレイしたことがある人なら、なんとなく分かってもらえると思う。

80年代! サイバーパンク! 歯ごたえのあるアクション!

筆者はまだ本作をクリアしていないが、ここまでのプレイで少なくとも本作のことを「大好き」だと感じている。そもそも筆者は80年代ゲームキッズであり、80年代のアクション映画好きであり、サイバーパンク好き。そして何より、『Hotline Miami』『Katana ZERO』といったインディー系のアクションゲームが大好きだ。

『Hotline Miami』にいたっては、無人島に持っていくゲームを一つ選べと言われたら迷わず選ぶくらい愛している。そんな筆者にとって本作は「神ゲー」…いや、「神ゲー」というか、まるでオーダーメイドのよう。製作者は筆者の心を読んで本作を作ったんじゃないかと思ってしまうくらいだ。

なので、筆者と趣味が近い人にとっても、「神ゲー」になり得る作品だと思う。また、「80年代レトロ」に興味はなくとも、『Hotline Miami』『Katana ZERO』といったインディー系のアクションゲームが好きだったり、『ニンジャスレイヤー』が好きだったりという人も楽しめる作品だろう。是非プレイして、この没入感を味わってほしい。

文/田中一広

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