福岡5歳児餓死事件に母親のママ友、洗脳の疑い。ママ友との付き合い方で知っておきたいこととは?

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画像:福岡5歳児餓死事件に母親のママ友、洗脳の疑い。ママ友との付き合い方で知っておきたいこととは?
2020年4月、福岡県篠栗町で5歳の男の子が死亡した事件で、保護責任者遺棄致死の疑いで、母親と、過去に子どもが同じ幼稚園に通うママ友だった知人の女を逮捕したと福岡県警が発表。母親が、このママ友からの指示で自分の子どもに食事を与えず、金銭まで搾取されていたことが「洗脳」によるものではないかとも報じられています。

家族と円満に暮らしていた普通の母親が他人に心を支配され、家庭生活が破綻するだけでなく、子どもの死という事態まで招いてしまったことについて、「普通ではあり得ない」「マインドコントロールや洗脳ではないのか」という声があがると同時に、「ママ友同士の付き合いの中では洗脳に近いことが起こっても不思議はない」と話す人もいるようです。

ママ友が関係し、幼い命が奪われた事件では、1999年の「音羽幼児殺人事件」があります。同じ幼稚園に通う子どもを持つ母親でもあった女が、被害者の母親に一方的にゆがんだ憎悪を募らせ、当時2歳の女子を殺害・遺棄した事件で、その異常に屈折した心理が当時大きな話題にもなりました。

保育園や幼稚園、子どもたちが集まる公園など限られた世界の中で、ヒエラルキー(階層意識)や不可思議なマウンティング(優位性の誇示)が存在することが浮き彫りに。現在でも子どもが関わる人間関係にとまどい、深刻な悩みを抱える人は少なくありません。

事件化するような特殊なケースに限らず、子育てのコミュニティーやご近所付き合いといった日常生活の中にも、不本意に心を操作されるような危険があるとすれば、それはとても恐ろしいことではないでしょうか。

この春、公園デビュー・幼稚園デビューを控えている保護者は、ママ友との付き合いでどのようなことを心掛ければよいのでしょうか。心理カウンセラーの飯塚和美さんに聞きました。

良くも悪くもママ友との関係は一時的なものと割り切ること。相手と同じように、自分をも否定しない関係が大切

Q:福岡県の男児餓死事件は、母親のママ友が現金搾取などを目的に母親に近づいたものと言われています。これが事実であれば、一般的な母親同士の付き合いとは別物の明らかな犯罪行為です。にもかかわらず多くの人が、「ママ友同士の付き合いの中には、似たような関係もあるかもしれない」と感じるのは、どのような部分でしょうか?
——–
それまでどのような社会経験を積んできたとしても、子育てについて経験が浅いと、誰もが自信を持てないもの。「子育て経験が少しでも多い先輩ママの存在を優位に感じてしまう」という声はよく聞かれます。

子どもを通しての狭い世界が、まるで生活の全てのように錯覚してしまう人も多いようです。
特に他人との関係を築くうえで、「嫌われたくない」「自分の考えに自信が持てない」という意識が強い人は、小さなコミュニティーの中で先輩ママからアドバイスを受けると、それに対して応えなくてはいけないような感覚に陥りやすくなります。
こうしたことを続けていくうちに、自然に上下関係ができてしまうということにもなりやすいでしょう。

また、そうした自己肯定感が低い人は、子育て経験だけではなく、夫の職業、習い事、住んでいるところなど、さまざまな要素で他人と比較して、相手が意図していないにも関わらず、自ら優劣を作り上げてしまうような傾向があります。

今回のような犯罪目的の場合は別にして、ママ友の中にマウントをとりたい人が必ずいるというわけではありませんが、こうした自信の無さから、心の中に必要のない圧迫感を生み出してしまうことはあるのかもしれません。

Q:母親同士の付き合いの難しさは、子どもを育てたことのある人なら誰もが感じるもの。学生時代や仕事先での人間関係と何が違うのでしょうか?
——–
子どもを通しての関係は、それまでの人間関係とは全く別もの。好き嫌いや、考え方が似ている人同士が自然に親しくなるとは限りません。

独立した自分自身としての交友関係と違い、価値観などが違うと感じた場合でも、「他人は他人」と思えず、子どもがコミュニティーの中からはじかれないように振る舞うことが多くなります。
特に気がすすまなくても、トラブルや孤立を避けるために同調しなければならない場合もあります。

また自分の能力だけで評価されてきた学業や仕事と違い、子育てではそうした実感も得ることができません。自分の成績や仕事のスキルに自信を持っていた人ほど、こうした感覚になかなか慣れないということもあるでしょう。

職場や仕事上の付き合いでは常識的なのに、子どものこととなると、感情的になったり理不尽な要求をしたりする保護者がいるのも不思議ではありません。中には、子どもと自分を同一視してしまい、子どもが不当な扱いを受けると、まるで自分のプライドが傷つけられたように感じる人もいます。

Q:先輩ママのアドバイスは、自分の母親や育児本などより尊重しがちという人も。毎日顔を合わせているというだけで、そこまで影響を受けてしまうものでしょうか?
——–
人の心理には、よほど耐え難い理由でもなければ、毎日顔を合わせていると、その人に好意を持ちやすいという傾向があります。

子ども同士が仲良しで、毎日一緒に遊んでいるなど特別親しくしていると、考え方などに多少の違和感があっても、必要以上に相手に合わせてしまうこともあります。
特に心理的な上下関係にある場合、大多数の人がその人の考えに賛同しているように見えてしまうことも。

あまりに自信たっぷりに主張する姿を目の当たりにしていると、自分の考えとは異なる価値観であっても、まるで教師や医師の言葉のように、全面的に相手のアドバイスが正しいと錯覚してしまいます。
しかもアドバイスを受けたり、お下がりをもらったり、何かをしてもらったりすると、次に何か頼まれごとをしたときに、断りにくいという心理現象も大きく作用します。

こうしたことを繰り返すうちに、その人のほとんどの発言を無条件に尊重してしまい、知らず知らずのうちに相手に依存するような関係に陥ることがあります。「全面的に信じる」という関係は、本来の交友関係とは言えません。

Q:子育ての悩みを共有しながら楽しく友人関係を育むことが理想ですが、ママ友の中にそのような出会いは期待できないのでしょうか?
——–
それまで出会うことのなかった人と子どもを通して知り合い、有意義な交友関係を築くことができれば、その後の人生を豊かにする上でとても幸運なことです。限られたコミュニティーの中でも、ふと見回せば、自分とよく似た感性の人が一人くらいはいるものです。

ママ友との関係では、そのコミュニティーのカラーのようなものが際立ってしまいますが、必ずしも全ての人が同じ価値観でつながっているわけではありません。

孤立を恐れて、無理にそのカラーに合わせようと意識し過ぎることは、何より大きなストレスとなってしまいます。また、そうして本来の自分と異なる演出を自らに強いてばかりいると、もともとの自分のキャラクターを見失うことにもなりかねません。

日常生活のわずかな部分であっても、本来の自分の姿ではないと思いながら過ごすことは、たとえ「子どものため」と思っても、とても苦しいものです。もしかすると本来の自分と価値観が近く、将来良好な友人関係になるかもしれない人が近くにいるかもしれません。自分を取り繕ってばかりいると、数少ない友人との出会いの機会を逃してしまうかもしれません。

がんばっているつもりなのに、自分に価値を見いだせずにいる人は、一度立ち止まって、他人の目を通して自分を見てみると、意外によくやっていることに気づくはずです。そんな自分を好意的に見てくれる人も案外近くにいるものです。

ママ友との関係性に限らず、「相手と同じように、自分をも否定しない関係」を保つことは、とても大切なことです。

Q:日常生活でも、テレビコマーシャルやウエブ広告、SNSなど、さまざまな情報によって行動が誘導されていると感じることがあります。無意識のうちに何かに影響されることは案外多いのでは?
——–
世の中にはたくさんの情報があって、繰り返し見聞きするものに興味をひかれ、購買意欲を刺激されたり、生活習慣を見直したりということがあります。ある程度巧みに誘導されることはあっても、多くの人の心に備わるバランス感覚が働いている限り、そこまで強力なマインド操作がなされているとは言えないでしょう。

ただ人の心には、「自分の信じたいものだけを見る」「都合の悪い情報を排除したい」という無意識の心理が働いています。コンディションによっては、必ずしも日々公正な判断ができているわけではありません。こうした心理傾向があることは、心にとどめておいた方がよいでしょう。

人と人との関係では、こうした作為的なものは少ないはずですが、狭い関係の中で繰り返し同じ情報を浴び続けていると、テレビコマーシャルの宣伝効果のように、意識への刷り込みにも似た状態に陥ることがあるかもしれません。

Q:マインドコントロールとまではいかなくても、人の意見に影響されやすく、それによってストレスを感じる人もあるようですが、どのような人がそうした状況に陥りやすいのでしょうか?
——–
前述のように「他人は他人」と思えたら、誰しもストレスを感じることなく過ごせるのですが、そんな人はごく少数派。「多少なりとも摩擦を感じながら、人付き合いをしている」という人がほとんどでしょう。中でも特に影響されやすい人は、真面目で優しく素直、人を疑うということをあまりしない、責任感が強いという傾向があります。

自分が判断したことを重く考えがちで、例えば誰かに「信じてほしい」などと言われると、つい要求を聞き入れてしまったり、一度そのような意思表示をしてしまったら、まるで契約を取り交わしたかのように、「信じると返事したからには、翻すことはできない」などと考えてしまうことも。

真面目で責任感の強い人ほど、自分の決断に一貫性を持たせたいという思いが強く、時間とともに違和感を持つようになったとしても、「そのように感じるのは良くないことだ」と自らを否定する気持ちが強く働くことがあります。

「あの時の判断と今とは違う」と、軽く言い放つことなどできないような誠実すぎる人が、やがて自分を追い詰めてしまう傾向にあります。

Q:子どもを通して関わりがある人間関係に悩んでいる場合、むやみに振り回されないためには、どのようなことが大切でしょうか?
——–
子育てやママ友との関係で悩んでいる人の中には、「自分へのダメ出し」がクセになっている人が多く見られます。

まずは「ダメなことをしてしまった」「頭ではわかっているのに、また同じ失敗をしてしまった」と、自分にダメ出しすることをやめましょう。少しでも自分を労わることができれば、随分気持ちがラクになります。

自分を労わる方法の一つとしては、「自分自身がやりたいことをちょっとやる」ということをお勧めしています。

考え方としては、思考をプラスに転じるクセをつけること。

子どもやママ友との関係で、何か失敗したように感じたときに、それがもし本当であったとしても「こういう言動は良くない」と気付いたということですから、「『次からはこうすればいい』というポイントが見つけられて、ラッキーだった」と転換させましょう。

ネガティブな気持ちに陥りがちな人は、「なぜ、このようなことをしてしまったのだろう」「何がいけなかったのか」ということにとらわれて、そこから動けなくなっていることが多いようです。
そこから抜け出すには、「これが自分の欠点だから直さなければ」と考えるより、自分の良い部分にフォーカスした方が早いはずです。

まわりのママ友が完璧に見えて、自分の悪い部分ばかりが目について苦しんでいる人、価値観の違うママ友との付き合いに疲れている人は、思い切って物理的に距離を置いてみましょう。

子ども同士が毎日一緒に遊んでいるなら、2日か3日に1度にしてみるとか、子育てサークルなど別のコミュニティーに参加してみるなどもよいかもしれません。

適度な距離感を確保すると、それまで極端に狭くなっていた視野が広がり、同じようにまわりと距離を置いている親子に気付くこともあります。もしかすると、そこで自分と近い感性を持った人と友人になれるような出会いが見つかるかもしれません。

Q:これから公園デビュー・幼稚園デビューを控えているという人は、ママ友との付き合いでどのようなことを心掛ければ良いのでしょうか?
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もしママ友との関係で悩みを抱えることになったとしても、その関係はごく一時的なもの。子どもが成長していけば遅かれ早かれわかることですが、良くも悪くもどんなに密接に関わったママ友でも、その後の人生まで長く交流が続くということは、ごくまれなのです。

また「子どもが仲間外れにならないために」とか、「子ども同士が仲良しだから」とかの理由で、不本意な人間関係に身を置いたとしても、自分のためにならないばかりか、結局のところ子どものためにもなりません。

子育てには正解がありません。先輩ママがどんなに自信ありげに見えても、決してそうではありませんし、誰かに合わせなければならない、ということもありません。

立ち入り過ぎないこと、誰かの悪口に関わらないことは言うまでもありませんが、はじめから近すぎる距離感も考えものです。

子ども同士がトラブルになると、大人の常識で深刻に捉えてしまうことがありますが、子どもの世界と大人の人間関係とは別物という意識を持ちましょう。

ママ友との関係に神経をとがらせるあまり、「なるべく子ども同士もトラブルなく平穏に過ごせるように」と、大人の都合で先回りしてリスクを回避させてしまうようでは、子どもが社会生活を学ぶ大切な機会を奪ってしまうことになります。

子どもはぶつかり合うことで、人間関係で大切なことを学んでいくものです。いつかは一人で多くのリスクや困難にまみれた社会に出ることになるのですから、その貴重な訓練の場でもあります。
お母さんの心の居場所は、ほかのところにもあるはずです。

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