昭和の名曲はこうして生まれた! 陰の立役者たちが語るヒットソングの裏側
ヒットソングの裏側には、知られざるドラマが隠されているもの。たとえばドラマ化が話題となった小説『M 愛すべき人がいて』(幻冬舎)は、浜崎あゆみ氏とエイベックス会長・松浦勝人氏へのインタビューを経て著された「事実に基づくフィクション小説」。フィクションとはいえヒットソングの裏側にあるドラマが垣間見えたわけだが、もちろんこれは彼女たちに限った話ではない。有名な楽曲には、私たちの知らないドラマがたくさん隠されているのだ。
今回注目したいのは、濱口英樹氏の著書『ヒットソングを創った男たち~歌謡曲黄金時代の仕掛人』(シンコーミュージック)。アーティストや作詞家・作曲家ではなく、プロデューサーやディレクターにスポットを当てた1冊である。
そもそもプロデューサーとディレクターは、具体的にどのような役割を担っているのか。本書に綴られていた定義は次の通り。
「1人、あるいは1組の歌い手のために、作詞家、作曲家、編曲家、さらにエンジニアやスタジオミュージシャンなど、その道のプロたちが精魂傾けて1つの作品を創り上げていたのである。そのプロジェクトの司令塔として、戦略を立案し、チームを編成し、スタッフがベストを尽くせるよう采配を振るってきたのが、プロデューサーやディレクターと呼ばれる人たちだ」(本書より)
たとえば日本コロムビアに、初めてレコード大賞をもたらした青山和子氏の楽曲『愛と死をみつめて』。もともとは400通もの手紙が紡いだベストセラーが原作で、のちにテレビドラマや映画が大ヒットを記録するが、実は原作がベストセラーになる前からプロデューサーの酒井政利氏は目をつけていたという。
酒井氏といえば類まれな時代感覚と発想力により、エンターテインメント業界に多大な貢献をもたらした伝説のプロデューサー。彼は本書のインタビューにて、当時を以下のように振り返っている。
「ところが冷静になると、仕事には恵まれているのにあまり楽しくないんですね。(中略)でもある日ハッと気が付いた。自分は言葉の深さから映像のイメージが広がる人間なんだと。それで映画を作るつもりで、その主題歌を作ればいいんだと思ったわけです」(本書より)
そう思い立ってから、曲の軸となる「原作探し」を始めたという酒井氏。書店に足を運び、仲良くなった書店主から「大学生が書いた本が出たんだけど、こういうのはどうだろう」と差し出されたのが楽曲の原作『愛と死をみつめて』(大和書房)だった。
さらにこの曲を歌う人物には、当時10代だった青山和子氏を採用。キャスティングのイメージに合うよう髪形やメイクを変え、しゃべり方も丁寧だと老けて見られるのでお嬢様風に変えてもらった。
そして何より問題だったのが「詞」。「偉い先生に依頼する気は全くなかった」という酒井氏は、その理由について以下のように語る。
「彼らが書くものはそれなりの詫び寂びがあって、確かにいい詞ではあるんですが、このときは大学生の恋がテーマだから、女子大生に書いてもらった方が実感が出るんじゃないかと考えたんです」(本書より)
そこで彼は専属作家に依頼するのではなく、まず芸能誌の編集部に連絡。雑誌に詞を投稿していた女子大生を数人紹介してもらい、彼女たちに「この本を読んで、主題歌のつもりで詞を書いてください」と依頼したそうだ。その発想がなければ、今世に出ている大矢弘子氏の詞に辿り着かなかったと思うと実に感慨深い。
また、伝説の歌姫・山口百恵氏のデビュー2作目、のちに「青い性」路線と呼ばれる『青い果実』のリリースに一枚噛んでいたのも酒井氏。ホリプロの音楽制作部門で手腕を発揮した音楽プロデューサー・川瀬泰雄氏は、青い性路線について次のように語っている。
「性的なものや不良性の魅力というのはいつの時代にもありますから、そういった感覚を織り込みながらも、ローティーンの山口百恵が歌えばそれほど生々しくはならない。実際、本人は清潔感があって芯のしっかりした子でしたから、そのギャップを酒井さんは狙っていたと思うんです」(本書より)
ちなみに酒井氏がコンセプトやタイトル、詞の内容など感覚的な部分に重点を置く一方で、そのアイデアを具現化していたのが制作ディレクターと川瀬氏だ。たとえば酒井氏から「湖に波紋が広がっていく様子から不安感みたいなものを出しましょう」というアイデアを出され、完成したのが『湖の決心』。他にも「むすんでひらいてみたいな曲」と言われて『夏ひらく青春』ができあがり、「ケロケロっとテープが逆回転するような曲」という案から『プレイバックPart2』が生まれた。
名曲の裏話と言うと、どうしてもアーティストや作曲家たちにスポットが当たりがち。だが彼らのような陰の立役者がいなければ、これらの名曲は生まれていなかったかもしれない。
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