第103回 『キングコング対ゴジラ』
『キングコング対ゴジラ』
1962年・東宝・97分
監督/本多猪四郎
脚本/関沢新一
出演/高島忠夫、佐原健二、浜美枝、藤木悠、平田昭彦、有島一郎ほか
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ライオンとトラ、宮本武蔵と佐々木小次郎、ジャイアント馬場とアントニオ猪木、最近だと那須川天心と武尊(キックボクシング別団体のトップ同士)……いつの世も大衆は「どっちが強い?」と夢想するもの。1962年に東宝は、黒澤明の『天国と地獄』など創立30周年記念作品のラインナップに日米怪獣タイトルマッチを並べた。
7年ぶり3作目のゴジラ映画で、初のカラー&シネスコという目新しい上映形式も興味を惹き、観客動員数は当時歴代2位の1255万人を記録する大ヒットとなった(1位は1957年公開『明治天皇と日露戦争』の2000万人)。『鬼滅の刃』が首位独走中の現在でも、まだ邦画10位って凄くない? それほど両雄の対決は日本中が注目する黄金カードで、RKOが東宝に吹っ掛けた8000万円というキングコングの名称使用料(当時の映画製作費3本分)は、充分に回収できたのであった。今回は『ゴジラvsコング』(2021年5月14日<金>公開)の予習としてDVD鑑賞をオススメするため、結末のネタバレなしで粗筋を紹介しよう。
国連の原子力潜水艦シーホーク号が北極海で遭難する。やがて現地に到着した救援ヘリの隊員が、氷山の中からモゾモゾと姿を現したゴジラを発見して叫ぶ。「オ~! イッツ・ゴッジラ~!」。と同時に「ジャ~ン!」と伊福部昭作曲のBGMが高々と鳴り響く全怪獣マニアが痺れる名シーンだ。『ゴジラvsコング』の予告編でもヒロインらしき女が「イッツ・ゴッジラ~!」と叫んでいる(わかっているなあ~)。ゴジラは手始めにNATO(北大西洋条約機構)軍と交戦した後、松島湾から日本に上陸。国連から「ゴジラに水爆攻撃を」(おいおい!)と告げられた日本の防衛隊は当然難色を示し、独自のゴジラ対策を練る。
一方、テレビ番組の取材で南洋のファロ島を訪れていたカメラマン桜井(高島忠夫)らの前に、「ペチャクリ、ペチャクリ」と30メートルの大ダコが出現(本物のタコで撮影)。すると島に伝わる「巨大なる魔神」キングコングが現れ大ダコを撃退し、島民が木の実の汁で作った酒を飲んでほろ酔い気分。そこへ「ドコドン!」と打楽器が叩かれ、男達は槍を上げ下げ、ブラに腰蓑を巻いた女達は一斉に踊り出して大合唱。ここ、自宅で飲酒しながら鑑賞すると、こっちまでプリミティブな記憶が呼び覚まされ、キングコングのように心地よく酔えるよ。
爆睡中のキングコングを見世物にするため巨大なイカダで日本へ運搬されるが、途中で覚醒して千葉県から上陸。動物の本能で敵と認識したゴジラに引き寄せられ、日光で激突する。まずキングコングは、ゴリラのように胸をドンドン叩いてゴジラを威嚇。これにゴジラは、防衛隊の偵察ヘリを放射能光線で墜落させて応える。「世の中、すげえ奴がいるもんだ」と目をパチクリしているキングコングの胸毛を、ゴジラの放射能光線がチリチリに焦がす。井の中の猿は初めて体験する未知の攻撃にタジタジとなり「まいったな~」と頭をポリポリ掻いて退散していく。ゴジラは馬場以前の日本プロレス界のエース・豊登が両手を振って脇の下をカポンカポン鳴らす得意ポーズを決め勝ち誇る。第1ラウンドはゴジラの圧勝だった。
首都圏に入ったキングコングは。まず後楽園駅に隣接する柔道の総本山・講道館の建物をパンチ1撃で叩き壊す(嘉納治五郎先生、すみません!)。そして桜井の妹ふみ子(浜美枝)を荻窪線(現・丸の内線)車両の中から掴み上げ、タイアップしているバヤリース・オレンジジュースの看板の横をわざとらしく通過して(笑)国会議事堂によじ登る。ちなみに浜美枝を気に入ったのはキングコングだけではない。作品の米国上映時に浜美枝は、友人役で出演している東宝特撮映画の常連・若林映子と共に注目され、『007は二度死ぬ』(67年)に揃って出演し晴れて日本人初のボンドガールとなった。
桜井の提案で眠らされたキングコングは気球で空輸され、富士山麓を歩いているゴジラの上空でリリース。「ダン!」と富士山の斜面に尻から落下したコングはそのままスーッと滑り落ち、登ってくるゴジラに正面から「ドスン!」。両雄はもつれ合いながら斜面を転がり落ちていく。ここから残り10分間は瞬き厳禁の怪獣映画史上に残る大激闘。戦いながら熱海まで到達した両雄は、美術スタッフが心血注いで何日も費やし超精巧に作り上げた熱海城をメチャメチャに破壊してド突き合う! 最高かよ!
テンポよい作劇に軽妙洒脱な台詞が楽しい関沢新一の脚本。各俳優のキャラを立たせる本多猪四郎の演出。世界に誇る円谷英二の特撮。数あるゴジラ・スーツの中でも人気上位の通称「キンゴジ」。場面を最大限に盛り上げる伊福部昭のオスティナート(反復音楽)。これぞ怪獣対決映画の決定版といった大傑作なのだが、映画評論家からは「怪獣プロレス」と揶揄されることもあった。……いや、怪獣プロレスの何が悪い? 初代ゴジラから3作連続でゴジラ・スーツに入った名人・中島春雄と、その演技指導を受けた広瀬正一による立ち回りは、巨大怪獣の豪快さに擬人化されたユーモアさが絶妙にマッチした、伝統芸に匹敵する「怪獣プロレス」。天下の円谷英二も、彼らには口を挟まなかった。今回、アダム・ウィンガード監督も壮絶な戦闘シーンを用意しているらしいが、果たして勝つのはどっちだ!?
(文/天野ミチヒロ)
<おまけ>初公開時のパンフレット(筆者所蔵) 1970年のリバイバル公開時のパンフレット。筆者が初めて観たのはこっち(筆者所蔵) 劇中の戦いを再現したジオラマ・ソフビはめっちゃリアル(筆者所蔵) キンゴジのデフォルメソフビ。各社異なる味わいがカワイイ(筆者所蔵) 大人になってもソフビで怪獣ごっこ♪(筆者所蔵)
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