演劇は“お客さんに編集権が委ねられているメディア”「究極の客イジり。ずっと天井を観ていてもいいです」主人公視点で参加できるVR演劇『僕はまだ死んでない』ウォーリー木下・内海啓貴インタビュー
コロナ禍の今だからこそ、届けられる作品もあるはず、という出発点から企画が立ち上がり誕生した、360度の視点で楽しめる配信スタイルのVR演劇『僕はまだ死んでない』が2月に配信されます。原案・演出を手掛けるウォーリー木下さんと、主演の内海啓貴さんにお話を伺いました。
360度自由な視点のVR演劇
最新テクノロジーのVR(ヴァーチャルリアリティ)技術を活用し、舞台上を360度ぐるりと見渡せる自由な視界。自在なズームイン・アウトはもちろん、劇場上演の演劇では味わえない、舞台上の主人公の視点で物語が楽しめます。物語の間、ずーっと一人の人物にフォーカスするも良し、天井を見上げて主人公の気持ちに寄りそうも良し! 何度も、幾通りも楽しめる作品です。
★ヘッドマウントディスプレイ(VRグラス・VRゴーグル)だけでなく、スマートフォン、タブレット、各種ブラウザでご視聴いただけます。
★VRゴーグル対応機種=Pico G2、G2Pro、G2 4K/Oculus Go/Windows Mixed Reality
【あらすじ】
僕は病室にいた。
父と、僕の友人が何やら話をしている。が、体がぴくりとも動かない。一体僕に何が起こった?
医師らしき声も聞こえる。「現状、一命を取り留めていることがすでに大きな幸運なんです」
……なるほど。そういうことなのか。デザイナーとしての会社務めを半年前に辞め、油絵に打ち込んで夢だった画家への道を歩み始めた矢先だった。脳卒中で倒れ、自分の意志で動かせるのは眼球と瞼だけ。「やってられるか、バカ野郎!」とたった一言伝えるのに5分以上かかる。
そして病室には、
飄々と振る舞い軽口も叩く父、慎一郎。
兄貴分の幼馴染で、親身になって回復を願っている碧。
離婚の話し合いが進み、新たな生活に踏み出し始めていた妻、朱音。
そして、担当医である青山。
「良く死ぬことも含めての良く生きること」
直人と、直人を取り巻く人々それぞれに、胸に去来する想いがあり……。
エンターテイメントとして、ときにコメディタッチに描かれている本作は、物語に引き込まれるうちに、構えることなくすぅっと「人生の最期」について思いを巡らすことのできる作品です。
原案・演出をウォーリー木下さん、脚本を広田淳一さんが手掛け、ロックトインシンドローム(閉じ込め症候群)といわれる意識はあるものの体が動かせない状態になった主人公・白井直人を内海啓貴(うつみ あきよし)さんが演じます。
演劇はどこを観ても良い。自分で見る場所を決められるVRに“演劇のスピリッツ”を感じた
――本作の発想のきっかけを教えてください。
ウォーリー:(コロナ禍で)演劇の配信をいろいろなところがやり始めて、そういう作品も家で観ていたりしたんですけど、僕の中で“何をもって演劇と言って良いのかな”と考えていたときに、VR演劇の話を聞いて。配信の1つの手法として、僕の中で「これは演劇だな」と思ったんですよね。配信だけど、限りなく演劇に近いんじゃないかなと思って。
その理由を簡単に言うと、お客さんに編集権が委ねられているメディアだということ。例えば、小説や映画、テレビ、音楽にしても、実は編集されているものを僕らは受け入れて楽しむ。でも、音楽のライブとかもそうですけど、演劇はどこを観ても良いんです。
実際に僕が演出している舞台でも、“ずっと推しの人だけしか観ていなかったです”というお客さんもいたりして、ちょっと複雑な気持ちにはなるんですけど(笑)。
内海:(笑)。
ウォーリー:でも、それも楽しみの1つだし、それが演劇なんじゃないかなと思って! 僕は割と意図的に舞台上の情報を多くして、1回では分かりきれない作品を作るのが好きなんですよ。この「分からない」というのが演劇たる所以だなと思っているんです。なんで演劇が分かりづらいかって、編集されていないから、すごく生々しいんだと思うんです。もちろん、キレイにあたかも編集したかのような演劇も世の中にたくさんあるんですけど、それでもどこか演劇が分かりづらいのは、お客さんが能動的に参加しないと楽しめないメディアだからなのかな、と。だから、割と美術館に行って絵画を観るときに近くて、絵画を観ていてもその文脈がどうとか、端っこに描かれている人物が実はローマ教皇でこっちを見ているから~とかがわかると、なるほど!みたいになることって、宗教画とか特に多いじゃないですか。
そういう風に自分で見る場所を見つけていくというか、参加していく楽しみ方があるのが演劇だなと思っていて。だから、僕は配信でもカメラ割されている演劇作品はやっぱり映像作品だと思っているんです。ただ、VRに関しては、自分で見る場所を決められるんですよね。例えば右側を見ている間は左側のことを見られないというのは、面白い!と思いました。
それで、360度演劇というのをVRを使って作ってみようと。これは逆に言うと、家でしか楽しめない演劇だし、自分自身が真ん中に居て、周りで起こるドラマを首を振りながら自由に楽しめるという作品を作ったら、映像配信だけどきっと演劇のスピリッツを持った作品になるんじゃないか、と思ったんです。
――VR演劇ということで、内海さんは普段と取り組み方で違いはありましたか?
内海:今回は、僕主観になっているVR作品なので、緊張感はありました。通常の映像作品にもない、舞台の本番にもない緊張感があって(笑)。舞台でも気が抜けないんですけど、もっと気が抜けないな、と感じました。
普段は誰かが見ている中でお芝居をしているじゃないですか。この作品の場合は、誰かに見られているんですけど、(スタッフが映り込まないように)周りに誰も居ない。僕は1人の芝居が多かったので、VRのカメラと僕だけの空間で。自分の部屋で1人で練習している感覚と似ていて(笑)。あと、「このカットを撮ったら30分お休み」とカメラを冷やさなくてはいけない時間もあり、「このシーンからここまでを撮ります。セリフを間違えたらまた最初からです」とカットもなかなかできない状態だったので、その緊張感もありました。でも、やっていることって普段の舞台作品とそんなに変わらないんですよね。どう見られているか、という違いだけで。緊張感も持ちつつ、でも面白い作品になったんじゃないかなと。演者からしても新しいし、観ているお客さんも新しい感覚で観られる作品なんじゃないかなと思います。
――ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」 などは、ボールにカメラを仕込んで、ステージ上からの景色をお客さんが観ることができる演出をされていますよね。VRもそうですが、そういった舞台上に入り込んだような見せ方がウォーリーさんはお好きなのかな、と思いました。
ウォーリー:思ったことはなかったですけど、そうかもしれないですね! 僕はオフ・ブロードウェイで観たブルーマンの公演で、彼らが上演中にカメラを持って外に飛び出していって、車に轢かれて終わる、みたいなネタがあるんですけど、それがすごく面白いと感じて。舞台上で起こっていることが、カメラを使うことで外の世界と繋がるみたいな。あの映像は今起こっていることなのか、嘘なのか、ちょっとよく分からなくなる、みたいなことは、確かに演劇のライブだからこそ楽しい部分で好きですね。
今回も基本、ロングショットで10分くらいのシーンは最初から最後まで止めずに、いわゆる演劇みたいに撮っているんですけど、ところどころギミックでCGで作られた映像が入ってきたり、ロケをした外のシーンが一瞬インサートされたりとか、演劇を観ているようで、でもちょっと映画を観ているような演出もするので、不思議な作品になっているんじゃないかなと思います。
主人公の感覚を体験。将来は「観ている人が自分でセリフまで言えるようになったら面白い」
――今回内海さんは、病院のベッドに横たわっている時間が多い役ですが、どう稽古や撮影をされたのでしょうか?
内海:本番の撮影は、僕はベッドにずっといるわけではなかったです。僕主観の映像を撮るために、僕の視点にカメラが置いてあります。でも稽古中は僕がベッドに横たわって、ずっと周りのみんなを観ているお芝居をしました。それをやってみると、本当に自分の思っていることを言葉にできないってすっごいストレスなんですよ。セリフにあるように、少しの言葉を伝えるにも5分以上かかってしまったり、本当にストレスを感じるな、と実感しました。
自分でも病気のことは調べたりしていたんですけど、実際に稽古に行って、みんなのお芝居を観ていると、ストレスという言葉では表しきれないくらい、「想いを言葉にできないってこんなにつらいことなんだな」と思いました。それは、みなさんのお芝居がリアルだったので。僕は動いてはいけないのに、(加藤良輔さん演じる)碧兄とかが面白いお芝居をして思わず笑っちゃったりしたんですけど、“でも、こうやって笑うこともできないんだな”と。“今、俺笑ってるんだぜ”というのを稽古場では伝えられていますけど、本当にロックトインシンドローム(閉じ込め症候群)だったら伝えられないのか、つらいな、ということをみなさんと一緒に稽古をして受け取りました。
――VR撮影ならではの苦労した点は?
内海:360度なので、カメラにレンズがいくつもついていて、レンズとレンズの間に立つと(映像が)歪んじゃうので、そこに立っちゃいけない。決まった立ち位置にいないと、体が歪んじゃうから、とか(笑)。そこはキャストのみなさん、一番苦労していた点だと思いますね。本当にちょっとズレただけで、「あ!今、肩がなくなっちゃった!」みたいなことがあったので、そこは気をつけていました。
――ウォーリーさんから見て、内海さんの演技はいかがでしたか?
ウォーリー:内海さんは、VRゴーグルを付けてこのドラマを楽しむお客さん視点をやっているんですけど、もう超難しい役で。病気でロックトインシンドローム(閉じ込め症候群)という体が動かせない状態になってしまった人なんですけど、お客さんは家でお菓子とか食べながらでも観られるわけで、当たり前ですが本当にロックトインシンドロームではないんです。でも観ている最中に、あまりにも周りの登場人物が「お前大丈夫か?」とか、文字盤で一生懸命コミュニケーションを取ろうとしたりしてくれるので、たぶんどんどん錯覚でそうなったように感じるだろうし、「体が動かなくなったらどうなるんだろう」と考えるような仕組みにはなっていると思います。だから、変な感覚が芽生えて、「私は彼(内海さん演じる直人)を演じてるんだ」と最後の方にはお客さんの中で混同されていくと思うんです。
そのときに、あまり役者さんが役作りみたいなことを積極的にやってしまうと、それこそお客さんは女性だっているので、「内海くんだったら私は関係ないな」みたいになったら良くないじゃないですか。だから、すごくフラットなお芝居をしてくれました。最後の最後まで、どうとでも自分を反映できるような感じ。内海さんは、潜在的にお客さんが思っていることをちょっとだけ引っ張り出してあげる、みたいな作業をする役なので、難しいことをやってるなぁ、と。申し訳ないくらい難しい役だと思いました(笑)。
内海:けっこう悩みましたね。フラットという部分もあるんですけど、直人の中でも成長はしているので、そこは絶対に見せたいなというのはありつつ。でも、クドくやるのもこの役は違うな、と思いながら……(笑)。つらいんだけど、想像の世界ではこんなに幸せなんだぜ、というところを上手く対比して見せられたらいいな、と思いましたし、そもそも、そんなに暗い作品を作りたくないな、と思って(笑)。こういった生死に関わる作品ってどうしても暗くなりがちなので、フラットな感情で作って、お客さんがどういう角度でも想像できるような役の作り方なのかな、とやっていく内に思いました。
――手応えや今後の可能性を感じている部分は?
内海:映像として残っているので、確実に観てもらえる、というのが演者としては嬉しいです。コロナ禍なので、やっぱり公演中止になってしまうと本当にもったいないじゃないですか。こんなに素敵な役者さんが集まったのも奇跡なのに、それをお客さんの前で見せられないって。僕も中止になった舞台がたくさんあって、どこにもぶつけられない想いがあるんですよ。それは、僕だけじゃなく、全役者さん、スタッフさんもそうだから、こういった映像として残る作品の一番の強みはそこかなと思います。
ウォーリー:今回は一発目だったので、僕もいろいろ勉強させてもらいながら取り組んで発見ばかりでした。技術的なことも好きなので、技術屋さんと一緒に「こういうことをできるようにしていきませんか?」と話しながら、いろいろ取り組んでいきたいな、と。この360度演劇の場合は、特に音が重要で。
今回は一応バイノーラルマイクという人間の耳の形をしたマイクを使って、実際にその場にいるように聞こえてくる仕組みにしているんですけど、観ている人が激しく動いたりしたら、ちょっとだけズレてしまうんです。そのあたりのシステムとかは、しっかりできるような技術開発をしていって、今回の作品は椅子に座って観るような作品にしたんですけど、今後グローブを付けたり、立って動いたり、今はルームランナーで使用できるようなVRもあるので、自分が走りながら演劇を体験できるとか、家にいて自分が役者になれるみたいな。さらにインタラクティブなことも取り入れていって、観ている人が自分でセリフまで言えるようになったら面白いですよね。
――周りにいらっしゃる登場人物はその位置から声が聞こえると思うのですが、今作は内海さんの主観になっているので、内海さんのセリフはどう収録したのですか?
内海:僕だけ胸のところに付けたピンマイクでした。僕だけは主観としてだったので、僕以外はみなさんマイクをつけていませんでしたね。
ウォーリー:内海さんの声は、お客さんの頭の中で聞こえるようなイメージの設定で作っています。
内海:演じている僕らも完成のイメージが全然わからないんですよ(笑)。みんなで撮影するときに「俺だけマイクつけるんだね!」とか話したり。僕も初めてのことなので、本当に完成が楽しみです。
「今までにない斬新な客イジりを楽しんで」
――VRなので、お客さん自身で視点をいろいろ動かせてしまうと思うのですが、ここだけは見逃さないで欲しい!という部分はありますか?
ウォーリー:ないです! 最初に言ったように、もう好きなところを見てもらって、それが演劇だと思っているので。もちろん“こっちを見たほうがいいんじゃないかな”と思うときはありますけど(笑)、ずっと1人の人を追っていても全然構わないです(笑)。それでも何かしらは自分なりの解釈ができる作品になっていると思うので、大丈夫です。そして、何回も観てもらえたらいいと思います。
内海:天井は演劇の舞台のままなので、見上げると照明などもあります。そこはテレビドラマとは違うような、本当に劇場に行ったような感覚を味わえると思います。
ウォーリー:そうですね。舞台の上に乗っている感覚はすごくすると思います。天井をずっと観ていても別にいいですよ。照明が変わる瞬間を見て、「あ、照明ってこんな風に変わるんだ」とか。
――普段は正面に集中してしまいがちなので、照明が変わるところなどが見られるのは貴重ですね。舞台上からの視点も本来はできない体験です。
ウォーリー:究極の客イジり、客上げですよね~。だけど、お客さんは舞台上に上げらてイジられたりするのって、普通は緊張するじゃないですか。でも、今回は全然緊張しないです。家でリラックスして楽しめるので、そういう意味では、今までにない斬新な客イジりなので楽しんでください。
――楽しみにされている方にメッセージをお願いします。
内海:VRという、僕自身も初めての出会いでした。ゲームなどは流行っていますが、この作品がVRで演劇を観ることのきっかけになってほしいです。僕はこの作品の前に、ミュージカル作品でVRを体験したんですが、観てくださったファンの方や親戚から「楽しかった! 近くにいたし、舞台の上ってこんな感じでお客さんが見れるんだ」と感想をもらって、そういった新鮮な感覚もあると思います。もしかしたら、「こういう想いで立っているんだ」と役者の想いもわかるかもしれないので、いろんな想いをこの作品で楽しんでいただけたらと思います。
ウォーリー:物語は1人の男の人が倒れて体が動かなくなってしまった、というところから始まって、いわゆる安楽死みたいなものを巡る話なんですけど、患者さんの視点で見ることによって感じられる、届かない愛みたいなものをテーマにしていて。それは、もしかしたら今、人と会う、手を伸ばして人と手を繋ぐということがとても困難な時代になっている中で、1つのメタファーとしてあり得るなと思っているので、観ている人が個人的に会いたい人であったり、会えなくなってしまった人に投影できる愛に溢れている作品なので、ぜひ没入してもらって感じて貰えればいいなと思います。
安楽死など重たいことだけでなく、単純にコメディ的な要素もたくさんあって、ドタバタしていく周りの人たちの様子も観られるので、客観的に「あ、自分が倒れたらこんなに家族ってドタバタするんだ」みたいなシミュレーションにもなるので、人それぞれの楽しみ方をぜひ体験して、2度、3度楽しんでもらえたら嬉しいです。
――ありがとうございました!
キャストコメント映像もVR撮影で収録されているので、視点を動かしながら観ることができます。
VR演劇「僕はまだ死んでない」キャストコメント映像【VR】
https://youtu.be/xgEwpbtUuds
作品概要
【タイトル】 VR演劇「僕はまだ死んでない」
配信チケット販売: 発売中~2月28日(日)23:59 ※期間中何回でも購入可。
閲覧可能期間:2月1日(月)18:00~3月7日(日)23:59
閲覧期限:7日間
配信チケット価格:3,500円(税込)
【原案・演出】ウォーリー木下
【脚本】広田淳一
【音楽】吉田能
【出演】
白井直人役:内海啓貴 白井慎一郎役:斉藤直樹 児玉碧役:加藤良輔
青山樹里役:輝有子 白井朱音役:渋谷飛鳥 白井直人(幼少期)役:瀧本弦音 児玉碧(幼少期)役:木原悠翔
【企画・製作】シーエイティプロデュース
【公式サイト】https://stagegate-vr.jp/[リンク]
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