監督・製作・編集・音楽をたった1人で作り上げた長編アニメーション『Away』「高畑勲さんの“一呼吸置く演出”に影響を受けている」

世界中のアニメーション映画祭を熱狂させたラトビア人クリエイター、 ギンツ・ジルバロディスが、監督・製作・編集・音楽など、たった一人で全てを作り上げた長編デビュー作映画『Away』が12月11日(金)より公開中です。

幻想的で美しく素晴らしいこのアニメーションを、どの様に作り上げたのか。監督にリモートインタビューを行いました。高畑勲監督への影響についてもお聞きしています。

【動画】映画「Away」劇場予告編
https://www.youtube.com/watch?v=qmdc-IQ6xlg [リンク]

――とても楽しく拝見させて頂きました。美しくて独創的な素晴らしい作品でした!これまでのこの作品をご覧になった方からの反響で印象的だった声はありますか?

とても良いリアクションを頂けました。皆さん興奮して見てくださったようで、こういうインディーズ作品が注目を浴びるのはとても嬉しいです。インディーズでもアニメが作れるという事が広く知られたことはありがたいです。多くの人がチームを編成して、あるいは一人でどんどん作品を作っていければいいなと思います。そうすれば、色々な文化が語り継がれることになる、と。

僕が一人で作ったというのが、この作品のメインポイントになると思いますが、正直いい思い出はなかったんです。ただ、実際みなさんからの反響を浴びるとこのストーリー自体も僕の孤軍奮闘していた制作工程をなぞっているんだと、感じました。そう気づかされ、それも悪くないなと思うようになりました。

今回は説明を加えていない、非常にミニマリズム的な作風ですが、皆さん自身の経験に照らしてそれぞれに解釈してくれたのがとても面白くて。例えば、黒い影が象徴するものが何なのかというのも、それぞれの政治的背景だったり、文化的背景によって、だいぶ解釈が違うようで、そこに面白みを感じました。

――オフィシャルのインタビューなどで高畑勲さんのお話も度々登場します。どういった部分に影響を受けたか詳しくお教えいただけますでしょうか?

高畑監督の作品は、ペースの緩急がすごく効果的であると思っていて、西洋の作品ではあまりないことだと思います。ここで一息ついて振り返ってみようとか、一呼吸置く演出に僕は影響を受けているなと思います。世界観に関してさらに言うと、僕の場合、都市の風景よりも自然の風景に興味があって、コンクリートの建造物とか構造物を作ることにはあまり興味がないんです。とことん腰を据えて何かを作るなら、日々の生活から逃避できるような非常に心地良い、じっくりと落ち着いて堪能できるような自然美が僕の場合は良いと思っています。ペースの緩急は大事だと思います。現代はずっとアクション!アクション!アクション!のような、ストーリーを絶え間なく推し進めるストーリーラインの作品が多いですよね。でも、高畑監督の作品にはストーリーラインをちょっと止めて、キャラクターとじっくり腰を据えて向き合うみたいな間があるんです。そういうところが好きなのかもしれません。

――ヒントとなった作品についていろいろな映画、ゲーム、アニメをあげていらっしゃいますが、監督はどのように情報収集をされているのでしょうか?

そうですね、いろんな作品名を挙げましたが意図的にこの作品のここをとってあれをとって、っていうふうに作ったわけではなくて、潜在意識からパッと出てきました。インプットが醸成されて自分の中から出て来る、みたいな感覚です。なので、普段の生活で心がけというほどのことでもないですが、普段からいろんな映画を見たり、ゲームをプレイしたりしています。仕事ばっかりしていてもやはり疲れるので、寝る前はスイッチをオフにして、映画などを見たりして過ごしています。色々な作品にインスパイアされるのも大事だと思いますが、同じくらい自分の人生や自分の経験も大事だと思うので、そういう意味では、『Away』は自分のパーソナルストーリーであると思います。この映画では、つながりを求める旅を描いているわけですが、それは自分の人生そのものだったり、自分自身そのものだと思っています。そういったことがゲームや映画からの影響よりも大事かなと思います。

【オフィシャルインタビューより】
Q:Awayを作成する際のアニメーションスタイルのヒントは?

私が体験した映画やゲーム、旅行から、直接インスピレーションを受けました。
例えば、『未来少年コナン』(78)は私が憧れていた素晴らしい世界の建築物が登場し、宮崎駿監督が創り出した最高の作品の一つです。『キートンの大列車追跡』(26)は、私の大好きな映画トップ5の一つで、映画の中では完璧ともいえるスローチェイスがあります。『激突!』(71)は、もう一つの素晴らしいスローチェイス映画です。「ワンダと巨像」(05)もとても良いですね。アルフォンソ・キュアロンの映画はどれもインスピレーションを与えてくれますし、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(04)のカメラワークは特別でした。

オートバイのシーンは、『モーターサイクル・ダイアリーズ』(04)のようないくつかの映画にインスパイアされ、ダイレクトな影響を受けました。『栄光のライダー』(71)はオートバイを描いた優れたドキュメンタリーで、1971年に制作され、複雑なショットが収録されています。日本のゲーム「人喰いの大鷲トリコ」(16)は、男の子と動物との関係が、驚異的にデザインされたゲームです。『自転車泥棒』(48)は信じられないほどシンプルで人間的な物語で、高畑勲監督の「母をたずねて三千里」(76)とともにインスピレーションを受けました。また、高畑監督の作品の中で、描かれていた自然を見て、自分もそのように作ってみたいと思いました。

感情に訴えかけるゲーム「風ノ旅ビト」(12)は、ヒーローの旅をより抽象的に描いたもので、こちらもインスピレーションを与えてくれました。映画の中の“黒い影“は、突発的起こる恐怖よりも、じわじわくるサスペンス的要素のある恐怖を私自身好むのですが、”黒い影“はそれを最もよく示しています。アイスランドやランサローテへの旅はAwayの美しい風景にもインスピレーションを与えました。

――本作で一番時間がかかったのは作品作りの準備だったそうですが、監督があきらめずに作品を完成させられた理由は何だと思いますか?

走り出して一、二年はすでに費やしていたので、何が何でも完成させないと、「あの一、二年を無駄にしたことになる」という思いが完走できた理由かなと思います。アニメ制作は僕にとっての喜びです。作業自体が楽しいので、そんなにモチベーション的に難しかったということはなかったです。いろんな作業工程を自分一人で、同時進行で進めているので、最初に白紙を目の前にしてストーリーを作らなければという出だしの苦しさはありました。また、日々同じことを繰り返し繰り返しやっていくっていう反復作業、そして長時間に及ぶ作業も大変ではありましたが、先ほど言ったように同時進行でいろんな作業を進めていたので、アニメーションに飽きたら音楽を手掛けてみようとか、音楽飽きたら編集いじってみようとか、そういう風にいろんな作業工程を違う工程に移すことができたので、飽きずに済みました。

――黒い影=不安とも取れますが、コロナ禍の中で監督が感じられたことを教えてください。

非常に興味深いなと思っています。もちろん『Away』はコロナ前に作った作品で、いざコロナが蔓延するとみんなこの黒い影にいろんな意味を読み込むんだなと。この黒い影にのまれたら、必ず違う動物が救い出してくれますが、ウイルスはそうはいかないですよね。感染したら、近づくなということですから。なので、違うソリューションを探さなければならないですが、最終的にはこの『Away』でも描いていたように最後はその黒い影をちゃんと打ち負かすことができる、また同じように我々もコロナに打ち勝ってまた再会できたらいいなと思っています。そして、その日を僕は楽しみにしています。

2019年は『Away』でいろんな映画祭に出かけたり、いろんな土地を訪れていたりしましたが、今年はずっと家にいます。日本はヨーロッパよりは、幾分か状況は良いようで、映画館もちゃんと営業しているっていうのは本当に素晴らしいことだと思います。100%原状復帰というわけにはいかないかもしれませんが、少なくとも今よりも良い状況になることを願っていますし、その日を楽しみにしています。

――今日は貴重なお話をどうもありがとうございました!

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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