河童、座敷童…フォルクローロ(民話)の里・遠野で妖怪に出会う

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河童、座敷童…フォルクローロ(民話)の里・遠野で妖怪に出会う

岩手県の内陸部に遠野という街がある。江戸時代には鍋倉城の城下町として発展し、また、遠野に伝わる昔話が収められた『遠野物語』の舞台となった。また、民間信仰に興味があり、舞台となる地へ行くことが趣味の私のような者にとっては、外すことのできない場所でもある。

JR東京駅からJR新花巻駅へ東北新幹線で約3時間、新花巻駅から釜石線に乗り約1時間でJR遠野駅に到着だ。4時間で、遠野物語の世界へ行くことができる。どんな妖怪に出会えるだろうか。

東京駅

遠野物語の舞台へと向かう

『遠野物語』の初版は、1910年6月14日に、民俗学者・柳田國男により350部の自費出版として刊行された。遠野に伝わる逸話や伝承について記してあり、河童や天狗などさまざまな妖怪とともに、オシラサマやザシキワラシなどさまざまな神々も出てくる。

やまびこ車内

やまびこで新花巻駅を目指す

遠野物語を、柳田が遠野を訪れ、ネタを採取して書き上げたと認識している人がいる。でも、違う。日本のグリムといわれた遠野出身の佐々木喜善が、東京で、柳田に遠野に伝わる不思議な話を語り、それを柳田が書き起こしたのだ。一部には柳田の創作も入っているという。

序文にも、「此(この)話はすべて遠野の人佐々木鏡石君より聞きたり」とある(鏡石とは、喜善のペンネーム)。どちらにしても遠野物語は高い評価を受けた。三島由紀夫も『小説とは何か』で、その文学性を高く評価している。

釜石線 車窓

釜石線の車窓。天気は悪いけどいい景色!

ちなみに遠野物語は今も出版されているが、原文は今となっては若干読みにくく、口語訳版などの方が読みやすい。

遠野駅

遠野駅に到着!

遠野駅

遠野そばで腹を満たし昔話の世界へ

釜石線では雨が窓を濡らしたが、遠野駅に着くと天気は回復する方向にあるようでホッとした。まずはお腹を満たそう。

お食事処伊藤家

遠野駅から徒歩約5分、伝統的な遠野の町家を改装した「お食事処伊藤家」では、「遠野そば」を食べることができる。前日に地粉を石臼で自家製粉し、販売当日にその粉を使い「二八そば」を打つ。つゆの醤油も地元のものだ。

天ざる

天ざるを頼みました!

季節によっては、究極の薬味と言われる「暮坪(くれつぼ)かぶ」で遠野そばをいただくこともできる。例年は7月中旬から2月がシーズンなのだけれど、私が訪れた時(10月)は、偶然なかった。でも、いいではないか、暮坪かぶがなくても、遠野そばが美味しいのだから。天ぷらは注文を取ってから揚げるので、衣が生き生きとしている。

遠野駅前の水道仕切弁小型蓋

食事が終わると遠野駅前を散策した。マンホール的なものには、河童をモチーフにした、遠野市の公式キャラクター「カリンちゃん」が描かれている。また近くにある「遠野市立博物館」は、日本で初めての民俗専門の博物館だったりもする。

とおの物語の館

遠野駅から徒歩約8分、先のお食事処伊藤家からは徒歩1分くらいの場所にある「とおの物語の館」にやってきた。施設内の「昔話蔵」では、昔話を見たり、読んだり、さらに触れたりもできる。

昔話蔵

昔話がたくさん!

昔話蔵

触ることのできる昔話!

柳田國男が滞在した宿「高善旅館」も移築してあり、当時の旅館の様子を知ることもできる。「旅籠」と書くと趣アップではないだろうか。柳田だけではなく、弟子の折口信夫や、古代の言語である西夏語研究の第一人者であるニコライ・ネフスキーも宿泊している。

高善旅館

いい雰囲気でしょ!

さらに「遠野座」というものがあり、語り部による昔話を聞くことができる。実際に語り部が登場して、昔話をしてくれるのだ。「なにか聞きたい話はありますか?」と聞いてくれるので、して欲しい話があればリクエストもできる。

私が訪れた時は、お客さんのリクエストで『ふるやのもり』『マヨイガ』『せあみ』の3つだった。全部で20分ほど。ふるやのもりは、虎や馬泥棒、猿などが出てくるお話で、どれも出会うと怖いけれど、一番怖いのは古い家の雨漏り、つまり「ふるやのもり」という内容だ。

遠野座

語り部の訛りがすごい。それこそが遠野で昔話を聞く、醍醐味ではないだろうか。いい意味で、何を言っているのかわからない。ただそこに全く不満はない。臨場感というのか——遠野に居るんだという実感が湧いてくる。むしろ満足だった。

柳田國男像 筆者

柳田國男さんと記念撮影!

花巻温泉「佳松園」

花巻温泉で1泊

とおの物語の館を出ると、再び新花巻駅へ。もうすぐ夕日が射す時間。まだ遠野を楽しんだら? と思うかもしれない。しかし、今日は違う。花巻温泉にある温泉旅館「佳松園」に泊まるからだ。早く行きたいのだ。

釜石線

快速はまゆり

遠野駅から新花巻駅には快速はまゆりで約40分、新花巻駅からは送迎バス(要予約)で約30分、花巻温泉に到着する。花巻温泉は実業家・金田一国士の花巻に東北の宝塚を造りたいという構想から始まっている。旅館、動物園、植物園、テニスコートなどが作られ、1927年の日本新八景では花巻温泉が1位だったこともある。

佳松園

佳松園に到着しました!

今でも4つの旅館があり、バラ園があり、鮮やかな自然が溢れている。チェックインの際に検温して、手をアルコール消毒して部屋に入る。

客室

めちゃくちゃいい旅館です!

佳松園はとても豪華で素敵な旅館だった。思わず、仲居さんに「パーカーで来てしまったけど、大丈夫でしたか?」と聞いてしまった。それほどにいい旅館だった。部屋も広く3部屋ある。無駄にパソコンを広げて仕事をした。仕事に詰まった時は部屋を変えた。気分が変わり仕事がはかどった。ワーケーションってこういうことだと思う。部屋が多いと仕事が進む。

客室 筆者

私がやっていた仕事は上の写真、「写真を合成する」というものだったけれど、自宅で作業するのとは全てが違う。すごくクリエイティブなことをした気がした。そして、それが終わると温泉。低張性アルカリ性高温泉は、体にまとわりついてくるような、柔らかいとろとろのお湯だ。

ガラス張りの大浴場

ガラス張りの大浴場(写真提供:佳松園)

ヒノキの露天風呂

ヒノキの露天風呂(写真提供:佳松園)

温泉は全部で5回入った。入らずにはいられない温泉だった。また3部屋全てにテレビがあるのだけれど、私は一度もつけることはなかった。静けさがいいのだ。この旅館の静寂、それが心地よかったのだ。

夕食

食事も絶品!

夕食には、前沢牛があり、三陸産の鰆丹羽焼きがあり、釜で炊かれたご飯は「銀河のしずく」。豪華としか言いようがなく、美味しかった。その証拠に釜のご飯以外におひつのご飯をさらにお願いして、3合くらい食べた。食事の美味しさはご飯の量に比例するのだ。

筆者
筆者

俺、ここで結婚式あげるわ!

佳松園では結婚式もできるらしい。私はここで結婚式を挙げると決めた。結婚の予定はまるでないがここで結婚式を挙げようと思います。そう決心するくらい素晴らしい旅館だったのだ。問題は相手だけどね。いないので。

佳松園 中庭

中庭も素敵だった!

朝も早くに起きた。起きずにはいられなかった。早起きが苦手な私をすら早起きさせる旅館「力」。温泉に入り、朝食をいただき、部屋のカーテンを開け、緑を眺めた。

また来たい、ここに泊まりたいと思った。

筆者 佳松園

遠野駅

妖怪に出会う旅

佳松園を出て、送迎バスで新花巻駅に行き、釜石線に乗り、再び遠野を訪れた。本日は遠野の妖怪と出会いたいと思う。ちなみに釜石線の駅名看板には駅名とエスペラント名が記されている。

遠野駅 フォルクローロ

エスペラントは人工言語で、国による言葉の壁を越えて、誰もが意思疎通できるようにと作られた言葉。宮沢賢治もエスペラントを学んでいたことから、駅名にエスペラント名がついている。遠野駅は「フォルクローロ(民話)」。実に的確で素敵だ。

遠野駅前の「旅の蔵遠野」で電動自転車を借りた。まずは自転車を9キロ、約1時間ほど走らせ「遠野ふるさと村」に行く。

筆者 レンタサイクル 遠野ふるさと村

遠野ふるさと村には、昔ながらの遠野の里山が再現されている。江戸中期から明治中期にかけて造られた茅葺屋根の曲り家(伝統的家屋)がいくつも移築され、馬も飼われている。電線などもなく、まさにタイムスリップ。曲り家はザシキワラシに出会えそうな雰囲気だ。

遠野ふるさと村
遠野ふるさと村 曲り家

曲り家もいいですな!

はい、いまザシキワラシがいましたね。ザシキワラシは児童の姿をした神様で、神様と言われていることからわかるように、ザシキワラシが住む家は栄えると信じられています。

筆者 曲り家

ここにもいましたね、ザシキワラシ!

上の写真のザシキワラシは35歳で児童ではないけれど、ザシキワラシです……。ちなみに、遠野物語においては、17話と18話にザシキワラシが登場している。現代ではザシキワラシは妖怪という趣が強いように思えるが、遠野物語では家の神として登場しているのだ。

佐々木喜善は『奥州のザシキワラシの話』を1920年に玄文社から刊行、宮沢賢治は『ざしき童子のはなし』を1926年に雑誌に掲載している。佐々木喜善と宮沢賢治は交流があったそうだ。ちなみに私は、宮沢賢治が作詞作曲した「星めぐりの歌」が好きだ。

遠野伝承園

遠野伝承園

遠野ふるさと村から30分ほど自転車を走らせ「遠野伝承園」にやってきた。遠野伝承園は、曲がり家や養蚕、神様など、遠野の文化を知ることのできる施設。

遠野伝承園

養蚕の展示

ちなみに茅葺きの「茅」は「ススキ」を指すことが多い。日本では古くからススキを利用してきたのだ。屋根になり、堆肥になる、その時々で名前が変わるススキの器の大きさも素敵だ。

オシラサマ

オシラサマ

遠野伝承園にはオシラ堂があり、1,000体のオシラサマが壁中に展示されている。オシラサマは桑の木で作られた、農業・馬・蚕などの神様といわれ、服を着ている。ここのオシラサマは布に願いを書いて着せると願いがかなうといわれているそうだ。

オシラサマ

オシラサマは二つの顔がある。女性の顔と馬の顔。遠野物語69話でその理由を知ることができる。簡単に言えば、ある家の娘が飼っている馬に恋をして夫婦になり、それを知った父親が馬を桑の木に吊るし殺し、娘はその馬に乗って昇天する。この時の桑の木で作ったのがオシラサマである。

最後は「カッパ淵」に行く。常堅寺の裏を流れる小川の淵には、河童がたくさん住んでいたと言われている。遠野伝承園からは自転車でもいいし、歩いても10分ほどなので、私は歩いて向かった。

常堅寺の河童の狛犬

常堅寺の河童の狛犬

カッパ淵

カッパ淵に到着!

河童という言葉が最初に登場するのは、室町時代に作られた「下学集」という辞書だ。カワウソが老いて河童になると記述がある。遠野物語では、55話から59話までの5つのお話で河童が登場する。そもそも、遠野に河童のイメージはそこまでなかったようだけれど(全国に河童の伝説があるしね)、戦後に遠野物語が再評価されて、いろいろなキャンペーンなどが行われる中で、河童にスポットが当たることになったようだ。

カッパ淵

河童釣りの竿が置いてある

今では遠野といえば河童である。遠野駅前にも河童の像があり、郵便ポストにも河童が乗っていた。

カッパ捕獲許可証

これを持っている者だけが釣竿を使える

カッパ捕獲許可証を持っているものだけが、河童釣り用の竿を使うことができる。私は許可証を遠野伝承園で買った。許可証は金で買えるのだ。問題は釣ることができるのか、あるいは河童は釣るものなのか、ということ。でも、竿の先から伸びる紐にはきゅうりがついているし、やってみようではないか。

河童釣り 河童釣り

河童釣りに詳しくないが、たぶん、カッパ淵は浅いと思う。この浅さに河童がいれば、私なら釣るのではなく、飛びかかる。そして、女性の河童ならそこから口説いて結婚の約束をして、佳松園で結婚式を挙げようと思います。

遠野駅駅舎

そんな遠野の旅でした!

結局未来の嫁は釣れなかった。カッパ淵を後にして、遠野駅、新花巻駅を経由して東京の自宅に帰った。

新花巻駅で、栄泉堂の「五郎がびっくり焼」というお土産を買った。花巻市のお隣の北上市のお土産。小豆餡にクルミがたっぷりと乗っている。美味しかった。北上市のお土産なのに、食べるごとに佳松園と遠野を思い出した。

五郎がびっくり焼

東京駅

掲載情報は2020年11月30日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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