『千日の瑠璃』464日目——私は国家だ。(丸山健二小説連載)

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私は国家だ。

今はやむなく猫を被って神妙にしており、民主政治の常道を守っているが、その実、あわよくば帝国へと返り咲く機会を窺っている、国家だ。まほろ町にも一面に漂う泰平の逸民の異臭は、わが年来の懸案が実現の方向へ動き出した兆候にほかならない。見せかけの繁栄に思考力を奪われた人々は、皮相的な見解にのみこだわり、これ以上の黄金時代の現出を願うあまりに行為の正否すら弁えられなくなり、暗々裏に事を運ぶ才略に長けた輩に手厳しい論駁を加えることはおろか、怨言のひとつも放つことさえできなくなっている。

不穏な言辞を弄する者は減るばかりだ。論敵として不足のない者も減る一方だ。いよいよ愚民を扇動するときがやってきた。合の手を入れるようにして見識張った意見を吐く者も、私のひと睨みで見解の相違の穴ぐらへ逃げこんでしまう。大御所を招いて小宴を張りたがる生白い文学青年たち、かれらは私が如何なる無理無体をしようとおかまいなしにロマンスのテントを張って閉じこもるつもりなのだ。

とりあえず私の望みは新天皇を象徴以上の存在にすることだ。そしてゆくゆくは、周辺の群小国家をひとまとめにし、黄色人種の覇者を再度めざし、その偉大な功績を万世に伝えるまでになるのだ。そう思うだけで勃然として湧いてくる闘志は黒光りしている。私は今、病気のせいで兵士になれない少年の未来を払いのけつつ、十全の用意を調えている。
(1・7・日)

丸山健二×ガジェット通信

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