丸山健二氏特別寄稿(4)『食いつなぐことしか考えない編集者』

丸山健二氏特別寄稿(4)『食いつなぐことしか考えない編集者』

丸山健二氏特別寄稿(4)『食いつなぐことしか考えない編集者』

日本文学の体たらくの主因は、関係者たちの構造的な堕落によるものである。つまり、書き手と読み手と編み手における過剰な癒着と自己陶酔と閉鎖性と独断のせいで内部から腐ってしまっただけのことで、文学そのものが駄目になったということではない。文学のめくるめく素晴らしい鉱脈は厳然としてそこに在り、そこを掘るための資質と根性を具えた書き手の登場を待ちあぐねている。

幼稚なナルシシズムとマゾヒズムで成り立ち、素手でも掘れる、その分かなり質の低い鉱脈は確かに掘り尽くされてしまった感が否めないのだが、しかし、それで終わったと決めつけるのはあまりに早計で、実際にはその程度の書き手では歯が立たない硬い岩盤の向こうには、これぞ本物の文学と言える宝が眠っているのだ。その存在すら気がつかないまま、日本文学を背負ってきたと自負してやまない関係者たちは、世間にそっぽを向かれ、商業的に成立しなくなったというただその一点によって、軽々しく〈衰退〉だの〈活字離れ〉だのという答えを出し、もはや打つべき手がなくなったと言わんばかりに、自分たちのやり方に致命的な欠陥があったことなど想像さえせずに、あとは惰性の余韻に身を任せて食いつなぐことを考えているばかりだ。

編集者は単なる勤め人に成り下がり、いや、区役所の職員のごとく、同じ月給ならば働くだけ損だという価値観に魂をまるごと蝕まれ、人間として持ち合わせていなければならない最小限の価値すらも失い、文学や芸術に携わる立場とはおよそかけ離れたところへ心を置くようになり、救いがたい選考委員が選んだどうしようもない新人の本が、権威に弱い読み手たちによってその場限りで売れまくることにかすかな希望をつなぎ、あとは愚痴に終始する日々をだらだらと送っているばかりだ。

丸山健二氏特別寄稿2013

丸山健二氏プロフィール
1943 年 12 月 23 日生まれ。小説家。長野県飯山市出身。1966 年「夏の流れ」で第 56 回芥川賞受賞。このときの芥川賞受賞の最年少記録は2004年の綿矢りさ氏受賞まで破られなかった。受賞後長野県へ移住。以降数々の作品が賞の候補作となるが辞退。「孤高の作家」とも呼ばれる。作品執筆の傍ら、350坪の庭の作庭に一人で励む。
Twitter:@maruyamakenji

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