SF映画みたいな「未来のまち」が現実に! テクノロジーを駆使したまちづくり
コロナ禍のまっただ中の2020年5月27日、参院本会議で可決された「スーパーシティ法案」。これによって、今後の日本の各地でA I(人工知能)やビッグデータを活用して生活全般をよりスマート化させる技術を実装した街が、本格的に登場することになる。未来の街なんてまだピンと来ない……というわけで、すでにそんなテクノロジーを駆使した「まちづくり事業」の展開を目指すパナソニックとトヨタが今年設立した合弁会社「プライム ライフ テクノロジーズ(以下P L T)」に、未来を見据えたまちづくりとはどのようなものか詳しい話を聞いた。
「あたりまえを変えていく」まちづくりとは?
ロボットが重い荷物を家の中まで運んでくれたり、健康診断を自宅にいながら受けることができたり、自動運転の車で外出ができる――。そんな今私たちが想像できるものを遥かに超える、次世代の人々の暮らし。
私たちの生活にガスや電気が当たり前になったように、これからは先端テクノロジーが生活をサポートすることで、暮らしの「あたりまえ」が変わろうとしている。
そんなまちづくりを進めるPLTを設立したのは、パナソニックとトヨタの2社。
パナソニックは、パナソニック ホームズなどと世界に先駆けて取り組んだスマートシティ「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」(神奈川県藤沢市)が今年で丸5年を迎えた。地域課題を解決するために、エネルギー、セキュリティ、モビリティ、ウェルネス、コミュニティの5つの分野を横断するサービスを提供。例えばコミュニティ内にある高齢者施設の部屋の温度・湿度や居住者の生活リズムを、同社製のエアコンとセンサーを用いることで、見守りを可能にしている。
Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(写真提供/パナソニック ホームズ)
一方でトヨタは今年、モノやサービスがつながる「コネクテッド・シティ」を推進することを発表した。「コネクテッド・シティ」は、人々が生活を送るリアルな環境のもと、自動運転やパーソナルモビリティといった進化した乗り物や、ロボット、スマートホーム技術に人工知能(AI)技術など、最先端テクノロジーを導入した実証都市。ゼロエミッションのモビリティと歩行者が歩く道が血管のように編み巡らされたまちから、「ウーブン・シティ」と名付けられた。実際に、2021年に静岡県裾野市にあるトヨタ工場跡地で着工予定だ。
PLTは、そんな2社のほか、関連会社であったパナソニック ホームズ、トヨタホーム、ミサワホーム、パナソニック建設エンジニアリング、松村組の5社との間で家や街づくりに関するノウハウを共有し、まちづくりに活かしていく。
PLTとしての共同まちづくりプロジェクトは、すでに全国で13ケースが予定されている。
「少子高齢化の影響による空き家の増加であったり、建築業界における就労人口の減少といったさまざまな社会課題を抱えているのが今の日本です。また暮らしの面では、AIやIoTの高度化、5Gの出現などで、現在はダイナミックな暮らしの変化が起きる目前。こうした大きな環境変化が想定される中で、全く新しい価値をもった、次世代の街を提供する必要があると考えました」と同社グループ戦略部主任 佐野遥香さん。
今ある技術やこれから生まれてくる最先端技術を使って、私たちが直面する社会課題に正面から取り組み、より良い生活を目指すまちづくりに期待が膨らむ。
同社まちづくり事業企画部 担当課長の粂田(くめだ)和伸さんは、「想像を超えた暮らしを実現したい」と語る。
「これまでは家を建てて売るということを事業の中心として行ってきましたが、今後は“くらしサービス事業者”として街全体をプロデュースしていきたいです」(粂田さん)
生活を支えながら、技術で社会課題も解決
具体的にはどのような街をつくろうとしているのだろうか。それを語るに欠かせないのが、トヨタのモビリティ技術、パナソニックのAIや先進デジタル技術を中心とした、グループ会社5社のノウハウによる家づくりだ。
「これまで1社だけで活用していた技術を、PLTではグループ各社と分け合っていけることが強みなんです」と話すのは、同社技術企画推進部 担当部長の小島昌幸さん。
左から、PLTまちづくり事業企画部担当課長の粂田和伸さん、PLT技術企画推進部担当部長の小島昌幸さん(写真提供/プライム ライフ テクノロジーズ)
例えば地震が起きたとき、ミサワホームが開発した「GAINET (ガイネット)」という、外出先からも瞬時に建物の被災度が分かる技術を、今後はパナソニック ホームズやトヨタホームが提供する住宅にも導入を検討しているという。このサービスは、万一の時には、被災した家の復旧支援を一早く提供することを可能にした技術でもある。
建物の被災度が瞬時に分かるミサワホームの「GAINET(ガイネット)」は、今後P L T各社の新築物件でも導入できるよう検討中だという(写真提供/ミサワホーム)
また、近ごろ頻発している自然災害による長時間の停電対策として、トヨタ自動車からの技術支援を受け、一般的に広まっているハイブリッド車・プラグインハイブリット車の車載蓄電池からAC100V・1500W電力供給機能を住宅・建設物につなぐことで、安全な非常用電源として使えるようトヨタホームが研究開発中だという。この技術は、ミサワホーム、パナソニック ホームズが提供する住宅への展開も予定しているのだとか。
災害の多い日本では、災害対策された住まいへのニーズも高まっている。オンラインでつながることによる復旧支援の早期対応や、車載蓄電池を用いた電源確保といった先端テクノロジーを活かした家づくりへの期待は大きい(写真提供/トヨタホーム)
「技術を活用していくことで、人々の生活を支えながら、社会課題も解決していくことができると思っています」と小島さんは話す。
一方、AIやビッグデータを暮らしに導入することについて、プライバシーや個人情報の扱いなどについての側面から、一部で懸念する声もある。「技術はあくまでも、問題解決の手法。その一面だけを切り取るのではなく、問題解決のための必要ツールとして導入についての理解を得た上で、(セキュリティ面を含め)きちんと運用していくことが大切だと思っています」(小島)
防災対策万全な未来型都市「愛知県みよし市」
PLT設立後の最初の大型プロジェクトとして進行中なのが、愛知県みよし市にある大型分譲地「TENKUU no MORIZONO MIYOSHI MIRAITO(てんくうのもりぞの みよしみらいと)」だ。2020年6月13日から販売が開始されたこの戸建分譲地は、もともとトヨタホームが2018年に工事に着手したプロジェクトで、PLTが掲げる”人と社会がつながるまちづくり“というビジョンに沿って展開した形だ。
TENKUU no MORIZONO MIYOSHI MIRAITOの顔とも言える「MORIZONO HOUSE(もりぞの はうす)」(写真提供/トヨタホーム)
この分譲地の特徴の一つが、町の中心部にある集会所として機能する、「MORIZONO HOUSE」。スマート防災コミュニティセンターである一方で、先進テクノロジーを用いて、停電時や災害時に一定期間、エネルギーを自給できる自立型の防災センターとして機能するようにつくられるという。さらに、非常用電源として、駆動用バッテリーから電力を取り出すことができるV2H(ヴィークル・トウ・ホーム)スタンド、防災水槽、使用済み車載バッテリーを再利用した、世界初の定置型蓄電システムであるスマートグリーンバッテリー、防災備蓄庫なども設置される。
そのほかに、電動自転車のシェアサイクルや、「次世代型電気自動車(E V)」の導入といったこともすでに予定されている上、先述のMORIZONO HOUSEでは、カルチャースペースや、コミュニティ・ラウンジ・キッチンを設備。コミュニティ内の住民同士の交流を図るパーティーやイベントなどを開催することも想定済みだ。
(写真提供/トヨタホーム)
(写真提供/トヨタホーム)
「例えば複数の企業のサテライトオフィスを街の共有スペースとして利用したり次世代モビリティが自動運転で街の中を自由かつ安全に走行し、高齢者やお子さんの移動手段となっていたり、住宅内のセンサーを設置して音や光を感知するセンシング技術と連携することで、住まいの不具合が生じた際に駆けつけサービスを行うといったことが、近い将来実現できるのではないかと考えています。また、お店に人がモノを買いに行くのではなく、お店を“可動”にすることでモノを欲しいと思っている人のところへお店の方からやってくる、といったこともできるようになるかもしれません。高齢化、ライフスタイルの変化、そしてこのコロナ禍での価値観の変化など、さまざまな暮らしの変化が起きています。でも、最先端の技術を最大限活かすことで、そんな変化に対応した、どんな人にとっても心地よい住まいや街をつくることができると思います」(粂田さん)
PLTには、7社(トヨタ、パナソニック含む)から、それぞれ異なる背景を持った社員が集まってまちづくりに取り組んでいる。小島さんが「この半年は、驚きと勉強の日々だった」というように、ビジネス習慣から持っている技術や知識についても違いがある中で、手を取り合って進めていく道は決して平坦ではないはずだ。だが同時に、社員の士気は高いという。
多様性あるアイデアやソリューションが集まるP L Tが提供する未来型都市が、世界に先駆けて超高齢社会という大きな問題を抱える日本が誇れる社会課題型ソリューションになることを期待したい。
●取材協力
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