パリの暮らしとインテリア[5] 郊外の元農家を“週末の家”に。ヘアアーティストとアクセサリーデザイナー夫妻の休日
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送るパリジャン・パリジェンヌのおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。今回はパリ在住45年のマサトさん(夫)とユキコさん(妻)の住むパリから80km離れたセカンドハウス<ウィークエンドハウス>を訪れました。連載名:パリの暮らしとインテリア
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。
森と川、自然に囲まれたパリから80km離れた村へ
パリ在住のマサトさんはパリにヘアサロンを3店舗、日本では2店舗を持つ有名ヘアアーティスト、ユキコさんはアクセサリーデザイナー、独り立ちした娘のアリスさんはグラフィックデザイナー。パリではアパルトマンを5回引越しをし、今は145平米4部屋ある6区の住宅街に住んでいます。今回はそんな家族が週末ごとに集まる、パリから80km離れたButhiers(ビュテイエール)という村にある<ウィークエンドハウス>(とお二人が呼ぶ)まで足を延ばしました。パリ番外編です。
パリからウィークエンドハウスへ向かう間の村。パリから少し離れただけで、アパルトマンではなく一戸建てばかりの町並みに(写真撮影/Manabu Matsunaga)
パリからの道中にある有名なクーランス城(写真撮影/Manabu Matsunaga)
<ウィークエンドハウス>がある村ビュテイエールは、パリからフォンテーヌブローの森を抜け、ジャン・コクトーが住んでいたことでも有名なミリ=ラ=フォレを過ぎたところにあります。
「周りには森があったり小川や沼があったり愛犬のルーの散歩には絶好のロケーションなんです。この村には友達が住んでいて様子が分かっていたので安心して家を買うことができたのです」とマサトさん。毎日パリへ通勤できる距離でもあり、マサト夫妻のように週末ごとに通ってくる人も多くいます。
別荘購入のきっかけは「娘に良い空気を吸わせたかったから」
普段はパリのアパルトマンから仕事場へ通い、土曜日の夕方から火曜日の夕方まで<ウィークエンドハウス>で過ごすそうです。「ここは2軒目なんです。28年ぐらい前に娘のために購入した1軒目は、ここよりさらにパリから遠く100km離れたシオワという村でした」と購入のきっかけは良い空気を吸わせたいという思いから。
しかし、その家は広大な土地だったので芝刈りも庭師を頼まないとならないほど、そこでもう少しコンパクトで自分たちで全てできるような家を探し始めたのが7年前。そして巡り合ったのが元農家の家の<ウィークエンドハウス>だったそう。
アスファルトを叩いて剥がし少しずつ木を植えたりしているそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)
敷地は2800平米あり母屋は220平米。母屋の奥の裏庭は自分で草刈りできる程度の理想の広さだとか。農家時代に使用していたものをまだ着手できていないという場所もあるそう。通りから入るとアスファルトの広いスペースがあり、お二人ともここが気に入らない部分だとか(トラクターを乗り入れるためにしょうがなかったのだろうと想像)。正面に2階建ての母屋があり、まずそこを大々的に改装。右隣のトラクターなどの重機を駐車していたガレージの上には小部屋があり、裏庭の先の小高い丘にもまだ手つかずのにわとり小屋がある。
6カ月かけた農家の家の改装はマサトさん自らが設計
この元農家の家はお向かいのおばあちゃんが言うには築200年ぐらい。なんと彼女はこの家の2階で生まれたのだそう。「セカンドハウスというより不自由のない家づくりを目指したので、改装費に購入した金額の3割ぐらいをかけました」とマサトさん。
母屋の内部はマサトさん自ら設計をして、まずは壁などを壊して一部の木床を残し、仕切り直し、パリから業者を呼び寄せ住み込みで半年以上もかけて工事をするという徹底ぶり。
仕切りを外して一室にした大きなサロン。窓の外は芝生の広がる裏庭(写真撮影/Manabu Matsunaga)
サロンの一角にある暖炉の周りはくつろぎのスペース。左の壁にはアフリカのマリ人アーティストのAMADOU SANOGO(アマドゥ・サノゴ)の2016年の作品が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)
50年代を意識したインテリアはル・コルビュジエやイームズ(写真撮影/Manabu Matsunaga)
アメリカンなコーナーには蚤の市で見つけた農業用のフォーク、アメリカから持ち帰った角が飾られてる(写真撮影/Manabu Matsunaga)
マサトさんが設計するにあたってまず着手したのは1階の<大きなサロン>だったそう。「そこにいろいろなスタイルの空間をつくりたいと考えていたんです」とマサトさん。改装後、大きなサロンは三つに分けられ、グレーの暖炉スペース、赤が基調のミッドセンチュリーモダンの家具のスペース、そしてアメリカンなスペース。どこで過ごしても居心地が良さそうだ。
「元農家の家は窓も小さく暗い印象だったので、明かりとりの小窓をつくったらどうか?と考えたんです」とマサトさん。その効果があって、大きなサロンのどこでくつろいでも穏やかな光に包まれる。
コーナーごとにテーマを持たせて家を飾る
お二人の趣味は全く同じではなくユキコさんはシックなバロック風が好き、マサトさんはナチュラルなアフリカものが好きなのだそう。マサトさんは撮影旅行であらゆるところに行き、そのたびにその土地ならではのものが欲しくなってしまうのだとか。この部分はユキコさんとも共通している。
旅した土地で必ず蚤の市やアンティークショップに寄り、古いものからインスピレーションを受けることも多いと二人は話す。今つくられたものより古いものに惹かれるというのも同じ。
しかし「長年一緒に住んでいても趣味が違うのは仕方がないと思うんです。そこで部屋のコーナーごとにテーマ性をもたせて飾ることを思いついたんです」とユキコさん。家全体で見てみると、お二人の趣味が調和され、より魅力的な空間になっていることが分かる。
藤で編んだサボテンのオブジェはスペインを旅した時に、藁で編んだ馬は南仏のカマルグで、旅で出会って家に飾るというのがお二人のスタイル(写真撮影/Manabu Matsunaga)
イームズの棚には旅各地の蚤の市で見つけたものが飾られている。肖像画はalexis kaloeffのサイン入り。ジャン・コクトーのお皿は近くの蚤の市で購入。かなり古いものらしい(写真撮影/Manabu Matsunaga)
1階は大きなサロンのほかにキッチンとダイニングがあり、サロンとの仕切りの壁にも小窓をつくり、クリスタルの食器や陶器の果物が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)
<食>にちなんでダイニングの食器戸棚の上には、テリーヌポットとテーブル静物画が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)
チェストの上はユキコさんの好きなバロック風。ガラスドームの中のアンティークのオブジェは昔の流行の結婚式の引き出物のスタイル、ミリ=ラ=フォレの蚤の市で購入(写真撮影/Manabu Matsunaga)
好きなものだけを家に置く、という徹底したスタイルでこれらのコーナーは何年もかけて築き上げられたもの。「このウィークエンドハウスは飾ることを楽しめる家」とマサトさん。まだまだ進化していく途中と楽しそうに話してくれました。インテリアのへのそんな情熱はどこから湧き上がってくるのでしょうか?
インテリアのヒントは、旅の度に訪れる公開されている著名人の家から
「私たちはインテリア好きで、旅行先でも人の家(一般公開されている著名人の家)を見ることが共通な趣味なんです」とユキコさん。家を見て回るのはその人となりのスタイルが垣間見れ、この空間で彼らが暮らしていたのかーと想いを馳せることがとても興味深いのだとか。
「例えばアメリカ縦断の旅(3週間)でエルヴィス・プレスリーの家を見に行きました。大きくはない家でしたが家を挟んだ通りの向こうには専用飛行場があって驚きました」とお二人。
「建築家フランク・ロイド・ライトの家も感銘受けました。何もないところにひっそりと立つ姿には感動です」とマサトさん。
「この近くの村ミリ=ラ=フォレにはジャン・コクトーの家も公開されているのですよ。家だけではなく彼の庭づくりも参考になりおすすめです」とユキコさん。
このように、お二人が熱く語る著名人の家の数々からヒントを得て、”人となりの現れる<家>”という捉え方を常に意識しながら家づくりに励んでいるのだそう。どこかで見たヒントから自分らしい家づくりが生まれてくるとも。
階段下の廊下の壁には額がたくさん飾られています。額装された鏡と旅で見つけた田舎の風景画をミックスするのがマサトさん風(写真撮影/Manabu Matsunaga)
コロナ外出規制時の一番大掛かりなDIYは寝室の壁の塗り替え
1階には大きなサロンとキッチンとダイニング、2階にはご夫婦の寝室とは別に3部屋の客室があります。2階の一番奥にあるお二人の寝室も新たに設計し改装したそうです。
「寝るための寝室というよりは、ここでもくつろげるスペースをつくりたかったので、かなり広く設計しました」とマサトさん。ベッドのほかに椅子とテーブルを窓辺に設置。庭を見下ろす形に窓が配置され、ここでも明かり取りの小窓が空間を個性的に照らしています。
コロナによる外出規制の時に、壁の一面だけをブルーに塗り直したお二人の寝室(写真撮影/Manabu Matsunaga)
塗り直した壁には額装した京都の着物の生地の原画が飾られています(写真撮影/Manabu Matsunaga)
映画運動・ヌーヴェヴァーバーグの象徴とも言える赤のソファー。天窓があり、とても明るい室内(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「客室3室は壁紙が素敵だったので、一部を残してほかは白のペンキで仕上げました」とゆきこさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「ウィークエンドハウスに欠かせないのは客室」とお二人。友達が遠くから来てくれて日帰りというのは実に味気ないとか。パリとは違ってゆっくりとした時間、良い空気、自然を身近に感じられる魅力を友達にも味わってほしいからだそう。
コロナの外出規制の時にパリではなく<ウィークエンドハウス>で2カ月以上生活をしていたお二人。この時ばかりと壁のペンキ塗りをしたり、家の細々したことに手間をかけることができた貴重な時間だったと振り返ります。
庭があることで外出制限の息苦しさを感じることなく過ごせたそう。確かにパリのマンションで家族全員が顔を合わせ、必要な買い物も1時間以内、歩き回れるのも直径100m以内という一番厳しい規制があった時には、この家はパラダイスだったはずです。
次回はそんな庭での過ごし方、マサトさんの陶芸アトリエ、夏の部屋などをご紹介していきます。
(文/松永麻衣子)
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