『2分の1の魔法』制作のキーパーソンに聞く、ピクサー流のストーリー作り / ピクサー訪問記(4)
ディズニー&ピクサー最新作『2分の1の魔法』(8月21日公開)は、かつて生活の一部となっていた“魔法”が消えかけた世界が舞台。
エルフの少年イアンは、自分に自信が持てず、何をやっても上手くいかないことばかり。そんな彼の叶わぬ願いは、生まれる前に亡くなった父に会うこと。16歳の誕生日プレゼントに、父が母に託した魔法の杖を贈られたイアンだったが、魔法に失敗して “半分”だけの姿で父を復活させてしまう。魔法オタクで陽気な兄バーリーの助けを借りて、イアンは父を完全に蘇らせる魔法を探す旅に出るが、彼らに残された時間は、あと24時間しかなかった……。
ピクサー映画史上もっとも意外なラストに感動するとの呼び声も高いこの物語は、果たしてどのように作り上げられたのか。『モンスターズ・ユニバーシティ』に続いてダン・スキャンロン監督を支えたストーリー・スーパーバイザーのケルシー・マン氏に、ストーリー作りの過程を聞いた。
(※取材は新型コロナウイルス感染拡大前の今年1月に実施しました)
ビジュアルでストーリー作りを手助けする
「僕は今作で6人から10人のストーリー・アーティストを抱えていた。彼らがストーリー・ボードを作る手伝いをするのが、ストーリー・スーパーバイザーだ。そして、僕らの仕事は、監督、プロデューサー、ライターが、すばらしいストーリーを語るためにビジュアルを通じて手助けをすること。言ってみれば、映画を最初から最後まで全部、絵を描いて語ってみることなんだ」。
彼は“Day 1”と呼ばれる制作スタートの初日から参加していた数少ないメンバーのひとり。ちなみに、『2分の1の魔法』の制作が開始したのは2013年9月17日(米公開日は2020年3月6日)。1本のアニメーション映画が完成するまでに費やされる時間の長さに改めて驚かされる。
「どうしてそんなに時間がかかるのか? それは、ストーリーを、“良い”だけではなくて、“最高に良い”レベルに持って行きたいから。ピクサーは、とても高い基準をかかげている。このスタジオは、過去に多くの非常に優れた作品を作ってきたから、すごくプレッシャーを感じるよ。それだけの作品にするには、時間がかかるんだ」。
9万7759枚のストーリー・ボードを制作
今作のストーリーはダン監督の個人的な体験をベースにして作られている。監督の父親は、彼が1歳、彼の兄が3歳のときに自動車事故で亡くなったという。父親と1日だけでも一緒に過ごせたらいいのに……そんな願いを実現する方法があるとしたら、それは“魔法”以外にはない、というのがコンセプトだ。
「ストーリー・スーパーバイザーの仕事は、ダン(監督)の体験から最高の話を引き出すこと。そのために、僕は彼の経験に自分自身を重ね合わせた。ストーリー・アーティストの仲間たちにも、同じことをやってもらったよ。僕たちは、ストーリー・ルームでひたすら話をする。そしてそれを書いてホワイトボードに貼っていくんだ。誰かに『このシークエンスをどうするか意見を言って』と言い、発言してもらって、それを紙に書いて貼る。それをほかの人にもやってもらい、紙を貼ったり、動かしたりする。そんなふうに進めていくんだ。カードを見た後、ダンや他のライターが自分の席で脚本のページを書き進められるように」。
出来上がった脚本はシークエンスごとに少人数のグループで意見交換し、さらにリライト。今度はストーリー・アーティストがそのシークエンスをストーリー・ボードに書き起こし、プレゼン、スクラッチ(仮の声収録)、仮の音楽やサウンドエフェクトをあててシークエンスを編集するエディトリアル、スクリーニング(試写)といった工程を経て、さらに意見を募ってストーリーを練り直す作業を繰り返す。『2分の1の魔法』の制作においては、実に9万7759枚のストーリー・ボードが制作されたという。
「ダンは彼だけの特別な経験をした。でも僕たちもみんな、誰かを失うという経験をしている。ダンほどのレベルではなかったとしてもね。僕の父はこの映画の制作中に亡くなった。だから愛する人を失うということに共感できない人はいないと思う。1日だけでもその人にまた会えたらという気持ちにもね」。
『2分の1の魔法』2020年8月21日(金)全国ロードショー
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