結末のない映画:『少年は残酷な弓を射る』『マッドバウンド 哀しき友情』/”We need to talk about Kevin””Mudbound”

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近年、結末をはっきりとは描くことなく、オーディエンスがその物語を胸に抱き続けることで完成する映像作品が多く輩出されている。それは共通となるゴールが描かれる時代ではなく、多様な価値観を持つ社会となっていることを象徴するひとつの事象であり、また同時に、結末を与えられないことで各人が導き出した答えやアイデアが、現実社会でそれぞれがアクションを起こす時に呼び水となる機能を果たしているとも言える。結末のない映画が我々にもたらしてきたものはなにか。現実に拡張する、結末のない映画についての特集。第1弾は編集部による2編のレビューをお届けする。(→ in English



『マッドバウンド 哀しき友情』


2018年にアカデミー賞にノミネートされた『マッドバウンド 哀しき友情』は、1940年代にミシシッピ・デルタで生きるとはどういうことだったかを描いている。第二次世界大戦後にテクノロジー、地勢、社会に多くの変化があった後も、人種差別は依然として蔓延していた。本作には2つの家族が登場する。黒人のジャクソン家、もう一方は白人のマッカラン家だ。


映画を通じて、私たちはさまざまなレベルの不公平を目撃し、各キャラクターが行動することで引き起こされた結果について語りあうことになる。各国の権力の構図、貧しい人々の上で成り立っている特権階級、誰もが必死に生き残ろうと死に物狂いだったことーーー映画は事実ではないけれど、それらの時代に何が起こったかを写し取ったものとする視点は重要だ。


主人公の白人家族の周辺で一連の事件は起こるが、その多くは昔から変わらない差別意識によってもたらされたもの。
本作が他と異なる点は、白人と黒人の社会双方について語っている点。監督であるディー・リースは、人種差別について作品内で多くを議論することはせず、両家に光を当てることにより、特権的な立場にある人々がそうでない人々を助けるために力を尽くすことの重要性を示すことに成功している。ヴィジュアル面も素晴らしく、フィルムの色調は非常に素朴だが、黒人家族を襲う悲劇的なシーンはカラフルであるように挑発的な側面も備えている。

作品内の重要なキャラクターとして、黒人家族の長男として戦争に出て帰還したロンゼルの父親であるハップについても言及したい。ハップが足を骨折した際に家族は生活に困窮するが、彼の家を訪れる者たちに対するその恐怖と疑惑の目は、彼の人生がいかに困難に満ちたものであるかを雄弁に物語っている。それは彼が子どもたちのことを心から誇りに思い、妻と子どもたちがより良い生活を送れることをいかに切実に願っているかをより強く印象付ける助けにもなっている。対するマッカラン家の非人道的な父親。
本作で描かれる有色人種の人々への差別は、現在と同じものではないかもしれない。しかし、人種差別は形を変えながらも依然として存在し、自由を奪い、個の人生を奪っている。
過去のルールに縛られることなく、自らが意思を持ち、物事を決め、価値観を再形成していくことは本作の大きなテーマだ。
ディー・リース監督の『アリーケの詩(うた)/パライア』もまた優れた作品なので、機会があればぜひ鑑賞してほしい。



『マッドバウンド 哀しき友情』
2017年制作 / 135分 / アメリカ
出演:キャリー・マリガン、ジェイソン・クラーク、メアリー・J・ブライジ
Netflixにて配信中
https://www.netflix.com/jp/title/80175694


text Maya Lee

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