マスク着用で介護や保育現場、裁判員裁判でも戸惑い。表情の伝わりにくさをどう補う?
「WITHコロナ時代」の象徴として、日常のほぼ全てのシーンで、マスクの着用が社会ルールとなっています。口元が隠れることで、「声が聞き取りにくい」「感情が読み取りにくい」「不気味に感じる」などのマイナスイメージを持つ人も多いようです。再開されたばかりの裁判員裁判では、裁判員から「被告の表情が見えづらいところがあった」との指摘がされました。さらに介護や保育の現場でも、もともと言葉だけでは意思疎通しにくい高齢者や子どもとのコミュニケーションが一層困難になったと、戸惑いの声も出ています。
まだしばらくは、マスク着用の居心地悪さとも付き合っていかなければならないようですが、第一印象が重視される接客業や仕事上の営業活動でも、なるべく相手に不安や不快感を与えることなく意思を伝えるためには、どのような工夫が必要でしょうか。マナー講師の菅原久美子さんに聞きました。
毎朝の表情トレーニングとイマジネーションによる表現力アップを。「目からは星」「口からは虹」を発するようなイメージで表現力に磨きをかける
Q: 例年春には花粉症のため、冬場はインフルエンザなどの予防のために、マスクを着用する人が多く見られました。欧米でのマスク着用率と比べて、日本人は着用に抵抗がないように見えますが、文化や認識の違いだけでしょうか?
——–
人の印象を判断するプロセスとして、まず目、口、顔と見ますが、特に日本人は、まなざしから多くの情報を読み取る習慣があるようです。日本語には「目は口ほどにものを言う」など、コミュニケーションに関わることで目にまつわることわざが多いのも、そんな国民性が関係しているようにも思われます。
一方、欧米人は同じ顔のパーツでも、口元に関心が深いような印象があります。歯科矯正やオーラルケアが欧米で一般的であることを見ても、歯や歯並びの美しさを追求するエネルギーは、日本人に比べてかなり大きいと言えるかもしれません。日本人は目元に、欧米人は口元に、より多くの情報を求めているとも言えそうです。
また口元に自信がないという日本人も多いようで、そこをマスクで隠すことで、漠然とした安心感が得られるということもあるのかもしれません。
Q:初対面の人がマスクやサングラスで顔の一部を隠していると、なんとなく落ち着かない気持ちになるのはなぜでしょうか?
——–
前述のように、人が相手の印象を判断するときに、目、口、顔から多くの情報を読み取るというプロセスがあります。特に初対面で、その人に対する情報を持たない場合は、マスクやサングラスによってその情報を遮断されてしまうと落ち着かない気持ちになるというのは、自己防衛の生理現象の一つで、ごく自然な反応と言えるでしょう。
講演会で、数十人の人を前にお話しする機会がありますが、コロナ禍の社会でなければ、全ての人がマスク姿というのは本来、異様な光景として映るはずです。多くの人が集まる場所で、逆にマスクをしていないことの方に違和感を覚えてしまうのは、マスク姿がスタンダードとなってインプットされてしまっているせいかもしれません。
目の表情、うなずき方、声など、ほかに補う情報があれば、人は、隠された部分以外からも、印象を読み取る柔軟性を持ち合わせています。
Q:ビジネスや改まった場面では、伝える話の内容以外に、相手の気持ちをリラックスさせるような雰囲気作りが必要です。露出している部分だけで感情を表現する際のポイントは、具体的にどのようなものですか?
——–
口元が隠れている以上、それ以外の部分で豊かな表現力を発することが大切です。テクニックとしてすぐに実践できることと、イマジネーションから表現力そのものをアップする方法があります。
【見た目を印象付ける方法】
・アイコンタクト … 相づちを打つタイミングで、まばたきなどをする。
・眉を意識的に動かして感情を表現 … 眉をひそめる、眉尻を下げるなど。常に眉を上げていると、前向きでイキイキとしたイメージ。眉を意識すると、自然に目に表情が現れる。
・口角を上げる … マスクに隠れていても、口元の筋肉の動きは表情に表れる。
・上半身を使ったボディーランゲージ … 手や頭を振る、頰に手を添える、手のひらを相手に向ける。ZOOMなどの際にタイムラグによって意思が伝わりにくい時にも有効。
・女性のメーク … マスクからはみ出すぐらいにチークを大きめにして、顔に色味を加える。省きがちな口元も、保湿のためのリップクリームを色付きに。マスクを外した瞬間は、普段より注目が集まるもの。
【イマジネーションから表現力をアップする方法】
・目の表情で存在感をアピール … 「目から星を出す」つもりでまなざしに力を。
・言葉を正確に届ける … 「口から虹の放物線を描く」ように相手に言葉を届けると、ワントーン高い声が出やすくなる。
・聞き上手になろうとする … 相手の言葉に大きくうなずく、合いの手を入れる、相手の言葉を復唱するなど。積極的に聞こうとする姿勢はリラックスした雰囲気を作る効果がある。
表現力は、遠くからでも正確な情報を伝える仕事である舞台パフォーマーやキャビンアテンダントの様子に、参考にするべきポイントが多いと思います。「目から星を出す」イメージは、ミュージカルなどの舞台指導者によるアドバイスですが、心にそのようなヒントを与えるだけで、自然にまなざしに力強い表情が宿るものです。
とは言っても、中には目力を発揮して相手を直視することに抵抗があるという人も多いでしょう。その場合は、相手の顔の周りやマスク周辺の雰囲気に視線を向けましょう。それでも相手からは視線が合っているように見えています。
Q:もともとコミュニケーションのとり方に特別な技術が必要とされる保育や介護の現場では、そのツールのひとつでもある表情が隠されてしまいます。どのような手だてがあるでしょうか?
——–
過剰なスキンシップがはばかられる現状では、介護や保育だけでなく、子育ての場面でも、マスク越しのコミュニケーションにも工夫が必要でしょう。私が実際に母を介護した経験からも、会話だけで伝わりにくい相手には、目を合わせてそっと背中を押す、肩に触れる、耳元で話すなど、人間の感性に働きかけるような行為がコミュニケーションの助けになります。
優しく前向きな言葉を使って声を掛け、正面から長く見つめるなどと同時に、愛情を込めて「〇〇さん」「〇〇ちゃん」と名前を呼びかけることを心掛けましょう。
Q:表現力を上げるために日頃からできるトレーニングなどはありますか?
——–
自然な笑顔と滑舌をよくするために、顔全体の筋肉を使うトレーニング方法があります。
①両手の親指を口角に、人さし指をこめかみにそれぞれ当てる。
②親指から斜めのラインに添って、2㎝ぐらい引き上げる。
③頰の筋肉も手のひらで引き上げ固定。
④そのままの状態で「い」と発音する。
⑤頰が落ちないようにして、「え」「あ」「お」「う」と発音する。
毎朝鏡を見ながらトレーニングすると、顔の微妙なむくみや、その日の体調もわかります。「楽しい」「美しい」「きれい」「かっこいい」など、「い」で終わる前向きな言葉を選んで、鏡の自分に向かって発声すれば、テンションも上がりますし、朝の習慣としておすすめです。
声量と滑舌のための簡単なボイストレーニングも有効です。
①目線をまっすぐにする。
②息を深く吸い、腹式呼吸を意識しながら「す」と発音。
③そのまま8カウント長く息を吐く。
ワンポイントとして、長い言葉の2音目、たとえば「ありがとうございます」の「り」をやや高い音で発音すると、メリハリがついて滑舌良く聞こえます。
時々スマホの自撮りやボイスレコーダー機能で、自分の表情や声のトーンをチェックしましょう。
毎日のトレーニングやイマジネーションのコツを押さえて、自分の表現力に自信がつけば、マスクを外しても、明るくハツラツとした表情が自然に現れているはずです。
最新の気になる時事問題を独自の視点で徹底解説するWEBメディア「JIJICO」。各分野の専門家が、時事問題について解説したり、暮らしに役立つお役立ち情報を発信していきます。
ウェブサイト: https://mbp-japan.com/jijico/
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。