『千日の瑠璃』317日目——私はがらくただ。(丸山健二小説連載)

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私はがらくただ。

うたかた湖と共に生きる貸しボート屋のおやじ、彼によって拾い集められたがらくただ。鉤付きのロープを使って湖面から引き揚げられた私は、もちろん生計の足しにはならず、再利用の道もない。そのへんのごみを上回る価値など絶対にない代物だ。それでも彼は私を処分しようとせず、ボート小屋の裏にきちんと並べ、数と種類を増やし、まるで盆栽でも賞翫するようにして毎日眺めている。

おやじは白鳥の季節は私を忘れて過し、水の季節になると私に囲まれて過す。茶飲み友だちに「一体どこがいいんだ、こんな物」と言われるたびに、彼は色をなす。そして、名所旧跡を巡歴する旅に誘われても進まぬ顔をし、私が心配だからと言って断わってしまう。しかし本当は、彼自身にも私のどこがいいのか少しもわかっていないのだ。また、かくいう私にもまったく説明がつけられない。あれこれ思い合せてはみたものの、未だに見当さえつけられない。頭がおかしいのだろうか。

ボートを二時間以上借りた者にはかき氷のサービスをするという商売で売り上げを倍増させたきょう、おやじは少年世一にこう言った。「好きなのをくれてやるからどれでも持ってけ」と言って、私を指差した。ついで、決して皮肉ではなしに、こう言った。「おまえなら役に立たない物の値打ちがよくわかるだろう」と。だが泥酔者のように蹣跚と歩く少年は、にべもない返事をして立ち去った。
(8・13・日)

丸山健二×ガジェット通信

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