『千日の瑠璃』294日目——私は汗だ。(丸山健二小説連載)

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私は汗だ。

うたかた湖畔の林間学校へやってきた若者たちがほとばしらせる、脂肪分と肯定の気分に富む汗だ。かれらは、夜のファイヤーストームに備えて、白樺の残骸をキャンプ場の広場にうず高く積み上げている。率先して働いていた教師たちはとうにへばっており、今は疲れを知らぬ教え子のために冷たい湧水を紙コップに注いで回っている。その水をがぶ飲みし、熱い山盛りのカレーライスを何杯もお代りした生徒たちは、午後も休まずに働く。健康の点で引け目がある者などいない。

私は、まだいくらでも育つかれらの五体から否定と厭世の気分を洗い流し、この世の運命とやらを斥ける。自ら率先垂範する私は、生きてゆく道が産道のようにたったひとつではなく、それこそ人の数だけあることを、かれらに悟らせる。また、努力次第では何人とでも対の力量を持てることを自覚させ、神速果敢な行動にこそ未来があることを理解させ、その気になりさえすれば元首の暗殺も不可能ではないことを教えてやるのだ。

日が傾き、夜が訪れて熱い光が失せても、私の勢いは一向に衰えない。若者たちは湖を染めるほど巨大な炎のまわりで歌い、大いに気炎を揚げ、他意のない、いざというときには迭巡しない骨張った意見を闇夜に叩きつける。大地を揺るがすかれらの嚇声は、丘の頂きまで届いて、長い疾患でいじけた少年の体にも私を甦らせる。いや、彼のは寝汗だろう。
(7・21・金)

丸山健二×ガジェット通信

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