公共空間で関心高まるクリーンさ 「人手不足」「隠れダスト」に有効なのは清掃ロボット

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アレルギーを引き起こす花粉やPM2.5、黄砂の飛散、そして人間の生命をも脅かす新型コロナウイルスの蔓延──。大気中に浮遊する無数の“見えない敵”の存在によって、否が応にも高まっているのが“清掃熱”だ。

自宅では空気清浄機やサイクロン掃除機がフル稼働。不在時には家庭用ロボット掃除機が部屋の隅々までキレイにしていく光景もいまや珍しくないが、屋外となるとそこまで手が回らないのが現実だ。「慢性的な人手不足や人件費アップで、そもそも清掃作業員が確保できない」と話す施設管理者は多い。

人件費、高齢化……公共の場が抱える“清掃スタッフ問題”

3月14日に開業(本格開業は2024年予定)したJR山手線の新駅“高輪ゲートウェイ”は、最新のモビリティやテクノロジー技術を駆使したロボットたちが縦横無尽に活躍することで、さまざまな分野における人手不足解消が期待されている。乗客案内やサポート、無人決済店舗、警備用ロボット……。まるでSF映画のような世界が広がりつつある。

そんな高輪ゲートウェイ駅で自動運転する清掃用ロボットとして導入されているのが、日本信号が開発した「CLINABO(クリナボ)」だ。駅の自動券売機や自動改札機、ホームドアなどの開発で実績のあった同社が清掃ロボに参入したきっかけは、やはり大手取引先である鉄道会社や傘下のメンテナンス会社が直面する深刻な「掃除の悩み」だったという。

日本信号スマートシティ事業部ロボティクス営業部の山本大樹氏がいう。

「都市部のターミナル駅の多くは、駅ナカに飲食店などが入った大通路のコンコースがあり、床掃除が大変だという話は常々聞いていました。実際、油を多く使う店の周囲は頻繁に掃除しないと床が真っ黒になってしまうほどクリーン度が保てない状態でしたしね。

清掃スタッフの募集をしても、3K仕事のイメージがあって人が集まらない。賃金アップや高齢化も進み、どうしても汚いところだけを重点的にやる“スポット清掃”が一般的になっていました。そこで、清掃作業員と協業しながら効率化も図れる自動床清掃ロボットを自社開発することにしました」

▲公共空間でニーズが高まる清掃ロボット

2016年から始まったクリナボの開発は、もともと同社で培ってきた制御・センサー技術が最大限に活かせたものの、困難を極めたのが掃除しながらスムーズに走行させる“足回り”の整備だったという。

「洗浄水を出しながら回転ブラシで下に押し付けて走行するので、本体の重さや掃除する力のバランスが崩れるとブラシが浮いてしまったり、滑って真っすぐに走行できなかったりするので、その調整には苦労しました」(山本氏)

そうして完成したクリナボは、山本氏が「1台あれば清掃スタッフを半分減らせる」と自信を見せるだけあり、高い清掃能力と効率化を追求した自動ロボットとなった。

最大で1時間に約1600平方メートルを清掃可能な「クリナボ」

▲「CLINABO」の操作パネル

その実力を同事業部の松枝千尋氏の説明をもとに列挙しよう。清掃速度は時速2.5kmと他社の自動走行ロボと比べて遅めだが、1回の充電時間約6時間でおよそ3時間稼働させることができるため、最大で1時間に約1600平方メートルの広範囲を掃除できる。

そして、クリナボの最大の特徴が“小回り”の良さだ。本体の幅が700mmとスリムな設計になっていることや、回転半径が1.0mと小さいため、狭い通路や廊下にもどんどん入っていける。

「例えば広い駅の中でも、関係者用の狭い通路など袋小路になっている場所があるのですが、そんなところにも入っていき、行き止まりで超信地旋回(スピンターン)することができます」(松枝氏)

一般的な走行ロボットは“一筆書き”のようなコースを辿るケースが多いが、クリナボはその場で旋回できるため、さまざまな走行ルートを設定できる。ティーチング機能を用いれば、清掃スタッフが押して移動したルートや地図をなんと100通りも記憶できるというから驚きの賢さだ。

もちろん、自動運転時の安全性能を保つ目的で、幾重もの制御機能がついている。前面上部についた3D距離画像センサでは、前方の障害物や段差を検知して転倒・転落を防ぎ、同下部にも障害物の検知を行う超音波センサや測域センサが装備されている。また、クルマと同じく衝突時に緊急停止するバンパー(センサ)や、不測事態の記録を残すドライブレコーダーまで備わり、遠隔地にいる人に写真を送信できるという。

「駅はホームドアの設置なども進み、かなり“安全性”は高まっているので、これからは清掃ロボの品質をはじめ“安心”のほうに投資をシフトしていただけたらありがたいです」

と話す山本氏。クリナボは現在、高輪ゲートウェイ駅のほか、北千住駅や東武百貨店などで実証運転を繰り返しているが、今後はオフィスや学校、病院、空港などでの需要も高まっていることから、「まずは100台の導入を目指していきたい」(松枝氏)と意気込む。

「隠れダスト」も一掃 コロナ禍で注目を集めるソフトバンクロボティクスの「Whiz」

▲病院内で稼働する「Whiz」

オフィスや公共機関での掃除といえば、ソフトバンクロボティクスも自社開発のAI清掃ロボット「Whiz」に力をいれている。Whizは現在、羽田空港、六本木ヒルズ、アパホテル、大江戸温泉物語など、オフィスはもとより、小売店や商業施設、病院、公共交通機関、ホテル・旅館でも導入が急進しているところだ。

同社のChief Business Officerで、Whizの事業責任者でもある吉田氏は、導入の背景として、やはり清掃人員の高齢化や清掃品質に問題があることを指摘する。身体的負荷の大きい清掃現場では省力化、効率化が喫緊の課題となっているほか、人手不足は清掃品質にも影響を与えている。日本信号の山本氏が言う、人手不足のため“スポット清掃”がやっと、ということに通じる。

同社が専門家の監修のもとに行った実態調査によると、特にオフィス環境では床の“清掃ムラ’’が多く、人の目では見えない“隠れダスト”が多く残ってしまっていることが判明した。住居と比較すると、約10~30倍のカビやアレルゲン物質を含むごみが存在していたという。独自に定義した「隠れダスト」とは、床に存在し、空気中に舞い上がりやすいチリ、花粉、カビ、細菌など、肉眼では見えにくく、人の手では取り残してしまうゴミの総称だ。土足で行き来するのだから、オフィスのほうが汚れが多いことは、想像に難くない結果ではある。

新型コロナウイルス感染症が世界で猛威を振るう中、国に関係なく、施設の清潔さに対して意識が高まっている。そのうえ、感染対策として清掃作業を人の手からロボットへ移行したいという声もあり、実際にこのコロナ禍でWhizにも世界的な関心が高まっており、現在世界で6000台以上のWhizが活躍しているという。

円滑な導入が進んでいる大きな強みのひとつは、シンプルな操作だ。

「とにかく使い始めるハードルが低く、どなたでも簡単に“省力化”’や“清掃品質の向上”’を体感していただけます。具体的には、最初に1回、手押しで 清掃ルートを記憶させるだけ。 2回目以降はスタートボタンを押すだけで、記憶したルートを自動で清掃します。複数のセンサーで障害物、段差、人の動きを検知・回避しながら、清掃させることが可能です」(吉田氏)

吉田氏によれば、“清掃ムラ”についても、Whizでは一定の清掃効果が確認されたという。目に見えないだけで、意外に清掃ムラがあり、また実はもっとも汚れている“床”。コロナ禍で、アルコール消毒や空間除菌がこれまでになく注目されるようになったが、菌が落ちた床の清掃にも注意を払いたいもの。これからは、床清掃はお掃除ロボットに任せ、人は人の手でしかできない付加価値の高い作業に注力する時代がやってくるのだろう。

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