鑑賞は覚悟の上で。 殺人鬼の心理を探る“異常”な傑作『アングスト/不安』37年越しの日本初劇場公開[ホラー通信]

1983年、それまでジャンル映画が存在しなかったオーストリアで突然変異のように誕生した、あまりにも”異常“であまりにも”危険”な傑作映画『ANGST』が、『アングスト/不安』の邦題で7月3日(金)より日本初劇場公開される。

本作は、1980年に同国で実際に起こった、ヴェルナー・クニーセクによる一家惨殺事件を映画化した実録スリラー。刑務所出所後の殺人鬼=狂人の、不安やプレッシャーによる異様な行動とその心理状態を、凶暴かつ冷酷非情なタッチと斬新なカメラワークを用いて表現。狂人自身のモノローグで綴る構造や全編に徹底された陰鬱なトーンなど、作品自体が”異常“であり、他に類を見ない芸術性を発揮した作品だ。ギャスパー・ノエ監督が本作を好きな作品として挙げているほか、『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』ファティ・アキン監督は「人生のホラー映画ベスト4」に選出している。

その凄まじい内容のため、本国オーストリアでは1週間で上映打ち切りとなっており、各国で上映禁止やビデオ発売禁止といった憂き目にあっている。日本でも劇場公開されることはなく、『鮮血と絶叫のメロディー/引き裂かれた夜』というタイトルで1988年にレンタル用VHSが発売されたものの、世の中に出回った数は極少で、観ることの難しい作品となっていた。

監督は、殺人鬼の心理を探るという崇高な野心のもと、全額自費で本作を製作し、本作が唯一の監督作品となったジェラルド・カーグル。本編の不穏なエレクトロサウンドは、元タンジェリン・ドリームでアシュ・ラ・テンペルの作曲家クラウス・シュルツが手掛けている。また、狂人が内に秘めた”不安“をアーティスティックなカメラワークで映し出したのは、アカデミー賞最優秀短編アニメ賞を獲得した『タンゴ』(81)やジョン・レノン、ミック・ジャガーらのMVで知られる世界的な映像作家ズビグニェフ・リプチンスキ

夢に出てきそうな強烈な日本版ビジュアルは、『U・ボート』『アンダーワールド』で知られる俳優アーウィン・レダーが扮する殺人鬼K.が、暗闇で何かを叫ぶ顔をアップでとらえたもの。このビジュアルはジェラルド・カーグル監督も絶賛。「素晴らしい。見事だ」と表現したそうだ。

本作で描かれている内容は、1980年当時の司法制度では裁ききれなかった為に発生した事象で、事実に基づいた倫理的に許容しがたい描写が含まれている。本作の映倫の区分はR15+とやや甘めになっているものの、娯楽を趣旨としたホラー映画ではないので、鑑賞は覚悟の上でどうぞ。

『アングスト/不安』
7月3日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開

  1. HOME
  2. 映画
  3. 鑑賞は覚悟の上で。 殺人鬼の心理を探る“異常”な傑作『アングスト/不安』37年越しの日本初劇場公開[ホラー通信]

レイナス

おもにホラー通信(horror2.jp)で洋画ホラーの記事ばかり書いています。好きな食べ物はラーメンと角煮、好きな怪人はガマボイラーです。

TwitterID: _reinus

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。