グローバル時代 日本人労働者に欠けているもの

 着実に進む経済・労働力のグローバル化。
 もし、外国人と一緒に働くとなった時、彼らと対等に渡り合い、成果を出していくために、どのような準備をしておけばいいのでしょうか。
 おそらく、それは語学だけでは不十分。『「世界水準」の思考法』(日本実業出版社/刊)の著者で、外務省、外資系コンサルと世界を相手に仕事をしてきたキャメル・ヤマモトさんは、世界で通用するための条件として、「ローカルな思考」と「グローバルな思考」の“二刀流”で物事を考える能力と、自分の能力を余すところなく使うための「全体思考」を身につける必要があるとしています。
 では、キャメルさんがいう“二刀流”の思考や「全体思考」とはどのようなものなのでしょうか。
 ご本人にお話を伺ってきました。

―本書『「世界水準」の思考法』についてお話を伺えればと思います。まず、キャメル・ヤマモトさんといえば「仕事術」に関する著書の印象が強いのですが、今回「思考法」をテーマにされた理由がありましたら教えていただければと思います。

キャメル「前の本(『「世界標準」の仕事術 欧米・中東・アジアの企業を見てきた人事のプロが教える』)は、いわゆるハウツーものですが、今回はもっと掘り下げて、仕事術の根底にある“思考法”をテーマとして書きました。
日本人しかいない中で働いていると、当然みんな日本語を話しますし、同じような学校(日本語で日本人の先生から日本人とともに学ぶという意味で同じような学校)を出ているし、特に大きな会社だと長く働く人が多いからメンバーもあまり変わりません。そういう状況だと、そこで使っている思考の枠組みやルールは、自然に共有されているので、みんな枠組み・ルールを自覚しなくていいわけです。
でも、グローバルに働くとなると、色々な国から様々な人が集まるからそういう共有は成立していません。だから、表面的には同じことをやっていたとしても、どうしてそうなっているのか、つまり枠組みに対して自覚的になることがすごく大事になるし、そうせざるを得なくなります。“こういう思考の違いがあるから、こういう仕事になる”ということですね。
この本で書いた“思考法”はその部分にフォーカスしています」

―本書では、「世界水準」の思考法として、グローバルな思考とローカルな思考を自由に使いこなす“二刀流”の思考が提唱されています。この思考法を身につけることでどのようなことが可能になるのでしょうか。

キャメル「その質問に答える前に、グローバルな思考というとすごく大変なように聞こえるかもしれませんが、実は、グローバル思考は論理的で単純である、ということをいっておきます。日本や日本の企業に馴染んだローカルな思考を後から学ぶ方が難しい。
この本に書かれている根本の部分を学べば、この二つの思考、つまりグローバル思考とローカル思考が使いこなせるようになるはずです。
私たちは、日本というローカル性に根ざして、すばらしい製品や芸術や文化を生み出してきました。しかし、最近私たちが気づき始めたのは、そのユニークさは世界が求めるものと合わなくなることもある、ということです。もっと世界を広く見て、世界を理解し、世界水準で頭を働かせないと、私たちがせっかく卓越した強味や文物を生み出しても、それは極東のユニークな島人の自己満足にすぎないということになりかねません。
だから、日本人、特にこれから新しく仕事をする人は、これまでの日本のやり方、考え方を理解しつつ、併せてグローバルなやり方や考え方もわかっておくことが重要です。いいかえると、世界水準の思考法を身につけると、当然、外国人と一緒に働く時役立ちますが、それに限らず、グローバル時代の今、日本のよさや自分を生かす上で有利になります。」

―“二刀流”の思考は、日本人だけの職場で働く人にも役立つものなのでしょうか。

キャメル「外国人に限らず、自分と違う枠組みや前提を持っている人と働く場合にも有効です。同じ日本人で、同じ会社の飯を食ってきた人でも、世代や性別によってまったく違った個性を持っています。
たとえば同じITでも、今の10代20代の人と30代半ば以降の人ではかなり違います。そこを無理に年長者の考えで押し込めてしまうなら、この本で書いている“二刀流の思考”は必要ないのですが、新しい若いパワーを活かそうと思ったら、外国人に対応するようなやり方を取り入れた方がいいのではないかと思います。そうすることで、日本人だけの職場に外国人がはいってきやすくなります。それが二刀流思考をさらに鍛えることにつながります。」

―確かに、同じやり方を全員に押しつけてしまうと、スポイルされる部分は出てきてしまいますね。

キャメル「すでにあるものをちょっと改善する、といったことは“みんなで一緒に”っていうのがいいと思いますが、イノベーションを出さなければいけないとか、世界で通用するものを作らないといけないとなると、一人ひとりが違うバリューを出さないと、いても意味がありません。
仕事で求められるものが大きく変わってきているので、それに合わせて仕事や思考をしていくためは、この本のやり方は、外国人と一緒に働いていなくても必要になってくるのではないかと思います。変な言い方になりますが、日本人と一緒にやるときも、あたかも外国人と一緒にやるふうに働くことで、同じやり方を押し付けてスポイルすることを防げます。」

―また、本書の中で“二刀流の思考”は“グローバル思考とローカル思考”以外にも、“今と昔”“アナログとデジタル”“広い視点と近視眼的な視点”など、複数の意味を持っています。読者としては“二刀流の思考”をどのように理解すればいいのでしょうか。

キャメル「一番大きなところは“グローバル思考とローカル思考”というところなのですが、“二刀流の思考”には、それと併せて“両手利き”というニュアンスもあります。
この本の読者の多くは日本人で、日本でのやり方に知らず知らず固まっている可能性があります。そこで、それと違うやり方、今のやり方を比喩的にいって(利き手の)右手だとすると、右手だけ使うのではなく左手の方も使ってみたらいいのではないか、ということですね。
また、この本には“二刀流の思考”と組み合わせて“全体思考”というキーワードがあるのですが、それとも関係しています。
今はグローバル時代と言われる一方で、日本は日本の特徴、中国は中国の特徴、といったように、それぞれのローカルな強みを使ったものも出てきています。もちろん、それぞれの国の違いはわかっていないといけないんですけど、全部自分で経験するのは不可能です。だからこそ“こういうことをやればどこに行っても大丈夫”、というのをこの本で書きたかった。じゃあどういうことをやればいいのかを考えた時、シンプルだけど、人間にとって共通で基本的なところから考えた方がいいかなと思ったんです。たとえば“歩く”とか“書く”ことは人間の基本だから、そういったことを思考にどう活かすかと考えようと。そうやって、基本に立ち返って“二刀流の思考”を組み立てていくと、日本だけでなくどこでも通用するものが身につくのではないかと考えたわけです。
“歩きながら考える”“書きながら考える”といったことや、今まで使っていなかった部分も使って総力戦で考えるということが全体思考なのですが、そういったこととも引っ掛けているので、“二刀流”には様々な意味が出てくるんです」

―“二刀流”には、普段とは違うやり方でやってみるという意味もあったんですね。

キャメル「そうですね。慣れ親しんだやり方じゃないやり方を、ということです。たとえば、書くこと自体はみんな毎日やっていると思うんですけど、この本で紹介した“アウトライン思考法”みたいに、案件が自分のところに来た段階で即興的に構想やアウトラインを書くっていうのはあまりやっていません。慣れている自分のやり方じゃなくて、普段やらないそういう方法でやってみよう、というのも “二刀流”の一つです」

―本書で取り上げている“二刀流”の思考力を鍛えるためは普段どのようなことを心がければいいのでしょうか。

キャメル「“とってつけたように”練習することです。右利きの私が左利きで何かやろうとすると、当然スムーズにいかなですし、ぎこちなくなりますよね。そういうことを意識的に入れていくといいと思います。
特に、自分ではできるけど、会社でやると何か言われそうなことが狙い目です。たとえば、デスクから離れて動き回り、突然人に話しかけるとか、急に英単語を混ぜて話すと、周囲からの白い眼で見られるかもしれません。特に上下関係や男女関係や国籍関係を無視してちょっと混乱させて刺激を与えるようなとってつけた動きができれば最高です。でも、それを楽しんでみる。それができたらどうなるでしょうか。外国人と一緒に仕事をすることなど簡単になります。そういう練習を日本人環境でやってみるというわけです。
日本で世界水準の思考法のまねごとをやって、白い眼で見られても平気、という訓練ができれば、世界中どこにいっても大丈夫だと思います」

―先ほどおっしゃっていた“アウトライン思考法”ですが、具体的にアイデアを考える前にまず大枠を書いてしまうというのが新鮮でした。

キャメル「書くことってかなりパワーがあるんですよ。深く考えずに思いついたことをサッと書いておくって大事なんですよね。そうすることで、後はその案件のことを考えていなくても、自分の心の中に情報を察知する構えができて、日常生活の中から情報が入ってくるようになりますから。普段は見逃しているだけなのです。グローバル化の時代、世界はつながっていますから、情報化によってそのつながりは増していますから、「目付き」さえできれば、いい情報が自然にはいってきてつかまえることができます。
そういう目付きをつくるには、デザインの練習をするとよいのでそのことも本書で紹介しました。デザインといってもいわゆる絵を書くようなデザインだけでなくて、文章を書くことも、デザインです。物事の全体像を書いたり、あいつにこれをやらせよう、というような計画を一旦書いてみたり。実際に取りかかる前にシュミレーションを書くっていうことを、グローバルリーダーと言われる人はやっています。自分の目付きだけでなくて、リーダーがリードするチームにとっての目付きもつくってしまうわけです。皆の目付きを、個性を生かした形でデザインするのもリーダーです。」

―シュミレーションしたり全体像を考えるためには、広い視野が必要になるかと思いますが、視野を広げるためにはどのようにすればいいのでしょうか。

キャメル「当たり前のことですが、作業モードに入ると視野が狭くなりますよね。その作業に集中しますから。だから、作業に入る前に、どうやったらいいかを考えて、書いてみるっていうことがまず必要です。作業前の方が視野を広く持てるので、難しい仕事やすぐ答えの出ない問題ほど、まだ何もわからない最初の段階で書いてみる。もちろん大したことは書けないんですけど、マインドセット的には意味があるんですよ。何がわかっていないのかがわかるので。
そして、書いたら一旦やめて、他のことをやっていいんですけど、絶対その案件が気になるんですよ。すると、先ほどもお話したように、それまで注意を向けなかったところからも情報が入ってくるんです。それって視野が広がったということじゃないですか。作業するまえに書くっていうのは、視野を広げる方法でもあるんです。目付きが変わってきます。」

―わからない段階で計画を書いてしまうと、実際に作業に移った段階で当初の計画とずれていってしまう可能性が高いように思えますが、そういったことは“アウトライン思考法”においては悪いことではないのですか?

キャメル「今までの日本の会社に多かったのは、ビジョンや計画は作るんだけど、その後に事態が変わってしまい、そのうちに当初の計画は関係なくなって、その場のアドリブでやってしまうというパターン。
日本の人だけで、ずっと一緒にやってきた人同士でやるなら、そのやり方は必ずしも悪くないですし、むしろ臨機応変でいい面もあるんですけど、それをやってしまうとその小さなコミュニティ以外の人はついて行けません。
事態が進んでいくうちに最初の計画からずれてしまったら、手間がかかってもその計画は書き直さないといけません。書き直しながらやっていれば、みんなが参加できるんです。常に型をちゃんと作っておくのは大事ですね。ジャズのようにその場の空気や気分にあわせてアドリブで演奏し始めるのはいいのですが、楽譜(せめてコード進行表)がないと、そこにいる一流プレイヤー(その場になじんだ日本人長期雇用社員)以外、加われなくなってしまいます。」

後編に続く



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