アノニマスは“ハッカー集団”ではなかった?
インターネットと社会運動の関わりでいえば、2010年から2011年にかけてチュニジアで起きた“ジャスミン革命”や、その後、アラブ諸国に広がった“アラブの春”が記憶に新しいだろう。“ジャスミン革命”では、Facebookを通して市民たちが蜂起を呼びかけあい、大きな運動となって独裁政権を倒すきっかけとなった。
ソーシャルネットワークの発達によって、社会運動が目に見えやすくなったことは事実だが、かといってインターネットのおかげで社会運動というものが生まれるようになったわけではない。そもそも、インターネットそのものが社会運動の中で生まれたものといえるのだ。
インターネットの発端を探ると、ヒッピー文化に代表されるカウンターカルチャーが生まれた1960年代のアメリカ西海岸に行き着く。一個人同士をつなぎ、ネットワークを形成していく。そうすることで個の力を増大させていく。
これは、当時、全く新しい考えであったことは想像するに難くない。
こうした文化に大きな影響を受けたのが、アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズである。彼は、ヒッピー文化の発祥の地であるバークレーのカリフォルニア大学バークレー校の寮に出入りした後(そこにはビジネスパートナーのスティーブ・ウォズニアックが通っていた)、オレゴン州のリード大学へと進学しているが、既存の構造を壊し、新しい価値を提供し続けた彼の姿勢はまさしくカウンターカルチャーの精神に基づくものであろう。
■アノニマスは“ハッカー集団”ではない?
既存の文化にカウンターを食らわし、新しい時代を切り拓く。そうした運動は、一般的に見て必ずしも“良い”とされるものばかりではない。その最たる存在がインターネット上で暗躍するハッカーたちだ。
2012年6月に突如、日本政府系や政党のホームページがつながらなくなったり、サイトが改ざんされたりする事件が起きた。その事件の首謀集団は、前日にウェブ上で、政府と日本レコード協会に宣戦布告をしていた。
その集団の名は、「アノニマス(Anonymous)」。
気鋭の若手研究者である塚越健司氏が執筆した『ハクティビズムとは何か ハッカーと社会運動』(ソフトバンク クリエイティブ/刊)は、この「アノニマス」の事例を皮切りに、ハッカー史や“ハクティビズム”について、その概要を説明しながら、ハッカーの精神と社会運動を関連づけながら分析する一冊だ。
“ハクティビズム”とは、ハッカーたちの「hack(ハック)」と、積極行動主義ないし政治的行動主義を意味する「アクティビズム(activism)」を掛け合わせた言葉で、1995年頃から使われ始めている。また、塚越氏はこの定義をさらに再構築し、「自らつくりあげたツールを用いて社会に影響を与えること、つまり社会をハックするという、ハッカーたちの社会運動」(p8)であると述べている。
ここで塚越氏は、ある一つの問題を提示する。
それは「アノニマス」は“ハッカー集団”といえるのかどうか、ということだ。彼らはインターネット上のコミュニティ利用者を中心に構成され、抗議行動やDDos攻撃、クラッキング(不正侵入)などを行う集団である。よくメディアなどでは“ハッカー集団”と報道されているが、塚越氏は、彼らは厳密にはハッカー集団とはいえないと言う。
彼らは既存のツールを用いてDDoS攻撃をすることもあれば、クラッキングして不正取得した情報を公開したり、合法的なデモという抗議活動をしたりすることもある。
様々な要素が複雑に絡み合った匿名の集合体は、これまでのハクティビズムには収まらないのだ。
では、「アノニマス」という存在とその活動が示していることとは何か? 彼らはサイバーテロリストなのか? それとも正義の味方なのか? そして、ハッキングとインターネットから見える、新たな社会運動の形とは? 「ウィキリークス」などの事例も掲載されている『ハクティビズムとは何か ハッカーと社会運動』は、そのことを考えるための大きな示唆を与えてくるだろう。
(新刊JP編集部)
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