「パン君牙を剥く」事件の衝撃 動物との距離感が狂うワケ

「パン君牙を剥く」事件の衝撃 動物との距離感が狂うワケ

『天才!志村動物園』に出演していた人気チンパンジー“パン君”が動物園のスタッフに噛み付いて大けがを負わせた事件は、視聴者に大きな衝撃を与えた。

「あのかわいいパン君が、なぜ?」

チンパンジーは猛獣

しかし、チンパンジーの咬傷事件は過去にも何度か発生している。もっとも有名なのは、咬傷どころか殺人にまで発展してしまった“ブルーノ”の事件だろう。アフリカのシエラレオネで、オスのチンパンジー“ブルーノ”が、米国人の乗った車を襲い、フロントガラスを拳で叩き割って運転手を引きずり出し、顔面をむさぼり食って殺したという怖ろしい事件だ。成長したチンパンジーは時として人の手に負えない凶暴さを発揮する。人の手で育てられたチンパンジーとて例外ではない。

チンパンジーの人工哺育もしているある動物園によると、「他の動物と比べてチンパンジーが特に凶暴だということは決してない。ただし、大人のチンパンジーは大人の人間より“はるかに”力が強いのは間違いないので、もしも暴れてしまうと人間が制御できなくなる可能性が高いという意味では危険。今回のような人を傷付けてしまう事故が起こる時というのは、動物にとって何か気に入らないことがあったからだと思うが、その刺激した“何か”が何なのか、判断するのは飼育歴の長いトレーナーでも難しい。適切な距離を置いていれば事故は避けられる」ということだ。

それでもサーカスや動物園で、ごく稀に飼育動物による傷害事故が起こってしまう背景には、いつ“野生のスイッチ”が入るかもわからない猛獣を「かわいい」と思い込み、ショーや触れ合いを求めてしまう我々観衆側の意識にも問題があるのではないだろうか。

野生動物との距離感が狂うワケ

今回のパン君事件について、ネット上の掲示板では『天才!志村動物園』に対する批判の声も大きい。

「あの番組の作り方自体、動物の見せ方を間違っている」
「服を着せたり吹き出しでセリフを言わせたりする擬人化が酷すぎる」
「歩くときにピョコピョコ変な効果音を付けたりして気持ち悪い」

実際、パン君を飼育する動物園カドリー・ドミニオンは過去に、「服を着せ芸をさせる擬人化は野生動物本来の個性や形態を誤解させ、繁殖活動にも支障が出る」と日本動物園水族館協会から改善勧告を受けている。動物を過度に擬人化する動物番組や動物園の展示方法が、観衆に野生動物との距離感を誤解させる要因になっているというわけだ。

もう1つ大きな理由は、私たちにとってもっとも身近な動物であるペット、とりわけ犬とネコの存在があると思われる。イエネコが本当に人に懐いているのかどうかは議論のあるところだが、イエイヌはサイズ的にもほどよい大きさで、よく人に懐く。レトリバー種などは泥棒にも懐くと言われるほど人懐こく温厚だ。イエイヌに与えられた学名:Canis familiaris(家族の犬)もうなずける。だが、人にとって都合の良いこれらの性質は、1万年以上にも渡る人工的な品種改良の結果獲得したものであり、生態学上、野生動物とは明確に区別されている。野生動物と愛玩動物は遺伝子レベルで違うのだ。

その事実を忘れて野生動物との距離を縮めすぎてしまった時に、今回のような傷害事故が起こってしまうのだろう。いい加減、野生動物を見て「かわいい~」は、卒業したい。

画像:By Aaron Logan, from http://www.lightmatter.net/gallery/albums.php

※この記事はガジェ通ウェブライターの「ろくす」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?

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