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『千日の瑠璃』97日目——私はホオジロだ。(丸山健二小説連載)

 

私はホオジロだ。

凄じい吹雪に襲われ、追われ追われて逃げ場を失った、瀕死のホオジロだ。最初の突風で吹き飛ばされた私は、たちまち群れから逸れてしまい、仲間を捜してうろうろしているうちに、腹ぺこになった。しかし冬の餌場にしている人跡未踏の原野では、実をたくさんつけた草が残らず雪の下敷きになっていた。やむなく私は、普段なら間違っても近づいたりしないまほろ町の方へと飛んで行った。思った通り、そこには食べられそうな物がいくらでもあった。あるにはあっても、どこもかしこも烏や雀の領分で、迂闊には近づけなかった。町の秩序に調子を合せ、人間に従って生きる鳥に追い払われて湖の方へ戻りかけたとき、私はふたたび強風に煽られ、今度ははるか上空へと一気に飛ばされた。

気がつくと私は、片丘のてっぺんの一軒家、その二階の窓の縁に辛うじてしがみついていた。すでに飛ぶ力は使い果たしていた。私は窓ガラスの向う側を見た。その如何にも暖かそうな部屋には、季節外れの鳥、オオルリがいた。そいつは自然界にはない堕落の餌を好きなだけついばみ、氷など張りそうにない適温の水を存分に浴び、夏場のさえずりを真冬にばら撒いていた。

意識が朦朧としてきた。体を覆っている雪を跳ねのけることもできなくなってきた。ぬくぬくした生活を送っている青い鳥に、私はこう言ってやった。それでもおれのほうがまだましだぞ。
(1・5・木)

丸山健二×ガジェット通信

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