『千日の瑠璃』87日目——私は青だ。(丸山健二小説連載)
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私は青だ。
水色でも空色でもなく、悲しみの色でもない、青いから青いとしか言いようのない、青だ。しかし少年世一は私のことを瑠璃色だときめつけ、オオルリの羽の色にそっくりだと信じた。そのセーターを姉が編み始めたとき、世一は注文をつけた。私のほかにもう一色使ってくれるよう頼んだ。そしてオオルリの腹部を占めている白を、雪の白でも雲の白でもなく、死の白でもない、私に添えるための白を見せた。
姉は承知し、近々きっと編むことになる恋人のセーターの練習にもなると考えて、白の極太の毛糸を買い足した。きょう完成したセーターを体をくねらせるだけくねらせて着た世一は、鳥籠を脇に置いて、鏡台の前に立った。おもむろに両腕を水平に保ち、上下に振った。オオルリもいっしょになって翼を打ち振った。それから世一はひと際甲高い、満足げな声を張りあげた。するとオオルリも、己れの存在を誇示するためのさえずりを力強く放った。
世一のなかに突如として昂じた熱い思いが、静電気となってびりびりと私に伝わってきた。もはや私は、まほろ町のどこでも見られる、誰にでも買える青ではなかった。私は世一をはばたかせ、世一を鳴かせた。しかし、姉がこう言って釘を刺した。「言っとくけど、あんたは飛べないからね」と。世一はどうか知らないが、私は一応聞き置いた。
(12・26・月)
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