民法改正、インスペクション説明義務…。環境変化で東京都が中古住宅売買ガイドブックを改定
東京都は、既存住宅(中古住宅)を売買する際に役立つ“ガイドブック”を発行している。このガイドブックが今年3月末、不動産の売買を取り巻く環境の変化を受けて改定された。今回は、ガイドブックの概要、改定の背景となった民法改正などの環境の変化、さらに中古住宅売買の際の注意点などを見ていくことにしよう。【今週の住活トピック】
「安心して既存住宅を売買するためのガイドブック」を改定/東京都
東京都のガイドブックが役立つ理由
東京都の「安心して既存住宅を売買するためのガイドブック」には、中古住宅の売主・買主の双方に役立つ、トラブルなく売買するためのチェックポイントが丁寧に説明されている。
例えば、以下のような項目が詳しく説明されている。
・物件の状態や権利関係などのチェックポイント
・中古住宅の売買で利用できる仕組み
・仲介会社(宅地建物取引業者)との「媒介契約」の留意点
・契約前に行われる「重要事項説明」の留意点
・「売買契約」の留意点
筆者は、ラジオ番組で「住宅に関するオススメの本を紹介する」というコーナーの出演依頼があり、売買契約についてはこの本に詳しい情報があると、オススメ本の1冊に挙げたことがある。実際に都庁の都民情報ルームで販売されているし、ホームページからダウンロードもできる。掲載されている情報は地域に限らない汎用性のあるものなので、住宅という高額商品を売買するからには、時間をかけても読み込んでほしい1冊と紹介した。
民法改正で、売買契約で責任を問える基準が変わった!
そのガイドブックが、このたび改定された。理由は、法改正などによって住宅売買を取り巻く環境が変化したことにある。
まさに今年4月1日、改正民法が施行された。中古住宅の売買に関して最も影響が大きいのは、「瑕疵担保(かしたんぽ)責任」が「契約不適合責任」に変わることだ。
「瑕疵担保責任」とは、「瑕疵=事前に知らされていなかった重大な欠陥など」があった場合、売主に対して責任を問えるというものだった。これが、民法改正によって、客観的に欠陥があるかどうか”ではなく、“契約の趣旨や目的に適合しているかどうか”で、責任を問えるかを判断することになった。
つまり、どういった条件で契約を交わしたかが重要になってくる。そのために、「重要事項説明」や「売買契約書」の記載内容のチェックの重要度がさらに高まった。また、法律に反しない限りは、売主と買主の双方で合意して契約の内容を個別に定めることもできる。契約書に判を押すことは、その内容に合意したことになる。
中古住宅の売買では、住宅の状態に物件個々で違いがあるうえ、売主が個人ということもあって、売買契約の際に「特約」や「特記事項」などを付けることも多い。東京都のガイドブックには、重要事項説明書と契約書のサンプルとそれぞれのチェックポイントが掲載されているので、事前に見ておきたい。
なお、民法改正については、当サイトの「民法改正で住まいの売買/賃貸はどう変わる?」に詳しく説明している(記事は2016年の法案段階でのものだが、その後2017年に改正民法が成立、2020年4月1日に施行されている)。
中古住宅売買の際は、物件チェックリストやインスペクションの活用を!
例えば、売買した住宅で窓ガラスにひび割れがあったとしよう。
売主が、ガラスにひび割れがあることを契約時点で買主に知らせておかないと、契約後に買主からガラスにひび割れがあるので、修理してから引き渡してほしいと求められることもある。内見時に気が付いていたのでは?と思っても、その条件で契約しておかなければ想定外の出費が生じることに。
逆に買主が、引越ししてからひび割れに気づいた場合、どちらの責任でひび割れしたかがあいまいでトラブルになることがある。契約時や物件引き渡し時に、ひび割れの有無を確認しておくことが重要なのだ。
こうしたさまざまなトラブルを避けるためには、売主も買主も、物件の状態をきちんと確認しておく「物件チェックリスト」を使うことが有効だ。
東京都のガイドブックには、4種類のチェックリストが用意されている。
1.土地・建物の権利関係及び履歴並びに住環境に関するチェックリスト
2.敷地に関するチェックリスト
3.建物等に関するチェックリスト
4.設備・工作物に関するチェックリスト
ガラスのひび割れや設備の故障などであれば、自分でも見たり使ったりして確認することができる。一方、住宅の基礎のひび割れや屋根材の割れ、雨漏り、建物の傾きなど、建築のプロでないと判断しづらいものもある。
そこで、国土交通省が推奨しているのが、建物状況調査(インスペクション)を行うことだ。建物状況調査は、住宅の構造上の重要な部分の状態を把握するための調査となっている。依頼した場合には費用負担が生じるが、特に重要な部分の調査が行われるので、安心して売買できるだろう。
宅地建物取引業法(宅建業法)も2018年4月に改正され、中古住宅の売買にあたって仲介会社(宅建事業者)に仲介(媒介)を依頼すると、仲介会社は建物状況調査について説明し、調査事業者のあっせんの有無を確認することが義務付けられている。
あっせんの有無を確認されたからといって、必ずしも調査をしなければならないわけではないし、自分で調査事業者を探すこともできる。東京都のガイドブックには、この建物状況調査事業者のあっせんについてのフローも紹介されている。
さらに、実際にトラブルにあってしまった場合の相談窓口も紹介されており、万一の事態への備えとしても手元に置いておきたい一冊だ。既存住宅の売却時におけるあっせんの流れ(出典/東京都「安心して既存住宅を売買するためのガイドブック」より転載)
なお、宅建業法の改正については、当サイトの「宅建業法で不動産会社に義務付ける『インスペクション』の詳細とは?」で詳しく説明している。
さて、実際にガイドブックを読むと、かなり専門的なチェックポイントも多く、自分にはできないと思ってしまうこともあるだろう。そんなときは、すべて自分でやろうとせずに、仲介会社の担当者を上手に利用するとよい。
例えば、契約前や引き渡し時に物件チェックリストを持参して、一緒にチェックしてもらうのもよいだろう。重要事項説明や契約の際に、時間がかかってもよいので、ガイドブックのチェックポイントと比べながら説明してもらうという手もあるだろう。
大切なのは、仲介会社任せにしないで、自分なりに建物の状態をしっかり確認し、契約内容をきちんと理解したうえで中古住宅を売買することだ。
●「安心して既存住宅を売買するためのガイドブック」改訂版をダウンロードできる東京都住宅政策本部のサイト
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