ウソみたいな本当の話! ヤクザの立てこもり事件に巻き込まれた指名手配犯
今年2020年の1月、島根県出雲市にある冷凍物流会社に刃物を所持した20代の男が女性事務員を人質に立てこもり、18時間後に監禁容疑で現行犯逮捕されました。
さらに13年前、2007年に愛知長久手町(現:長久手市)で起こった発砲立てこもり事件では、愛知県警、SAT所属の警察官1名が殉職、元山口組系暴力団員の男の元妻とその子供、警察官1名が負傷しました。
そんな立てこもり事件ですが、「対岸の火事」だと思っていてはいけません。なんと、今回お話を聞くことができた大里友康氏(仮名/42歳)は、暴力団員の立てこもり事件に巻き込まれた経験があるのです。
実は、名うての結婚詐欺師として全国指名手配を受けていた彼。逃げ回り、自分の女の部屋でのんびりと過ごしていたのですが、同じマンションの階下でヤクザの立てこもり事件が発生。
戒厳令が敷かれて逃げることはできないわ、銃弾が飛んできて危険だわ、捕まりかけるわ、もう散々な目に遭った彼の話を聞いてみましょう。
結婚詐欺を生業にする男
丸野(以下、丸)「なんで全国指名手配になったんですか?」
大里氏「結婚詐欺ですね。関西圏のお見合いパーティーに顔を出しては、外資系の証券マンをかたって女たちを騙していました。モテない女は、小銭を溜め込んでいますから……。母親の商売がうまくいっていない、実は友人の保証人になっていた、なんて適当なことを言って金を引っ張ります。そのあとは、何でもないことでケンカを吹っかけて、ドロンです」
丸「すぐに被害届を出されるんじゃないですか?」
大里氏「出されますね。で、逃げ回って、昔の女を再び口説き落として、某県に安全な場所を確保。広めのコーポの3階に住む役所勤めの女でした。“よりを戻してくれた”と喜ぶのをいいことに、働きもせずにヒモ生活をしていました。(外出時は)いつも目深に帽子をかぶってマスクとサングラスをかけ、そんな状態で暮らしていました。のんびりしたものでしたよ。まだ騙した女の金もあったし」
丸「ヒドいですね」
階下から怒鳴り声がいつも聞こえる
大里氏「まぁ、そうですね。当時は時効があったので、数年過ごせばいいか……という感じで。籠の中の鳥の状態でしたが、何とか時効を迎えるまで……と部屋の掃除や洗濯、料理づくりなどして、我慢していました。昼間も夜もボォ~ッと過ごしていると、イヤでも周りの生活音が聞こえてきます。休日になると、右隣の若夫婦の喘ぎ声が1日中聞こえてきたり、左隣の新興宗教にハマった奥さんの読経が聞こえてきたり……と、まぁ時間の過ごし方は何とでもなります。でも、ひとつ気になることが……。階下から、いつも怒鳴り声のようなものが聞こえてくるんですよね」
丸「どんな怒鳴り声なんですか?」
大里氏「どうもDVをしているらしく、女の悲鳴も聞こえてくるし、“シノギ”や“カシラ”、“オヤジ”なんて言葉が飛び交っているんです」
丸「それ、ヤクザじゃないですか」
大里氏「ですよね。でも階下なので関係ないか……と特に気にしなかったんですが、ある日事件が起こりました」
大音量の音楽と鳴り響く銃声
丸「それでどうなったんです?」
大里氏「ちょっと気になりはじめてから数日後、新聞に目を通していると、【ジャジャジャジャジャーン!!】と耳をつんざくような大音量のヘビメタが聞こえてきました。なんや! どうした! って思っていると、“キャー!”っと女の悲鳴が……。そのあとに、ベランダの扉を勢いよく開ける音がして、“ゲハハハハ! 金色のおっさんが頭の中で暴れとるんじゃ!!”という声が聞こえてきました。その後に続いて、【パン!!】という渇いた音。ウチの照明が弾けて、火花が飛び散りました」
丸「ヤバい! ヤバい!」
大里氏「床に伏せて様子を窺っていたんですが、もう一度渇いた音が……。すると、ちょうど目の前30センチ離れたところのカーペットが爆ぜました。バラバラと天井の破片が降ってきて……。これはマズい! 銃弾だと思い、とりあえず警察に連絡を入れようとしたんですが……。そういえばオレ、指名手配だったな、と!」
丸「自爆ですよね、通報なんてしたら……」
大里氏「すると、わずか数分でパトカーのサイレンが……。あっという間に、コーポ自体を警察に包囲されました」
クスリをやっている男の発砲
大里氏「様子を窺っていたんですが、どうも下の男は薬物でもやっているようで、よくわからないことを言っています。それにパトカーに向かって発砲しはじめたようで、コーポの下は混乱状態でした。もうこうなったら逃げよう、とポケットにナイフを忍ばせて勇んで3階の窓から飛び降りようとしたんですが……僕、高所恐怖症で……。とりあえずカーテンにしがみつき、ブルブルと震えていました」
丸「とんでもないことになってきましたね」
大里氏「案の定、遠くから応援のパトカーが走ってきて、サイレンが重なり合って聞こえてきます。警察はなんとか男を説得しようとしていますが、“……っが、っと……るんじゃ! ごおらぁぁ~! おまえら地獄行きじゃ!”と聞く耳持たずで……。だいぶクスリが効いているような感じでした。すると続いて……」
コーポ上空をヘリが飛ぶ
丸「どうしたんですか?」
大里氏「コーポの上空にヘリがやってきまして、テレビをつけると中継をしていまして……。テレビで中継されて、もう逃げ場なしですよ。本当に参りました……。とりあえずどうしようもないので、女に電話を入れると、“ええぇぇ~! ウソぉぉぉ~!”ともう卒倒しそうな声をあげて……。騒動になってから、6時間が経過。打つ手がないので、テレビの中継に注視しようと思ったんですが、アナウンサーの“何か動きがあったようです”という言葉のすぐ後に、テレビが消えました。電気がつかない、水道も出ない、ガスもダメという兵糧攻め状態に……。すると、さらに階下の男が狂ったように銃を乱射しはじめて……」
丸「大騒動ですね」
大里氏「夏場だったんで、僕シャワー浴びていたんですよ。まず電気が止まったから、クーラーが利かなくて……。水が止まっちゃったので、シャンプーまみれ。おまけにその泡で転倒するし。目にシャンプーが入って痛い。拡声器の声。暑い。腹減った。痛い。拡声器。もう最悪です。この世の終わりを感じながら、夜明けを待っていると、深夜に【ガッシャーン!】という警察突入の音がしました。同時に【プシュ~!】という音が鳴って目の前が真っ白に……。痛い。眼球が飛び出るくらい目が痛い。それって、催涙ガスだったんですよね」
丸「痛そう……」
警官突入で絶体絶命!
大里氏「すると、なんと階下から雨どいをつたって、下のヤクザがよじ登ってきたんです。僕は菜箸で思いっきり相手の手を突いて、ヤクザを落としたんです」
丸「捕まっちゃいますからね」
大里氏「それからは、押し入れの中で朝まで3時間ほどほとぼりを冷まして、朝6時に雨どいをつたい、住宅街から早朝の街に向けて駆けだしました。何とかなった助かった、とホッと胸をなでおろしたとき、“あなた、何を急いでるの?”と警察官から運悪く呼び止められました」
丸「まさに絶体絶命!」
大里氏「そりゃそうです、シャンプーでコテコテになった頭で、適当に着て出てきたバランスの悪い服、ハダシ、催涙ガスを喰らった赤い目と止まらない咳。立てこもり犯との関係を疑われて、強制連行。正午に緊急逮捕されて、結婚詐欺の罪で懲役3年2ヵ月を喰らいました」
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いかがでしたか? このようにひどい目に遭ってしまった大里氏ですが、因果応報、自業自得としか言えません。
いつ巻き込まれるかもしれない立てこもり事件、みなさんもお気をつけください。
(C)写真AC
(執筆者: 丸野裕行)
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