Self Isolation Issue :「 バイオファーマ専門コンサルティングファームでコンサルタントとして働いていたこともあり、科学論文や記事を追うことには慣れています。未知で得体が知れないからこそ余計に怖く感じるというのも事実で、少しでもその理解ができることで必要以上に恐れないということに繋がると思っています」Akiko Kiyama(ミュージシャン、バイオファーマコンサルタント)/How to Survive – Akiko Kiyama


Red Bull Music Academy/ Great The Kabukicho

フィジカルには距離を置かねばならない現状に際し、アイデアや情報のシェアでポジティヴに自宅での時間に向き合うための「Self Isolation」特集。アーティスト/クリエイターによる現状への向き合い方やオンラインで楽しめる情報などを随時アップデートしていく。
2002年から音楽制作を始め、ロンドンの Sud ElectronicからEP『Dimension』をリリース。Ricardo Villalobos、Richie Hawtin、JohnTejadaらを始め、国内外でミニマルテクノの旗手として高い支持を得たAkiko Kiyama。現在はベルリンから日本に拠点を移し、世界各国の代表的クラブやフェスティバルで精力的にライブパフォーマンスを行い、カセットテープ主体のレーベル「Kebko Music」や実験的音楽プロジェクト「Aalko(アールコ)」を始動させている彼女は、同時にバイオファーマコンサルタントという専門家の一面も持っている。音楽制作に向き合いながら、COVID-19の論文や研究を追っているという彼女に、アーティスト、バイオファーマコンサルタント両方の側面から現状認識と対応を聞いた。

ーー新型コロナウィルス感染症(COVID-19)で生活、クリエイティヴ、ビジネス、それぞれの面でどのような影響が出ていますか。

Kiyama「一番に不要な外出は控えています。もともとあまり外出は多くないタイプでしたが、輪をかけて最近は家にいることが増えました。ビジネスにおいては予定していたフランスのギグがキャンセルになりました。現在フランスは外出禁止令が出ていますのでイベント開催などもちろん不可能ですが、協議していた頃はまだ今ほどの感染拡大が見られない時期でした。残念な気持ちはもちろんありますが、この状況でとても大勢が集まるイベントの開催は他者も自分も感染リスクが大きすぎますし、また海外移動中で何かあった際にスムーズに日本に戻れるかという心配もあったため、キャンセルになりほっとした気持ちもあったのも正直なところです。そのほかの仕事に関しては主に制作になりますが、幸い在宅ベースで現在も大きな影響なく進んでいます。前から何かに抑圧されるとその反動で制作意欲が沸くタイプなのですが、今回もそういう意味で影響しているのか作曲の生産性は普段より高いかなと感じています。現在は家で育児の合間に作曲したりという生活がメインになっていますが、それをすることで暗いニュースからいったん距離を置いて自分を落ち着かせることもできているのかなと思います」

ーーこの側面で新たに気づいたこと、心がけたいことがあれば教えてください。

Kiyama「家にテレビを置いていないためテレビニュースや情報番組を見る機会がないかわりに、国内外のネットニュースやバイオ関連で以前からチェックしていた人たちのツイートを中心に情報を見ています。またニュースだけ見ていると気が滅入ってきてしまうので自分なりに少しでも希望の持てる話が欲しいなと(例えば治療薬開発、ワクチン開発など)COVID-19、SARS-CoV-2関連の研究論文を読んだりしています。私自身はミュージシャンでもありますが、ドイツに在住していた頃からバイオファーマ専門コンサルティングファームでコンサルタントとして働いていたこともあり、そのような論文や記事を追っていくこと自体は慣れています。今回のウイルスのように未知で得体が知れないからこそ余計に怖く感じるというのも事実で、少しでもその理解ができることで必要以上に恐れないということに繋がると思っています。

情報の取捨選別には気を付けています。ネットにはあらゆる情報があるので今回のウイルスの件でなくても常に気を付ける必要はありますが、それにしても大手メディアレベルで誤解を招くようなタイトルや内容の記事を時折目にします。先日もウイルスが17日間生存というような見出しの記事を国内外で見かけましたが、CDCが発表したところはウイルス内のRNAが17日後にも残存していたということで、それそのものに感染力があるかも分からない話で全く間違った方向に誘導してしまう恐れがあると思っていました。おそらく政治や経済を語れる記者に対してバイオや医学を専門に書ける記者が少ないのでは、と思います」

ーーロックダウンに向けての精神的、物理的対応があればお聞かせください。

Kiyama「精神的には不思議と今はふっきれてしまってます。少々身勝手な話ですが、この一年弱は妊娠出産育児でもともと家にいる時間が多い時期でした。子育てのためとは言え、世の中が通常に動いている中、家にずっといて仕事も大してしていないとなると罪悪感や社会との孤立感を感じていましたが、今はオフィシャルに用がなければ外に出るなということなので逆にふっきれて家の中でのことに集中できているかなと思います。震災の時でもそうですが、普段日常的にあることがとても有難いことだと再確認できているのか、ただ屋内で過ごすだけの一日も今は前ほどストレスを感じていないですね」

ーーご自身の活動を鑑みて、室内でどのような創作、作業が可能だと思いますか。

Kiyama「もともと一人で制作することが多く、滅多に他者と一緒に外のスタジオを使うこともなかったので制作に関しては普段と同じように家で十分できています。クラブやフェスでお客さんを入れてのライブは状況が収束しない限りは難しいと思っています」

ーーオンラインの活用方法や1人でもできる施策など、良いアイデアがあればシェアをお願いできますでしょうか。

Kiyama「オンライン“ネットワーク”がほぼ各家庭にあるわけなので、こういう事態の時は一人でというより繋がりを持つことが重要なのかなと思います。現在はまだ不要不急の外出制限程度の要請しかでていませんが、封鎖措置が取られれば籠城生活に近くなると思いますし、どのみち個々で過ごす時間も増えるので多少乗り気でなくとも人との繋がりやタスクを持ったほうが健康的なのかなと。

一般的な話で言えば、休校措置にあたりオンライン授業の導入が注目されていますが、そのようなことが学生限定でなく社会人向けにあっても良いのではと思います。敢えてオンラインライブ授業だったりワークショップ形式にすることで不規則になりがちな生活にタイムスケジュールを作ることができるかなと。経済活動が制限され、時間だけを持て余すのであればこの際半ば強制的に何かを勉強する時間に充てて個々の知識や技術や特技を作っておいたほうが収束後にも何かしら役に立ちそうな気がします」

ーー新たにチャレンジしてみたいことはありますか。

Kyama「現状は家での生活が中心とはいえ、育児と在宅仕事を抱えているため実はほとんど余った時間がないのですが、もしあるのならライブ配信などしてみたいですね。ライブパフォーマンスをがっつりするというより、視聴者とお喋りしながらトラックを作っていくみたいな緩いものですね(笑)1日1、2時間、1週間に1曲みたいなペースで。私は詩を書いたり歌を歌ったりはしないのですが、視聴者の方がアイディアを出してくれたらそれを使ってみたりとか」

ーー事態が好転し、COVID-19が収束したらしたら何をしたいですか。

Kiyama「春先に予定していた家族旅行をキャンセルしたこともあり、旅行がしたいですね」

ーー政府の施策は満足できるものだと思いますか。もしNOであればどのようなことを提案したいですか。

Kiyama「元凶はWHOだと思いますが、ウイルスの伝播力や無症状感染者からのウイルスにも感染力があるところを見るとどのみち水際対策というものはかなり早い時期に鎖国でもしない限りどの国も不可能だったのではと思います。それでも政府の施策は基本的には日本国民の民度に頼る部分が大きく施策そのものは満足していません。PCR試験を受けられないことで病院の一般出入り口で人が殺到したりということが国内では起きていない、医療現場が現時点でどうにか回っている、日常的にマスクをしたり衛生意識が高い、それらは施策というより人々の個々の良識や配慮や忍耐によるものがほとんどではと思います。もちろんそれでもあまり意識せずに普通に出歩いている人々や買い占めをする人々もいますが、完全な禁止措置を取らない限りはそういう人々が一定数いるのも仕方のないことだと思います。個人的には春節後の2月中頃には国内で爆発感染が起きていると思っていたので現時点(4月2日)において爆発感染がギリギリ起きていないとされているのがむしろ不思議でならないです。最近になって感染者数が増えていますがPCRテスト数が増えているためとも考えられますし、また厚生労働省のHPを見てみると異様に海外国籍者(もしくは国籍不明者?)の比率が高く感じます。海外渡航者を重点的に調べているのはわかりますがそれでも日本国籍者の割合が少ないことを不思議と思ってみています。そういう点を含めると3月下旬から一部で言われ始めているBCG説(新型コロナ致死率とBCG接種義務国の疫学的相関、特に日本株とロシア株接種国での致死率の低さ)も科学的根拠は強くないもののあながち軽視できるものではなく、治験を始めている国もありますのでもしかしたらもしかするかもという気持ちで注視しています。

私自身はよその国がああしたから日本もこうするべき、こうであるべきという考え方そのものは基本的に好きではないですし、時に危険とすら思っています。ただ今回のウイルス問題は人々の生死、生活行動制限や経済活動すべてにおいて世界規模で同時に起きており、超が付くほどの異常事態・緊急事態という認識があって然るべきなのにどうもそのような緊迫感がなかなか施策からも見えてこないと思っています。オーバーシュートギリギリというのならば今の時点で封鎖をしておかなければと思いますし、マスクの転売禁止措置がとられるのも時間がかかりましたし、また経済政策についてもとにかくすべてが遅いと感じています。やっと出てきた案が和牛券だったり布マスク2枚配布だったりと聞くと今オーバーシュートが起きていないのはたまたま何か別の理由によるもので、政府自体は無能なのではと考えたくなります。政権維持の面でも消費税減税くらいはパッと言えないものかと思いますし、今こそマイナンバー制度を使ってマスク購入や現金給付を行ったらと思うのですが、、。

実際のウイルス対策自体について提案ができるのであれば抗体検査は導入検討すべきかと思います。PCRの精度が低く、偽陰性や偽陽性の問題が付きまとう上に今回のウイルスのように潜伏期間が長い、無症状感染者がいるとなるとPCRで感染の実態を知ることは不可能と思います。また一度治癒した患者の再陽性について、再燃なのか再感染なのかの議論もされていますが、最近出てきている論文を見ると再燃と考える方が自然のようです。症状が消えた後PCRでも陰性が確認された感染者が、別の方式で(hyper sensitive method)RNA検査をしたところまだウイルスRNAがポジティブだったということが報告されていたり、そもそも無症状感染者がいることもあり、症状がなくなってもウイルスが若干量残っている場合があると考えるのは自然なのかもしれません。そういったこともふまえて抗体検査をした方が(できれば全国民に)ウイルスの感染/免疫獲得状況把握や社会復帰の目安にもなり、現在取られている隔離の期間などアプローチが変わってくるのではと考えます。イギリスなど一部の国ではすでにその動きになっていますが、証明の偽造などについても懸念されているようなので仮に導入する場合はそのあたりにも注意しなくてはいけないのかなと思います。ただ抗体検査の精度についてもまだ議論の余地がありそうです。私が知る範囲ですと、多くの関連会社は中国にあり、IgM・IgGをベースとした血液抗体検査キットですが、high sensitivity/ high specificity と言われるものであっても何人の患者から得られた結果なのかクリアでないことがあります。またIgMとIgGの抗体価は時間差で現れますが、IgGがどの程度の時間保持されてるのかなど確かに分からないところはまだあります。

このような状況下がいつまで続くのか、感染流行第一波第二波と何度か今後訪れ徐々に消えていくのか、それよりも先にワクチンや治療薬ができるのか、まだ誰も知る由がありませんが、完全な解決・早期解決にはウイルスそのものの研究、症状や回復の経過を追う臨床的研究、疫学研究、治療薬やワクチン開発のための研究、どれも必須で政府には大規模な予算の投入をお願いしたいです」

Akiko Kiyama
ミュージシャン、バイオファーマコンサルタント
instagram @akiko_kiyama
https://soundcloud.com/kebkomusic

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NeoL/ネオエル

都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。

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