チームメイトと殺しあう日〜安田純平の戦場サバイバル
シリアの反政府軍の男がTシャツの裾をたくし上げ、右脇腹に大きなガーゼが痛々しく貼ってあるのを見せてくれた。政府軍から撃ち込まれた爆弾の破片でこうした怪我を負う人は多い。しかしこの男の場合は全く違う話だった。
「サッカーやっていてコケたんだよ」
こっちがコケそうな話だったが、最前線でない町の場合、政府軍からの砲撃は24時間休みなく続いているわけではないので、内戦中で仕事もない彼らは合間を見てサッカーなどを楽しんでいるようだ。
「日本人選手たくさん知ってるぜ。ホンダだろ、ハセベだろ、エンドウだろ、みんないい選手だよな。今年からマンチェスター・ユナイテッドに入ったカガワも知ってるぜ。今年はマンUを応援するよ」
ここまで言われて嬉しくなった私は「シリア人選手のいい選手って誰?」と聞いたが、いろいろ名前を挙げてもらったのに一人も知らず、大変申し訳ない気持ちになった。無知なのは自分だけかもしれないが、彼らが日本に対して興味を持っているほどに、我々日本人はシリアに関心を持っているだろうか。
「で、お前の好きなチームはどこなの? レアル・マドリードとバルセロナだったらどっちが好きなわけ?」
この部隊の隊長が聞いてきたので「バルセロナ」と答えると、「ちょ、お前、この部隊はレアル応援部隊なんだぜ?」とわざとらしく驚かれた。「バルセロナはプレーが美しいからね。レアルなんて金で選手集めてるだけだろ」と言い返すと、「そうだ」「そんなことはない」などと盛り上がった。合宿生活をする彼らとの、夕食後の楽しいひとときである。
サッカーでコケた男が携帯で写真を見せてくれた。内戦が始まる前の自分のチームの集合写真だ。反政府側である彼らはみなイスラム教のスンニ派だが、近隣にある政府側のアラウィ派の村から参加していたチームメイトもいたらしい。以前は反政府側も政府側もなく仲良くやっていたのだ。
「今はこいつらとは一緒にやっていないよ。たぶん(政府側民兵の)シャッビーハに入っているんじゃないかな」
こう言って画面を見つめる彼にあえて聞いてみた。
「この彼らはこちらの集落に殺しに来ると思う?」
すると寂しそうに答えた。
「来たらもちろん戦うけど、どうなのかな…」
シリア中部のこの町は周辺に陣地を築いた政府軍から日々、戦車砲や迫撃砲の攻撃を受けている。一方、反政府軍は政府軍の陣地に密かに近づいて兵士を狙撃しているほか、他の地域に出征していくシャッビーハのバスを地雷で吹き飛ばし、機関銃を掃射して追い返す作戦を続けている。
【写真説明】
(1枚目)汎用機関銃を備えて明け方まで政府側民兵の動向を見張るシリアの反政府軍=2012年7月17日
(2枚目)政府軍への狙撃に向かう反政府軍。レアル応援部隊のはずなのにバルセロナのユニフォームを着ている男が=2012年7月17日
安田純平(やすだじゅんぺい) フリージャーナリスト
1974年生。97年に信濃毎日新聞入社、山小屋し尿処理問題や脳死肝移植問題などを担当。2002年にアフガニスタン、12月にはイラクを休暇を使って取材。03年に信濃毎日を退社しフリージャーナリスト。03年2月にはイラクに入り戦地取材開始。04年4月、米軍爆撃のあったファルージャ周辺を取材中に武装勢力によって拘束される。著書に『囚われのイラク』『誰が私を「人質」にしたのか』『ルポ戦場出稼ぎ労働者』
https://twitter.com/YASUDAjumpei
1974年生フリージャーナリスト。97年に信濃毎日新聞入社、山小屋し尿処理問題や脳死肝移植問題などを担当。2002年にアフガニスタン、12月にはイラクを休暇を使って取材。03年に信濃毎日を退社しフリージャーナリスト。03年2月にはイラクに入り戦地取材開始。04年4月、米軍爆撃のあったファルージャ周辺を取材中に武装勢力によって拘束される。著書に『囚われのイラク』『誰が私を「人質」にしたのか』『ルポ戦場出稼ぎ労働者』
ウェブサイト: http://jumpei.net/
TwitterID: YASUDAjumpei
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