大河ドラマ『麒麟がくる』の戦国武将たちに学ぶ、交渉術と組織作りのコツ

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大河ドラマ『麒麟がくる』の戦国武将たちに学ぶ、交渉術と組織作りのコツ

本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻を描く大河ドラマ『麒麟がくる』。「戦国のマムシ」斎藤道三や「戦国最強の梟雄(きょうゆう/残忍で勇猛な人)」松永久秀など、戦乱の世を生き抜いた数々の英傑たちが登場します。

戦国時代を舞台に活躍する武将たちの巧みな交渉術や組織作りの秘訣を、現代のビジネスシーンではどう活かせるか──コミュニケーションのプロである沢渡あまねさんに解説していただきました。

戦国時代のイメージ写真

あまねキャリア工房代表 沢渡 あまねさん

沢渡あまねさん業務プロセス&オフィスコミュニケーション改善士。人事経験ゼロの働き方改革パートナー。日産自動車、NTTデータなどで、広報・情報システム部門・ITサービスマネージャーを経験。現在は全国の企業や自治体で働き方改革、社内コミュニケーション活性、組織活性の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり。著書『職場の問題地図』『運用☆ちゃんと学ぶ システム運用の基本』『仕事ごっこ~その“あたりまえ”、いまどき必要ですか?』『仕事は「徒然草」でうまくいく~【超訳】時を超える兼好さんの教え()』ほか多数。

【1】上司や取引先に新提案のメリットをどう伝える?

明智光秀(長谷川博己)は、村に襲来した野盗が持っていた「鉄砲」という新しい武器に興味を持ちます。聞けば、その武器は京の都にあるのだとか。そこで美濃守護代、斎藤道三(本木雅弘)に、鉄砲を探す旅に出たいと頼み込みます。しかし、なかなかその許可が下りません。さて、光秀はどのような交渉術で、道三から旅費を引き出したのでしょうか。(1話より) 戦国時代のイメージ写真

道三「そなたは旅をして得になることがあろう、だがわしにはこのサンゴほどの値打ちもない!何の得がある!」

光秀「鉄砲を買うて参ります!その大事な金をお預けくだされば、必ずや殿のために鉄砲を手に入れて参ります」

光秀「奥方様がご病気と伺いました。名医にお見せになられてはいかがでしょう。私が京より連れて参ります」

道三「旅のかかり、いくら欲しい?」

相手に刺さるメリットを探ろう【評価】★★★★★沢渡あまねさん

この光秀のやり方は、上司や取引先に新しい提案をプレゼンする時に役立ちます。新しい提案をする時は、上司や取引先のメリットとなりそうなことを想定し、さまざな角度で繰り返し提示し続けることが大切です。

接点を増やし、共通のキーワードを見つけよう

プレゼンや商談で「相手のメリット」を提示する時に大切なことが2つあります。

①日頃からコミュニケーションの接点を増やしておく

相手のメリットとなることを効果的に提示するためには、日頃から上司や取引先との接点を増やし、情報収集を欠かさないことが大切です。この時、光秀は最初、「鉄砲が戦(いくさ)にもたらすメリット」を道三に提示しますが、響いていません。そこで作戦を変更し「道三の正室が病に伏せっている」という情報を生かして、名医を連れてくるという交換条件を出しました。

これは、光秀が日頃、道三やその周囲の人物と接点を持ち、情報収集を欠かさなかったからこそできたことです。相手の公私ともに大切にしていることを四方八方から知り、戦略を立ててみましょう。

②自分と相手に共通するキーワードを見つけよう

自分がどんな仕事をしたくて、どんな趣味嗜好をしているかということを、日頃から上司や取引先に伝えておくとよいでしょう。すると、上司や取引先が興味を持ってくれて、意外なコラボレーションに繋がることがあります。自己開示をすることで、相手との意外な接点を見つけることもできます。

光秀は、道三のメリットになりそうなことをいくつもぶつけますが、なかなか道三に響きません。しかし、「京」という共通のキーワードを見つけたことで、それまで光秀の提案に渋い顔をしていた道三の気持ちを変えることができました。相手と自分に共通しそうなキーワードを、ノートやホワイトボードに書き出して結びつけてみると、気づきが得られることがあるでしょう。

【2】人を動かす組織作りに大切な考え方とは?

主君である土岐頼純(ときよりずみ/矢野聖人)を毒殺し、名実共に美濃を支配した斎藤道三。しかし、その息子の斎藤高政(伊藤英明)は父親の統率力に疑問を抱きます。その思いを、高政は光秀にぶつけました。(3話より) 戦国時代のイメージ写真

高政「戦に勝って、領地を守れば国が治まるわけではない。国を治めるためには、その土地土地に古く根ざした国衆の力が欠かせぬ。父上は彼らを力でねじ伏せてきた。いざというときに、そういうものたちは動かない」

光秀「たしかにこの国はまとまりがない。古い国衆たちが己の領地のことばかり考えてる。昔は土岐家が鶴の一声で、美濃をまとめたという。その代わりを殿が果たしているとはとうてい思えぬ」

オープン型の組織作りが大切【評価】★★★★★沢渡あまねさん

いまや力でねじ伏せるタイプのマネジメントは時代遅れです。本社や経営側によるトップダウン型のマネジメントでは統率しにくい時代になりました。これからは組織内にノウハウを蓄積するオープン型、コラボレーション型の組織作りが大切です。

個性が花開く多様性時代、ビジョンを掲げて共感を得よう

ここでポイントなのは、高政のセリフは「旧来型のトップダウン型マネジメント」について述べており、光秀のセリフが「これからの時代のオープン型マネジメント」について述べていることです。

高政は、「父が国衆たちを力でねじ伏せていた。そういうやり方では、いざという時に動いてもらえない」と言っています。これは旧来型の力でねじ伏せるタイプのマネジメント。こういう方法は、これからの時代むしろリスクにもなりえます。

光秀のセリフにある「この国はまとまりがない」、これは今の時代に置き換えると「多様性」にあたります。様々な国、性別、パーソナリティの人たちが個性を大切にしながら働くさまは、たしかにそれぞれが「己のことばかり考えて」いるように見えるかもしれません。しかしそれは、一人ひとりのメンバーが自分自身を大切にしているということ。とても素晴らしいことです。

組織作りに大切なのは、大きなビジョンを掲げて、チームのメンバーに共有し、共感を得ること。「昔は、土岐家が鶴の一声で、美濃をまとめた」というこの「鶴の一声」が、その組織作りにおいて重要なビジョニングの部分。これからのチームビルディングに重要な、インターナルコミュニケーション(職場の連帯感や信頼関係を高める社内の意思疎通)の一つです。一人ひとりのメンバーの個性を大切にしながら、ビジョンを示して一体感を高めるのが、これからのマネジメントだと言えるでしょう。

【3】人間的魅力や可愛げをビジネスにどう生かす?

ビジネスは正論ばかり言っていてはうまくいかないこともあります。松永久秀(吉田鋼太郎)は、「鉄砲を作ってほしい」という要望を伝えるため、鉄砲鍛冶の伊平次(玉置玲央)を訪ねますが、なかなか聞き入れてもらえません。そんな時、光秀と伊平次が幼馴染だということがわかります。(5話より) 戦国時代のイメージ写真

久秀「お主たちにそういう縁があったとはな。これは天が与えた僥倖(ぎょうこう)じゃ。あの様子では、お主が頼めば、鉄砲20挺、用意するのではないか。そうは思わぬか、頼む。三好の殿にきつう命じられておるのじゃ。鉄砲20挺、どうしても用意せねばならぬ。三淵(将軍奉公衆)などに先を越されたら、わしの立場がない!」

ファシリテーター型マネジメントが欠かせない【評価】★★★★★沢渡あまねさん

松永は今の時代には必要なファシリテーター型マネージャー。何かを成し遂げる際に自分の力を過信したり、独断で物事を進めたりしません。相手が部下や年下でも意見を聞き、積極的に力を借りる。さらに専門家と連携してプロジェクトを進めます。

松永久秀は、戦国時代のファシリテーター型マネージャー

このシーンで、松永は「なんとしてでも鉄砲を20挺用意したい」という自分の目的、つまりプロジェクトのゴールを掲げていますが、それを自分の力だけで強引に達成しようとはしません。鉄砲の専門家である伊平次のもとへ足繁く通って意見を聞き、伊平次に鉄砲の製造を断られても、幼馴染である光秀に伊平次を説得させようとします。誰にどんな役回り(ロール)を任せ、どんなストーリー(シナリオ)でプロジェクトを達成するかを描いているのです。

自分だけで勝とうしたり、答えを出そうとせず、いろんな相手とのコラボレーションを誘発するのが特徴です。自分が手柄を立てることに固執せず、プロジェクトの目的を達成するために必要なコラボ相手を見つけられる戦国時代のファシリテーター型マネージャーだと言えます。

また、ここで大切なのは「松永さんが言うから聞こう」と思わせるだけのチャーミングさ、可愛げがあるということです。自分の弱みや、本音を開示して、「あの人のためなら動こと」と思わせる。その愛嬌が、人のついてくるマネージャーにとって重要なことだと思います。

『麒麟がくる』では旧来型のマネージャーと新時代のマネージャーの両方が登場し、様々な生きざまを見せてくれます。マネジメントの常識を変えていかねばならないという、これからのビジネスにおいてぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。

<番組情報>

『麒麟がくる』(NHK総合 日曜20時/BSプレミアム 日曜18時/BS4K日曜9時 再放送 NHK総合 土曜13時5分/BS4K 土曜8時)

応仁の乱が終わり、人々は飢え、世は荒廃し尽くした時代。その世の中を立て直し、人々を救うのは誰なのか。戦国乱世の幕開けを、明智光秀の前半生を起点にしながら、様々な武将の魅力と共に描く大河ドラマ。脚本は池端俊策、前川洋一。出演は長谷川博己、本木雅弘、吉田鋼太郎、伊藤英明、川口春奈、門脇麦、堺正章ほか

WRITING:石川香苗子

新卒で大手人材系会社に契約社員として入社し、2年目に四半期全社MVP賞、年間の全社準MVP賞を受賞。3年目はチーフとしてチームを率いる。フリーライターとして独立後は、マーケティング、IT、キャリアなどのジャンルで執筆を続ける。IT系スタートアップ数社のコンテンツプランニングや、企業経営・ブランディングに関するブックライティングも手がける。学生時代からシナリオ集を読みふけり、テレビドラマで卒論を書いた筋金入りのドラマ好き。テレビやドラマに関する取材記事・コラムを多数執筆。

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