紛糾する「日韓通貨スワップ 凍結議論」

紛糾する「日韓通貨スワップ 凍結議論」

今回は脇田栄一さんのブログ『ニューノーマルの理』からご寄稿いただきました。

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紛糾する「日韓通貨スワップ 凍結議論」

8月ECB理事会のち、特に大きな材料もなかった事や、個人的に何かと優れなかったため、結果として更新に時間が空いてしまった。何か異変があった、とかそういうわけではありません。失礼しました。

大きな(政策動向などの)動きがなかった欧米にひきかえ、日韓両国は五輪期間中での出来事によって紛糾する事態となってしまった。その結果、経済問題(制裁?)として「日韓通貨スワップ」の凍結・破棄などが叫ばれるようになってきた訳だが、この事(通貨スワップ)を最初に大きく扱ったのは、自民党の片山さつき氏 。自分も、昨年彼女の提言を目にしてから、日韓スワップについてはちょくちょく目を通していた。

細かく話すと長くなるので、以下、日韓通貨スワップの概要のみ。

「日韓通貨スワップ」、と一くくりにされるこの協定、言ってしまえば ①財務省-韓銀のドルウォンスワップ、②日銀-韓銀の円ウォンスワップ、の2つに分けられる。(以下概要)

(1) 06年2月に、日本の財務省-韓銀の間で、「日本100億ドル・韓国50億ドル」(下図)の双方向スワップ取極を締結している。 それぞれの自国通貨を米ドルにスワップすることを可能とした協定。(それ以前は上限20億ドルのドル・ウォン間の一方向スワップ)

(2) 05年5月に、日銀-韓銀の間で「上限30億ドル相当」(下図)の円ウォンスワップを締結。

報道ではザックリと、「昨年10月に130億ドルが700億ドルの増額になった」、とされているが、その130億ドルは上記財務省・日銀-韓銀間でのドルウォン・円ウォンの総額。

昨年10月の増額措置は、財務省-韓銀が新規に300億ドル(総額400億ドル)、日銀-韓銀は上限300億ドル相当としたので、(日銀は)新規に270億ドル相当を増額した事になる。そしてこれらの増額措置は時限措置であり、終了時期はあと2カ月後、12年10月末。

なので、10月に通貨スワップの「延長打ち切り」が世間で言われているが、CMI(チェンマイイニシアティブ)に基づく基本ベースの130億ドルに関しては、10月に終了予定ではない。分かりやすく言えば、10月に終了する予定なのはあくまで「増額措置」の分、今現在報道されている「日韓通貨スワップ700億ドル」のうち「570億ドル」、という事になる。財務省の分(日本100億ドル韓国50億ドル)はよくわからないが、日銀-韓銀の上限30億ドル相当の円ウォンスワップは、「2013年7月まで」と、既に延長合意がなされている。(2010年)

紛糾する「日韓通貨スワップ 凍結議論」

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画像引用元:チェンマイ・イニシアティブに基づく日=タイ間での第3次二国間通貨スワップ取極締結に合意<仮訳>『日本銀行』 PDFファイルより
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2007/un0707c.htm/

すでに大きく報じられている、この措置の(日本政府の)目的は、日本企業の売掛カバーを目的としたもの。日本の対韓国の輸出超過が原因、といった報道も目にするが、ここでは黒字額というより日本企業の売掛に関わる輸出額そのものが重要になる。

JETRO によれば2011年の韓国への輸出総額は5.25兆円との事。増額した総額が5.5兆円(700億ドル)という事で、数字的にはフルカバーした事になる。昨年10月といえば欧州危機が紛糾、「欧州の金融機関が手元流動性を厚くしている」といった事は、このブログでも何度か取り上げているが、その結果韓国から欧州へ資金が逃げ出さないように、日本がいわば「後見人」となった事を意味する。

日韓貿易決済の大部分が日本円で決済されているといわれるが、日銀の円は、手元にある分ではなく、新規に発行する。日銀の新規発行300億ドルを、外貨準備のドルでカバーした訳だが、ウォン安を防ぐには国債決済通貨である米ドルの信用力も必要だった、という事になる。

以上の事を簡単に言ってしまえば、「欧州不安からくる韓国企業の借金踏み倒しを阻止した」という話。 (以下参考:KRW/JPY)

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画像引用元:『Yahoo! FINANCE』
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2007/un0707c.htm/

・日銀による引き出し限度額増額措置は、過去に何度も延長されているが、ウォン相場が落ち着いた2010年の4月には増額措置は一旦終了している。(×マーク)

・赤丸の個所は、増額時期。(日銀-韓銀、08年12月/円ウォンスワップ30億米ドル相当から200億ドル相当に増額、 日銀・財務省-韓銀、130億ドルから700億ドルに増額) 上記チャートからは、ウォン安が進行した場面でスワップ規模が拡大(増額)されている事が分かる。

過去のレートから分かる事は、今回の日韓摩擦問題が生じなければ、おそらく(10月で終わりだったはずの)増額措置は延長されていたものと推測される。なぜなら今現在、一旦終了した増額措置の水準(×印)からは一段下の水準にウォンは沈んだままだからだ。

ちなみに、この増額分についてはCMIのようにIMF融資が義務付けられていない、という事でここが問題(議論)になっている。スワップ総額の20%まではIMF融資と無関係に発動できるが、それを超える部分については、(IMF)融資が義務付けられる、というのがCMIの原則だった。 日韓通貨スワップの増額分については臨機応変というべきか、韓国側がIMF関与を嫌った事に配慮したのだろうが、日本政府はそれも踏まえて、1年間の時限措置にしたのではないか。そしてそれも10月で終了、それ以前に終了する可能性もあるとの事。

この措置はあくまでも日本の債権防衛にあった。当然ながら韓国を防衛するためのものでは無い。(結果的には支援する事になっているが)

残された、CMIを踏まえたスワップ協定130億ドルが、今後どうなるのかは分からないが(恐らく継続されるだろうが)、少なくともこの部分についてはIMFを通している事になる。

ちなみに、「日本側から(スワップは)提案された」、と韓国メディアは報道しているらしいが、日本の財務省によれば昨年10月はじめに韓国側から打診があった、というのが真相のようだ。

韓国側は、踏み倒す可能性を考え「軽い地ならし」でもしていたのかも知れない。仮に韓国が、将来的な「増額分のネコババ」を想定した(日本側から提案という)アナウンスだったのであれば、日本はIMF以上のコンディショナリティ(融資条件)を、財務省‐韓銀のドルウォンスワップに加えればよい。それを相手方が断るのであれば、日本政府は応じる必要は無い。実質的なドル供給を止める事は、韓国経済に一抹の不安を与える事になるだろう。

「一時凍結」なのであれば、直ぐにでもできる。政府は、気兼ねなしにやれば良いと思う。いくら「見せ金」とはいえ、10月を待つ必要も無い。

執筆: この記事は脇田栄一さんのブログ『ニューノーマルの理』からご寄稿いただきました。

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